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「聞き耳立てるなんて、マナーがなってないんじゃないのか?」
キッチンの扉にぴったりと耳をくっつけているステアを見ながら、ケビンは言った。
「しっ!黙ってろ」
ステアは真剣な顔で聞き耳を立てている。
クレイたちが三人で話をしたいと言ってから、ずっとこの調子だ。
「何を心配してんだよ?マーテルもジェナも良い子だぞ。クレイをいじめたりしないよ」
「そんな心配はしていない。今日のクレイはどこかおかしかったんだ。空中散歩にもあんまり喜ばなかったし……。どう聞き出そうかと思案していたところに、あの子たちが来たんだ。何か言うかもしれん」
ステアはブツブツと何かを呟いた。すると、扉が青く光り、透けて見えだした。
「俺は……家族がいなくて、一人きりで……ここに知り合いもいなくて……ケビンはお父さんじゃないし、師匠はお母さんじゃないし……やっぱり、変だよね?」
中の声も聞こえだした。
クレイは今朝からずっと不安そうな顔をしていた。今もだ。
(ああ、ジェナに言われたことを気にしていたのか……)
村の人たちにステアの事を認めさせることに躍起になっていて、クレイの気持ちを考えることを忘れていた。
自分がスラムで暮らしていた事、両親のいない孤児であることを自分の口から言いだすのは、気持ちの良い事ではない。
相手がどんな風に思うかを想像したら……きっと、色々と不安に感じていたんだろう。
会話が進むにつれ、クレイの表情が明るくなっていく。
(さすがマーテル。ジェナも良い奴らだ)
マーテルとジェナは子供たちの中でも年上で、リーダー各であると言っていい。特にマーテルは、3年前に母親を亡くしてからは、一回り大きくなった。悲しみと共に現実を受けいれ、強くなったと、この村の誰もが思った。
ケビンが驚くほど、マーテルは沢山の事を考えていたようだ。
(子供だからって侮れないんだよな……)
ジェナはマーテルよりも子供っぽいが、彼女はそれゆえにまっすぐだ。そこまで信じ切っていて大丈夫か?と心配になる部分もあるが、それは、マーテルやケビンや、他の大人たちが助けてあげられる。
クレイの表情が明るくなり、キッチンから笑い声が聞こえてきた。
「我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか……」
ステアがぽつりとつぶやいた。
「なんだ?それ」
「自分の原点、今、この先を考えた人の言葉だ」
「……今のクレイみたいにか?」
「そうだ……子供は恐ろしいな。たった5歳でこの疑問を口にするとは……」
ステアは真剣な目で、扉に映るクレイを見つめている。
「……そんな大袈裟なもんじゃ無いんじゃないの?ただ、新しい環境に来て、少し不安になってるだけだ。子供だって大人だって、なるときはなる」
「…………どうして私に相談してくれないのだ……」
その言葉に驚きステアを見ると、微かに肩を落として悄然としている。
「私はそんなに頼りなく見えるのか?食事の事もそうだった……やはり、人間の知識不足が表に出ているのか?」
「何言ってんだよ、お前。クレイがお前と一緒に暮らせるってわかった時、あれだけ喜んでたのを見ただろう?泣くほど喜んでたんだぞ。自分の血を吸ってもいいって言いだすくらい、お前はクレイに慕われてるよ」
「……しかし……」
「あれは、クレイの意地だ。ステアにあれだけ頑張ってもらって、ここに住めるようになったのに、弱音なんて吐けるかよ。あいつが頑固で意地っ張りな事知ってるだろう?」
「…………」
ステアはぽかんとした顔でオレを見た。
そういう顔をすると、冷たい印象が一転して、この吸血鬼も可愛く見える。
キッチンから楽しそうな声が聞こえてくる。
「友達ってのはいいもんだよな。同世代ってのは同じものを見ている分、心も通じやすい。オレ達のできない事をやってくれるよ」
「……よし、今度は子供を味方につけるぞ。どうすればいい?人間の子供に受ける事はなんだ?」
ステアの目が爛々と輝きだした。




