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 ジェナとマーテルが、クレイと三人で話したいと言うと、師匠とケビンはキッチンを出て行った。

 「あのね、今日の事を謝りに来たの。ジェナが」

 マーテルがそう言って、隣に座るジェナを見た。

 「ゴメンね、変だ、なんて言って」

 ジェナは申し訳なさそうにそう言った。

 クレイは何と答えていいかわからず、ぽかんと口を開けて二人の女の子を見ていた。

 ジェナはそんなクレイを見てどう思ったのか、もう一度口を開く。

 「あのね、気にしてないんなら良いんだけど……あの時、私、誤解されそうな事言っちゃったから……」

 「この子ね、ケビンさんの事が好きなのよ。だから、あの時、あんな意地悪なこと言ったの」

 マーテルの言葉に、ジェナが顔を赤くする。

 「ちょっと、マーテル!」

 「いいじゃない。みんな知ってるんだし」

 「でも、クレイ君は……ケビンと一緒に住んでるし……ケビンには内緒よ!言わないでよ!絶対よ!」

 ジェナが怖い顔で詰め寄ってくるので、クレイは一心に頷いた。

 「ありがとう。私、クレイ君に両親がいない事を悪く言うつもりは無かったの。ケビンが突然綺麗な女のひとと一緒にいたから、なんかむかついちゃって……」

 「嫉妬よ、嫉妬」

 マーテルがにやにやと笑い、クレイに向き直る。

 「あの時、クレイ君、すごく不安そうな顔してたから、言い訳に来たの」

 「嫌な思いさせて、ごめんね」

 ジェナとマーテルに見つめられ、クレイは少し気恥ずかしくなった。

 「ううん、いいんだ……」

 「よかった」

 二人はそろって花が咲いたかのように笑う。

 「で、でも、あの……」

 クレイは二人の笑顔を見て、思わず口走っていた。

 この話を、ここで終わらせたくは無かった。ジェナたちがクレイの事を変だと思っていない事はわかったが、クレイ自身は「変だ」と感じてる。

 周りと違い、足りないものがあると感じている。

 親がいない事で何かをひけめに感じる必要はない。そんな事ははクレイのせいではない。それはわかっていたが、もやもやしたものはある。

 その気持ちを打ち明けたかった。聞いてほしかった。

 「俺は……家族がいなくて、一人きりで……ここに知り合いもいなくて……ケビンはお父さんじゃないし、師匠はお母さんじゃないし……やっぱり、変だよね?」

 マーテルとジェナが顔を見合わせる。

 「変なわけないじゃない。親を亡くした子供なんて、そこら中にいるわよ」

 ジェナが怒ったようにそう言った。

 「あんたが言っても、説得力無いわよ」

 マーテルにそう言われ、うっと詰まっている。

 「変じゃないよ。でも、不安だよね」

 マーテルが優しい声でそう言ってくれた。

 「わかるよ。私はお母さんがいないんだ」

 マーテルの言葉に、クレイは驚いて顔を上げる。

 「お母さんが死んじゃった時、お父さんまで死んだらどうしようって、すごく不安になったよ。私は一人きりになって、誰も助けてくれる人がいなくなっちゃうって想像したら、すごく怖かった。近くに親戚の人がいたけど、それでも怖かった。知らない土地に来たクレイ君は、もっと怖いよね」

 クレイは頷いた。

 マーテルが、クレイの気持ちを言葉に表してくれた。

 そう、不安なのだ。

 これからどうなるのだろうという不安。

 周りと違う自分は、色々と大丈夫なのかという怖さ。

 師匠と出会った時は、生きていくために必死だったため、これからの事などあまり考えもしなかった。

 しかし、この村に住むことが決まって、ご飯を沢山食べるようになって、ケビンや師匠と一緒に毎日を過ごすようになって、少しだけ周りの事が見えるようになってきた。

 見るようになると、自分と周りの人たちの違いも見えてくる。その中で生まれたもやもやに、今日やっと名前が付いた。

 「ミルドレッド先生も、最初は不安だったんだって。先生の故郷はここからすごく遠くて、この村には知り合いもいないのに、先生として来てくれたの。最初は、村の人たちと仲良くできるか心配だったって。誰も助けてくれなかったらどうしようって思ってたんだって。私、ミルドレッド先生からこの話を聞いた時、一人になったらどうしようって不安になった気持ちと似てるなって思ったの」

 マーテルの言葉を聞いて、クレイはミルドレッド先生を思いだす。あんなにも明るくて、優しそうな大人でも、ここに来たときは不安だったのだ。

 (不安で良いのか……)

 そう思ったら、少しだけ心が落ち着いた。

 「でも、不安になることなんてないじゃない。ステアさんとケビンがいるんだから」

 ジェナが、首を傾げてクレイを見て言った。

 「ケビンはすごく強いのよ。前、どこからか飛んできた魔獣が、村に出たことがあったけど、剣でずばっとやっつけちゃったの!すごいんだから!クレイのことだって、守ってくれるわ。不安になる事なんかないわよ」

 「そういう事じゃないのよ、ジェナ。この不安は、もっとこう……自分が誰でどこから来たのか、これからどこへ向かうのか、っていう哲学的なところから来る不安で……」

 「マーテルは難しいことばっかり考えすぎなの。マーテルはマーテルで、クレイはクレイでしょう?あんたたちはここにいて、ここで暮らすの。この村の人たちは良い人ばかりで、平和じゃない。不安になることなんかないわ。マーテルが一人になったって、私たちが助けるわよ。その逆も然り」

 ジェナは、当然とばかりに言い切った。

 「両親が死んじゃったのは悲しいけど、だからって、周りを疑う事ないじゃない。私たちは村っていう協同体よ?」

 「ふふ、ジェナはとっても純粋」

 「もう!馬鹿にしてるでしょう!」

 「してないわよ。羨ましいって言ってるの」

 マーテルはそう言って微笑み、ジェナはそんなマーテルを疑惑の目で見ている。

 クレイはそんな二人を見て、自然と笑顔になった。

 マーテルがクレイと同じ不安を持っているとわかり、少しだけ心が軽くなった。自分だけではないという事が、これほど救いになるとは思わなかった。

 そして、ジェナの言葉を聞き、あんまり深く考えなくてもいいのかもしれないと思った。クレイが孤児であることは、変えようのない事実だ。しかし、この村の人たちがジェナの言うように良い人達だと言う事も、また、事実なのだろう。ケビンと師匠がクレイの事を守ろうとしてくれていることも、事実だ。

 「ミルドレッド先生ってね、すごく良い先生だよ。不安があったら、先生に相談してみるといいよ」 

 マーテルが、そうアドバイスしてくれた。

 「私たちだって、話聞くわよ。何でも聞きなさい。この村の事は誰よりもしっているんだから」

 ジェナも、胸を張ってそう言ってくれた。

 「うん、ありがとう」

 クレイは、感謝を込めて二人にお礼を言った。

 気持ちが軽くなったおかげか、一日ぶりに空腹を感じて、お腹がぐうっとなった。


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