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 「私の授業はそんなに眠たいか!?ええ!?」

 「悪かったよ、寝ちまって。でも、お前の話むずかしーんだもん……」  

 学校が終わり、オレとステアとクレイは古城へと戻った。クレイは文字を覚えるための教科書を貸してもらい、今はそれを手本に字の練習をしている。

 ステアは、子供たちが全員退屈して寝てしまったことにショックを受け、しばらく落ち込んでいたが、今は怒りが噴出していた。それをオレにぶつけている。

 「難しいとは何だ!あれだけ噛みくだいて話をしたのに!」

 「いや、難しいよ。古代文字とか記号にしか見えないし……」

 「しかし、魔法を使うには古代文字を読むしか方法は無いんだぞ!」

 「それはわかるけどさあ……まあ、いいじゃねえか、良い生徒がもう一人見つかったんだから」

 ミルドレッド先生の事だ。先生は本当に魔法に興味があったようで、ステアの退屈な授業のあと、クレイを押しのけて質問をしていた。

 子供たちは気持ちよく眠っていた。

 「うむ、彼女は素晴らしい生徒だった。そして、良い教師だ。社会の授業はとてもためになるものだった」

 ステアはそう言って頷いた。

 ステアの授業で気持ちよく睡眠をとった子供たちは、その後のミルドレッド先生の授業は集中して聞いていた。

 ミルドレッド先生の授業は、オレも起きて聞いていたが、なかなか面白い。

 ただ、話をするだけでなく、生徒たちに質問し、時には話し合いをさせて、興味を失わせないようにしていた。時々、ジョークを挟んだり、ためになる話をしたりするおかげで、授業の時間はあっという間に過ぎる。

 「子供は面白いことしか聞かないからなあ……ミルドレッド先生は上手だよなあ」

 「うむ、あのやり方は参考にしたいものだ。まあ、うちのクレイには必要ないかもしれないが」

 誰に言われなくても、予習復習に真剣に取り組むクレイを見て、ステアは嬉しそうに微笑んでいる。

 「しかし、学校とは短いものだな。昼までとは……」

 「仕方ないさ。子供たちも家の手伝いをしなきゃならない。農家の繁忙期なんか、学校に来れない子もいるんだぞ」

 「……食べなければ生きていけないからな。仕方ないとは思うが……それでも、少なすぎる……文字をきちんと書けない子も多いじゃないか……」

 ステアは不満そうに腕組みをした。

 そう、都会を知っているステアとオレだからこそ感じることだが、この村の教育は不十分だ。一番年上のジェナでさえ、まだ、きちんと読み書きができない。ローワン達3馬鹿トリオなど、書ける文字を数えた方が早いくらいだ。

 「図書館の揃えが悪い。本も破れたり、汚れたりしているものが多いし……」

 「それは仕方ない。本は高いからな。そうそう出回るもんじゃないし、この村全員で大事に読みまわしているんだ」

 「……くう、世界はもっと広いのに……」

 ステアがもどかしそうに呻いた。

 「あん?」

 「今日、子供たちと話をしてみて、わかった。彼らの世界はこの村で終わってしまっている。都に行ったことがある子でも、そこまでだ。海も砂漠も、空気が薄くなるほどの高い山がある事も知らない。おとぎ話くらいにしか思っていない」

 「……まあ、そうだろうな。この村から出たことも無い子がほとんどだし……」

 「そうだ!だから、勉強に身が入らない。将来、この村で両親がやっている仕事をすること以外に道は無いと思い込んでいる。そんなことは無いのに……」

 ステアはクレイを見る。

 机に向かいながら、一心不乱に羽ペンを走らせている。

 「子供の成長は底なしだ。自分が欲しいと思えば、いくらでも知識を吸収できる。だから、新しいものを見聞きできない状態というのは、とてももったいない」 

 「……そうだな」

 ステアの話を聞きながら、オレは自分の子供の頃を思い出していた。

 オレの世界もこの村だけだった。当時はそれがいかに狭い世界かなんて、気づいてもいなかった。

 気づかせてくれたのは、この村にやって来た行商人だった。彼らから外の世界の話を聞き、いつしか行ってみたくなったのだ。

 「お前はどうして、冒険者になったのだ?この村から自分の足で出たのだろう?」

 オレの頭の中を覗いたかのような質問が来た。

 「……儲かるって聞いたからな」

 「金目当てか?」

 「金と言うよりは、楽目当てだった」

 「楽?」

 ステアが怪訝そうな顔をする。

 「農業ってさ、お天気次第なんだよ。お日様の気分次第で、育ちが良くなったり悪くなったりする。それに振り回されるのが嫌で、金持ちになれば楽に暮らせるかなあ、とか思って……両親もさ。腰を痛めながら働かなくてもよくなるんじゃないかと思ってさ」

 「…………そう言えば、お前の両親は?」

 「死んだよ、オレが大金抱えて戻ってくる前に。二人ともたちの悪い風邪でぽっくりと」

 「…………」

 「楽をさせてあげられるはずだったんだけどなあ……どうしてこうなっちまうのか……」

 冒険者として稼いだ金は、家の金庫にしまってある。オレは家と農地を譲り受け、両親が大切に守って来た土地で農業をやりながら、暮らしている。

 時々、不作に悩まされることもあるが、十分に生活できている。

 あの金は、いつか、必要な時に使えばいいと思っている。

 「……人間とは不便な生き物だな」

 「だよな。というか、世界が広すぎるんだよ。この村の人間には、この村の狭さがちょうどいいんじゃないのか?世界の広さばかり追いかけていると、自分の居場所を忘れちまう」

 「…………うーん……まさかこんなことで悩む日が来るとは思いもしなかった……」

 ステアが腕組みして、天を仰いだ。

 「世界を見せるべきか、否か」

 ステアは呟く。

 ステアは翼を持っている。きっと、オレよりももっと広い世界を見聞きしているはずだ。

 広い視野を持つことは、ステアにとって当たり前のことで、きっと、人間の子供たちにとっても良いことだと感じているのだろう。

 オレも悪いとは思わない。実際に見てきたのだ。

 ただ、人間は吸血鬼とは違い、移動範囲が限られる。

 オレのように、大切な人の死に目にも会えない事になった時、子供たちはどんなふうに感じるのだろう?

 広い世界を知ったことを、後悔するのだろうか?

 村から出て、家族をないがしろにしたと、自分を責めるだろうか?

 貧しくても、苦しくても、家族と支えあって生きれば良かったと、悔しい思いをするだろうか?

 オレはそう後悔した。

 しかし、この村の外に出たことを、見る世界を広げたことを、悪いことだとも思えない。

 ただ、人があっけなく死んでいく事を忘れていた事だけは、後悔している。


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