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 古城に戻ると、オレは緊張が一気に解け、大きく息を吐いた。

 「なかなか、うまくいったのではないか?」

 美女の姿のまま、ステアが言った。クレイはステアの顔を見上げ、不安そうな顔でオレを見る。

 「まあ、そうだと思うよ。少なくともクレイは引き取ってくれるだろうし……」

 「私の面会くらいは許してくれそうだな」

 ステアは楽しそうに肩にかけられたケットを撫でる。

 「人の優しさとは嬉しいものだな。あのスープもパンも美味しかった。ここは良い村だ。ここならば、良い生活ができるだろう。そう心配するなクレイ」

 ステアにそう言われても、クレイの表情は晴れなかった。

 ステアの傍から離れず、ぴったりとくっついている。

 「一緒にいたいです、師匠……」

 絞り出すような声は、今にも泣きだしそうだった。

 「大丈夫だ。たとえ、この村を離れることになっても、私はお前の傍にいる。ケビンもウォルバートン先生もいてくれる。魔法の勉強も続ける。約束だ」

 「……はい」

 クレイの目から涙が一滴、零れ落ちた。



 その夜、ウォルバートン先生と村長と領主が古城へとやって来た。

 古城が綺麗に再建されているのを見て、村長も領主も驚いていた。

 三人に話を聞くと、やはり、一番のネックはステアが吸血鬼である事だった。

 「君がこの村に住むとして、食事はどうするつもりなんだい?」

 村長は率直に質問してきた。

 村人の中にも、そこに疑問と恐怖を抱いている人間がいる。助けてあげたいけど、やっぱり怖いというのが、話し合いの結果だったそうだ。

 「私は、この村の人たちを襲うつもりはありません。食事は他でします」

 ステアがそう言っても、それで済む問題でもなかった。

 「他と言うのはどこだね?この村の近くには、いくつか似たような集落がある。そこで吸血鬼騒ぎが起きると、やはり、問題は起きるんだ。都から兵隊や魔法使いがやって来て、大騒ぎになるかもしれないし、この村の人間だけが襲われない事を疑問に思う人も出てくるかもしれない。下手したら、君を匿っていることが発覚して……」

 村長たちの恐れは尤もだった。そこまで考えが及ばなかったオレは、思わず「ああ、それがあった……」と呟いた。

 吸血鬼騒動がひとたび起これば、恐怖は近隣の村に伝播する。恐れを抱いた人々は、吸血鬼を殺せと騒ぎ立てるだろう。

 この辺り一帯に恐怖が蔓延するのだ。

 「ちょっと質問なんだがね……」

 ウォルバートン先生が口を開いた。

 「吸血鬼というのは、日にどれくらいの血を必要とするものなのかな?」

 「週に一度、コップに一杯ほど吸えれば十分事足ります」

 「……つまり、献血一回分ほどという事か。なんだ、割と少ないんだねえ」

 「はい。私たちはそれほどの血は必要ではありません。一カ月くらいなら血を吸わなくても生きられます。お腹は空きますが……」

 「その……血を吸われる人間は痛みを感じるのかな?殺すことは無いんだろう?」

 「はい、私たちも騒ぎが起こるのは嫌なので、魔法で眠らせたり、催眠術で記憶をなくしたりします。痛みはあるとは思いますが、これまでの経験から言いますと、それほどの事ではないかと……」

 「ふむ……それならば、ケビン君はどうかな?私でもいいけど」

 「え?なにが?」

 オレは嫌な予感がして、思わず聞き返す。

 「血を吸われる人間だよ。いっそのこと、私たちからしか吸わないから安心しろと言う方が、村人たちも安心するんじゃないかと思ってね」

 「まあ!」

 ステアは驚きの声を上げた。少し嬉しそうだ。

 「俺も!俺も吸っていいよ!師匠!」

 クレイも手を上げ、ピョンピョンと跳ねる。

 「子供はダメだ。子供の血は私たちには栄養にはならないんだ」

 「……そうなの?」

 「そうなのだ。せめて、思春期を過ぎて、血の味が変化しなくなるまで待たないといけない」

 「それは、子供の成長中の血が君たちの体には合わないということかい?」

 「おそらくは。だから、私たちは成長した人間からしか血は頂かない」

 「ほお、面白いねえ……でも、それなら、僕とケビン君は大丈夫だろう?」

 「そうだな……まあ、この際、贅沢は言っていられないか……」

 ステアが大きな目でオレとウォルバートン先生を見る。その目つきは、明らかに捕食者のそれだった。口唇が開き、白い歯と赤い舌がちらりと覗く。 

 絶対に今、獲物として見られている。

 蛇に睨まれたカエルはきっと、こんな気分を味わっていることだろう。

 村長たちもそれを感じたらしく、二人の体が一瞬強張るのが見えた。

 ステアはそんな二人を落ち着かせるように、ふわりと微笑んだ。

 「わかった、約束しよう。この村に滞在する間、私はケビンとウォルバートン先生から血を頂くことにする。それ以外の人間を襲う事は一切ない」

 ステアの言葉に、村長と領主は安心したように頷いた。

 

 こうして、ステアとクレイは村に住むことを許された。

 オレは正直不満たらたらだったが、クレイが泣いて喜ぶのを見てしまっては、噛まれるのは痛いから嫌だとは言いだせなかった。



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