17
白いを通り越して、青白い肌。
まるでクモの糸のように細く、今にも日の光に溶けてしまいそうな金の髪。
庇護欲をそそりそうな、まなじりの下がった大きな瞳、血の気の薄い唇。
今にも折れそうなほど、細い体つき。
ステアは、変身の魔法を使い、見事なまでに「弱そうな女性の吸血鬼」に変身してみせた。
異様に美しいその姿は、明らかに人間ではない。ステアがひとたび口を開けば、その小さな唇の奥に、吸血鬼特有のとがった牙が見える。
「どうだ?」
声音まで変わっている。
弱弱しく、美しいが、張りが無い声。
確かに見た目だけは弱く見える。
「いいね!さあ、クレイ君、隣に並んで手をつないでごらん」
ウォルバートン先生の指示通りに、クレイが隣に立ち、ステアと手をつなぐ。
「いいじゃないか!スラム街の可哀想な少年を見捨てることができず、保護し、この村に流れ着いた心優しい吸血鬼!女性ってのがまた良い!人間社会では、女性は母性本能の塊っていう思い込みがあるからね。これは僕に言わせれば、子育てと仕事を分業するための男の悪知恵に過ぎないんだが、まあ、それは置いておくとして……絶対に村の人たちは、君たちの姿に胸を打たれるよ!ステア君がその弱弱しい声で、「どうかこの子を助けてください」と訴えれば、少なくとも女性陣は話を聞いてくれる」
ウォルバートン先生は、笑顔でそう言った。
「しかし……吸血鬼である事には違いないのだぞ。本当にこの程度の変身と演技で騙されるものなのか?」
ステアは納得していない様子だ。
「人間、視覚から来る情報に惑わされるものなんだよ。それに、君がクレイ君を助けたのは事実だ。子供を守る人をないがしろにするような人間は、この村にはいない。私とケビン君とクレイ君で、その事実をしっかり伝えれば信用は勝ち取れる」
「オレ達は嘘をつく必要が無いってのも良いよな。ありのままを喋ればいいし」
オレはウォルバートン先生の思いつきに感心しながら言った。
作戦はこうだ。
オレがステアとクレイを連れて、村へ行く。まずは、村長の元へ行き、ステアとクレイを紹介する。ステアが吸血鬼であることも含めて。
おそらく、そこで大騒ぎになるだろう。下手したら村の皆がやって来る。すくなくとも、野次馬根性のある人間は詰めかけてくる。
そこで、ステアが村人たちにクレイの生い立ちを話し、できるだけ涙を誘う。これには、オレとウォルバートン先生も証言を加える。
ステアとクレイが森の古城にこっそりと隠れ住んでいたことも話すのだ。オレとウォルバートン先生がそれを助けていたことも。
子供たちが見た大蝙蝠がステアであったことも全て話す。
その上で、ステアとクレイをこの村においてほしいと願い出る。
「その時に、ステア君は一歩引いてほしいんだよ。私の事はいい、出て行けと言われるなら出て行くと言ってほしい。無理にこの村に居座る気は無いと告げるんだ。ただ、クレイの事が心配だから、時々会いに来ることだけは許してほしいと訴えてくれ。この子は一度死にかけた。どうしてもそれが頭から離れず、心配なのだと」
「……なるほど、人間の子供を心配する吸血鬼を演じるわけか……」
ステアは先生の言葉に頷いた。
「もしかしたら、一度、出て行けと言われるかもしれない。その時は一旦引いてくれ。僕とケビン君とクレイ君で頑張るよ。ステア君がどれだけクレイ君を助けてくれたかを吹聴するんだ。次の面会の時までに、とにかくステア君を受け入れる環境を整えておく。そうすれば、また、一緒に暮らせるよ」
先生の言葉に、クレイは真剣な顔をして頷いた。
スラム育ちのクレイは、人間の本性というものを良く知っている。相容れない者ははじき出されるのだと、身をもって理解しているのだ。
「師匠、俺頑張ります!村の人たちに、師匠は良い人だってわかってもらいます!」
「ありがとう、クレイ。私もやってみよう。涙を見せるくらい、なんとかなる」
ステアもクレイもやる気満々だ。
四人で簡単に打ち合わせをして、クレイに少しだけぼろの服を着せてから、オレたちは村へと出発した。
村に入ってからは、ウォルバートン先生の予想通りに事が進んだ。
やはり、ステアの外見は人目を惹くらしく、村の道を歩いているだけで、野次馬が寄って来た。
美しいが、どこか禍々しさのあるその顔に、男も女も、老いも若きも近寄れず、遠巻きにオレ達を眺めていた。
村長宅に着くころには、すでに領主までもが到着していた。耳の早い人間が知らせに行ってくれたのだろう。
オレとウォルバートン先生が事のあらましを話した。ステアとクレイは、それを静かに聞いていた。
ステアの演技は素晴らしかった。クレイの手を片時も離さず、時折不安そうに村人たちに視線を送る様子は、どう見ても人を襲うような吸血鬼には見えない。喧嘩になれば、子供にだって負けてしまいそうな様子だ。
その姿が憐れみを誘ったのか、女性の一人が寒そうなステアの肩に、ケットを羽織らせてくれた。その女性行動が引き金になったのか、立ったままでは辛いだろうからと椅子が用意され、何か温かいものが欲しいかと聞かれ、クレイがお腹がすいていると言うと、パンとスープが用意された。
クレイと嬉しそうにスープをすするステアの姿を見た村人たちは、クレイがスラムで死にかけた話を聞くと、一斉に目に涙をにじませた。
(あ……なんか、すっげー罪悪感……)
嘘は言っていないのだが、村人たちを騙している気がして、オレの胸はずきずきと痛んだ。
どうか、ステアとクレイをこの村に住まわせてほしいと訴えると、やはり、村長と領主は不安そうな顔をした。
そこでステアが立ち上がり、打ち合わせ通りに「クレイだけでも……」と訴える。声を震わせ、クレイの事が心配なのですと告げるさまは、オレでさえ涙を誘われた。涙もろい村人たちの中には泣いている者もいた。
「私には少しだけ財産があります。お金の面では苦労はさせません。この子を引き取ってくださるのでしたら、この村に私の持つ宝を差し上げます」
ここまで言うと、村人たちからはかなり好意的な視線が送られるようになった。
吸血鬼が金銀財宝をため込んでいるという噂はどこにでもある。かくいうオレも、昔、ステアのそれを奪い取るために、ステアに喧嘩を売ったのだ。
村人たちからは、「良いじゃないか、この人は悪い吸血鬼じゃなさそうだよ」とか「スラムの子を助けてあげるなんて、そうそうできることじゃないよ」という声が上がった。中には決断できない村長たちに怒りを抱いて「こんな可哀想な女性と子供を放り出す気かい!?」と怒鳴る人まで出てきた。
やりすぎたと思ったオレは、慌てて仲裁に入った。
「少し考える時間が必要でしょう?彼女とクレイはオレが見ています。森の古城にいますから、決まったら教えてください」
オレがそう言うと、村長と領主は助かったという顔をして、頷いた。
オレが促すと、ステアとクレイは村の人々に一礼してから、村を出た。




