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 「なるほどねえ……それは、難題だね」

 ウォルバートン先生は、オレとステアとクレイの話を聞いて、苦笑した。

 オレ達は三人で、ウォルバートン先生の診療所に押し掛けた。

 患者さんがいない時間帯を見計らい、美味しい昼飯を持参でやって来たのだ。ウォルバートン先生は、喜んで昼飯をごちそうされてくれた。

 「いやあ、それにしても、このパンは美味しいねえ。紅茶も一級品だ」

 先生はステアが各所から集めたパンが気に入ったらしく、口ひげをパン屑だらけにして食べている。

 「そうであろう、そのパンは北にある島のパン屋が作ったもので、バターの材料である牛の乳が他のと違い……」

 「今は、それ、いいから」

 始まると止まらないステアのパン蘊蓄を止めて、オレはウォルバートン先生に向き直る。

 「どう思いますか?オレがステアの傍に張り付いていることで、村の人たちは安心してくれるでしょうか?」

 「うーん……半分くらいは安心してくれるだろうけど……やっぱり、怖がる人はでるだろうねえ」

 ウォルバートン先生は上品にナプキンを使いながら、そう言った。

 「クレイ、テーブルに肘をついて食べちゃいけないよ」

 一緒にテーブルでパンを食べているクレイに注意する。

 「そう、背筋を伸ばして。食べにくいときはお皿を手前に引くんだ」

 クレイは言われたとおりに居住まいをただす。

 それを見て、ステアが尊敬の目を先生に向ける。

 「やはり、学校は必要だ。私にも必要なのだ。何とかして行けないものか……」

 「学校じゃあ、こういうことは教えないよ。こういうマナーは家で両親が教えるんだ」

 「くう!私にも、皿とナイフとフォークを使って食事をする習慣があれば……!クレイに教えてやれるのに!!」

 「僕が教えてあげるよ。二人にね。こういうパンをごちそうしてくれれば、いつでも」

 「本当か!?是非頼む!良かったな、クレイ」

 「……はい」

 クレイは食事のマナーにはあまり興味が無いようだった。オレも無い。

 無いが、他人に食べ方が汚いと思われるのは嫌なので、オレもまた居住まいをただす。

 「ああ、そうだ。村の人たちにもこういうパンや美味しいものをご馳走してあげればいいんだよ。君、吸血鬼なんだからそこそこ財産あるんじゃないの?綺麗に修理したあのお城でパーティーでも開けば?美味しいお酒をふるまえば、村の人たちの心も開くかもよ?」

 「ふむ、パーティーか。それはいい案だ。美味しい酒なら任せろ」

 「できるだけ村から食材を調達しなよ。そうすれば酒屋も食料店も儲かる。商売人はそれで落とせるから」

 「ほう。考えてもみなかったな……」

 「当日は、何人か手伝いを雇うのもいい。突発で美味しい仕事にありつけると、嬉しいものさ」

 ウォルバートン先生は、ぽんぽんとアイデアを出してくれる。ステアは一つ一つに感心しながら聞いている。

 「まあ、あんまり凝ったものにはせずに、砕けた、気安いものにしなよ。その方が角は立たない」

 「角?どういうときに角が立つんだ?」

 「そうだねえ、どう頑張っても、この村の人には買えないようなものを使ったりした場合かな。ここは良くも悪くもみんな平坦だからねえ。取り立て貧しい人もいないけど、高級なものを持つ人はいないんだ。そこに、金のかかったものが突然現れると……あんまり想像したくないけど、色んな感情が吹き荒れるだろうねえ」

 「……そういうものか……」

 ステアはクレイを見る。

 「こういう服も、角が立つのか?」

 「そうだね。この村にこんなに良い服を着た子供はいないよ。妬みの対象になる」

 先生の言葉に、ステアはオレを見る。

 「そういう意味だったのか?もっとぼろいものを着せて行けと言うのは」

 「まあ、そうだな。それもあるけど、子供は外で遊ぶから、綺麗な服着ても汚すだけだよ」

 「そうか……」

 ステアは眉間に皺を寄せて考え始める。

 「あんまり難しく考えることは無いよ。ケビン君がいるじゃない。教えてあげるでしょう?ケビン君」

 「え、まあ……」

 「何かするときは、ケビン君に相談すればいいんだよ。何かしでかしたとしても、ケビン君ならうまくフォローしてくれるって」

 そういって、先生はオレの肩にぽんと手を置く。

 (あんまり頼られても困るが……まあ、ステアならすぐに慣れるだろう。頭良いし)

 オレはそんな事を考えながら「任せろ」と答えた。

 「ところで、人間に化けることはできないのかい?君、魔法が使えるんだろう?」

 先生の言葉に、ステアは「できる」と頷いた。

 「え!?できるの!?なんだよ、それなら簡単じゃないか!こんなに悩んで馬鹿みてえ!」

 オレは立ち上がって叫ぶ。

 ステアが人間に化けられるなら、村人たちへの説明やパーティーは必要ない。

 引っ越してきましたと挨拶するだけで事足りるのだ。

 「できるが、お断りだ。私は吸血鬼だ。人間に化けて周りを騙す気は無い」

 「なんで!?人間に化ければ、問題なんて一発で片が付くぞ!」

 「冗談じゃない。吸血鬼であることは私の誇りでもあるのだ。必要もないのに、人間になどなれるか!」

 「なれよ!今はそれが必要なんだよ!」

 「断る!」

 オレとステアが睨みあっていると、先生が「まあまあ」と割って入ってきた。

 「やりたくないって言うのなら仕方ないよ。それに、人間に疎いステア君が、こんな小さな村で人間のふりしても、うまく溶け込めるとは思えない。絶対にぼろが出て、村中から不審な目で見られるよ」

 先生の指摘はもっともだったので、オレは「確かに……」と黙った。

 「だけどさ、ちょっとした変装くらいならいいんじゃない?吸血鬼のままで」

 ステアとオレは同時に「どういう意味?」と尋ねる。

 「僕もだけど、やっぱり吸血鬼は怖いってイメージがあるからね。特にステア君の外見は、物語に出てきそうな吸血鬼の姿そのものなんだよ。背が高くて、痩せてて、青白い肌をしていて、目は吊り上がり気味の美形で、とがった牙を持っている。おまけに耳も尖がっているね」

 先生がステアを上から下まで見回しながら言った。

 「だから、もう少し怖くない外見にしてほしいんだよ。例えば……僕にでも倒せそうな、柳のような嫋やかな美女とか……」

 ウォルバートン先生は、悪戯っぽい表情でそう言った。


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