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 店を出たオレは、大急ぎでクレイの元へと走った。

 真面目で、頑固で、まともにご飯を食べれなくても、苦しいとさえ言いださなかったクレイ。

 さっきの話を聞いていて、あいつができるやつだからという理由で放り出しておくのはまずいと感じた。

 どんなにしっかりしている子でも、子供は子供だ。放置しておいてはいけない。

 一人でご飯を食べさせちゃいけない。

 っていうか、5歳児をあんな暗い森の古城に一人で留守番させちゃダメだろう、オレ!

 オレは大慌てで古城へと戻った。     

 城の中はほとんど明かりが落ちていて、暗かった。キッチンを見たが、クレイはいなかった。テーブルの上に布巾のかけられた皿が置いてあり、何かと思ってめくってみたらパンとサラダだった。

 明らかにオレ用だ。

 「…………あいつは本当に子供か?」

 オレは自分が恥ずかしくなって、思わず両手で顔を覆ってしまった。

 キッチンを見回すと、だいたいは綺麗に片づけられていた。片付いていないところは、クレイの目線が届かない高い場所だ。

 そう言えば、今日、魔法で掃除をしていた時も、高い所にある窓までは掃除できていなかった。

 (当たり前だ。子供なんだから。窓の桟にほこりがあっても、見えなきゃ気づかない)

 何故か、こいつならできるだろう、気づくだろうとか思っていた自分がいて、恥ずかしい。

 ステアはどうなのだろう?子供特有の見えない場所、気づかない場所というものを知っているのだろうか?

 静かに廊下を歩き、クレイの部屋まで来る。

 「クレイ、起きてるか?」

 扉越しに声をかけるが、返事は無い。

 そっとドアノブを回し、扉を開けると、クレイのベッドに膨らみがあり、枕元に青い光があった。

 足音を忍ばせ、部屋に入り、ベッドを覗き込むと、クレイは眠っていた。

 ちゃんと毛布と布団をかぶり、温かくしている。

 足元を触ると、湯たんぽを使っていることがわかった。

 衣装箪笥を見ると、箪笥の取っ手に今日着ていた服がハンガーで吊るされている。

 オレ、いる必要あるのかな?という考えが、またもや浮かんできたが、慌てて振り払う。

 こいつは頭が良い。

 ステアが感心するくらい、弟子にするくらい出来が良いんだ。

 でも、子供だ。忘れちゃいけない。

 ふと、クレイの勉強机が目に入った。

 ベッドと一緒にステアが用意したもので、新しいインク壺とペンも置かれている。

 魔術の本と料理の本、クレイの字の練習用の紙が置かれていて、紙にはびっしりと字が書かれている。

 (練習したんだな)

 ほのかな光で紙に書かれた字を覗き込むと、それには今日、オレがクレイに教えた手紙の文章が書かれていた。

 『師匠、お元気ですか?僕は元気です』

 『毎日いっぱい食べています』

 何度も書いて練習している。

 手紙に書く文体は、特に目上の人に宛てて書く手紙には『です、ます』で統一した方がいいと教えたのだ。  

 壁を見ると、まるでお手本のように、オレが書いた文章が張られていた。隣にステアが書いたものもある。

 机の上には、針と糸も置かれていた。オレが今日、クレイにプレゼントしたものだ。

 その傍に、おそらくやり方を絵で描いたのだろう。ボタンと糸と針と思われるイラストが描かれた紙があった。『少し浮かせる』とか、『糸をぐるぐる巻く』という文字も書かれていた。

 オレはそれらを見て、なんだか無性に嬉しくなってしまった。

 (よし、何が何でも学校に通わせよう。あと、ノートを買ってきてやろう。その方が、後で見返せるだろうし……)

 クレイの寝顔は、年相応に幼かった。

 起きている時は、魔法の練習をしているか、文字の練習をしているか、家事をしているかなので、大抵クレイの眉間にはしわが寄っている。

 穏やかな表情が珍しくて、オレはクレイの前髪をかきあげて、その顔を覗き込む。

 規則正しく上下する胸の動きが、妙に幼く見えた。

 (可愛いところもあるもんだ)

 クレイのようなしっかり者が、オレの意見を参考にしようとしてくれている。

 それは、妙にくすぐったい事だった。


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