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無題  作者: ねろ
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癒着

人智を遥かに凌駕する人体改造を施された──単に経歴と呼ぶのも憚られるほどに異色にして異質な経歴を持つ«四面平等(アンフェア)»・左右田 上下。

彼は«蠍»という組織に属する楸 銘天という側面を持ちながらも、それを完璧に無視した上で、気絶した山茶花姉妹と«存在王»こと華道 林檎を解体しようとしていた。


「──────待てよ」


「ン〜〜〜〜?何かな何かなァ?」

彼は視線をこちらに向けることなく、メスを構える手を止める向きすらない。


「『止まれ』っつってんだぜ、この野郎ッ!!」

僕は背後から前のめりになって跳躍し、一瞬にして距離を詰める──そのまま携えたナイフを頚椎へと突き刺そうとしたが、その行動も虚しく止められてしまう。

何をされたのかと言われれば、さして誇張するほどでもない──ただ単純に、ナイフを握っている方の手首を掴まれただけだ。しかし何故か、僕の身体の勢いはそれだけで呆気なく殺されてしまう。


「あのさァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」


「いい加減にしろよねェ〜、せっかく心優しき僕の全てを包むような温情で生かしてやってあげてんだからさ・・・」


「大人しくしてろッ!!」

豹変したような怒号と共に、裏拳が僕の鳩尾に強く打ちつけられた──尤も、彼は背後から襲撃した僕の方を見向きもしていない。

心底呆れ返ったような大きな嘆息一つを耳に聞きながら、遠く吹っ飛んだ僕の身体はやがて勢いを失って地と激しく擦れた。


「あのねェェェ〜〜〜・・・・・・何よ?洞木ってヤツの解毒だっけ?仕方ない、そんなに欲しいならくれてやるよ──────」

左右田は長い脚で動かない僕を踏みつけ、そして不相応な冷笑を浮かべてからそう言った。

そして小さなカプセルを指先に挟み、手刀を大きく振り上げる。


「ただし、あんたの中にだがなァッ!!」

ずぶり、と。

彼の地中潜伏能力の応用──とでも言うべきか、物質と自身の体を上手く『噛み合わせる』能力。

まるで歯車のように、衝突もせず、相殺もせず、互いに調和して自然に溶け込ませることが出来る。

勢いよく振り下ろされた彼の手のひらは、僕の腹部へと沈んで行き、銀色に光る小さな錠剤をそこに置き残して再度引き抜かれた。

どろどろと、体内の血液が泥濘のように重くかき混ぜられる感触が不快感として押し寄せる。


「・・・・・・・・っ!」

慌てて腹部を摩ってみる──が、外からだと分からない。これといった違和感もなければ、身体的な異常もない。


「ぎゃははははッ!!«表裏一体»の間抜け二人が、一人は毒薬、一人は解毒薬を仕込まれてやんの──最ッッッッッ高に笑えねえジョークじゃンンン!!?」


「あのね・・・僕は別に、あの人のチームに属しているからって、完璧に服従したわけじゃあないのさ。忠誠を誓うなんてとんでもない。単に面白そうだからいるだけ──だから始末しないでおいてやってんのよ。」

愉快そうな哄笑から一転、冷ややかな嘲りをひたすらに浴びせて縷々と己を説明する左右田は、そこでようやくメスをコートの内に収納した。


「たとえ不死身の悪魔だろうと、改造人間には勝てないんだから諦めろよ────«終焉(ファイナル)»なんて尚更だ。」


「・・・・・・・・・?」


「ちょっと待て、今なんて──────」

左右田 上下は流石にしびれを切らしたのか、僕が発言を終えるのを待たずに追撃の構えをとった。


「いいからさっさと帰んなよッ!!」

僕が意識を手放す前に聞いた最後の言葉は、そんな聞くに堪えない怒りに任せた別れだった。







「──────────っ!!」

僕は結果的に、見慣れた事務所のベッドで目を覚ますことになる。

その時点で既に丸一日が経過しており、それが授業のない日曜日で良かったと心の底から安堵した。


「よお、おはよう」

そして僕を一番に迎えたのは神凪 緋雨さんと桜木 葉落くん。

二人とも完全に精神の束縛から復活を遂げていた。


「・・・どうも。お久しぶりです」

ベッドから起き上がろうと試みるが、身体のあちこちが使い物にならないくらいの激痛を訴える。

それでも怪我したらしい箇所を何となく庇うようにして身体をゆっくり起こし、改めて二人の顔を見つめてみた。


「えっと・・・・・・皆が復活したのはメールで知らされていたような気もしますけれど、そこに至るまでの経緯を聞いていないんですよね」


「ああ、それはね──君の後輩が活躍してくれたのさ」

桜木くんは見透かしたような笑みでそう言って、しかしそれ以上は語らず閉口した。


「暗望が・・・ですか?」


「そうです。私の何にも劣らぬ獅子奮迅の大活躍がありました」

と、いつもの陽気な声が聞こえる──あろうことか、僕が先程まで使用していた掛け布団の中から。

もぞもぞと小動物が這い上がるように、式神遣いはそこから現れた。


「うおおおおっ!?」


「なーんだ、元気じゃないですか。これじゃあお見舞いの甲斐もないですね。」


「元気じゃねえよ・・・変なとこに潜るな!」

そりゃ布団の中から女子が出てきたら叫ぶわ。

虫か、てめえは。


「お見舞いはお見舞いでも、ドッキリサプライズのお見舞いですからね」


「やかましいわ・・・で、何?君が活躍したっての?」


「ええ。真面目な話をさせていただきますと、不外 魁は私が拘束しています。」

え?

今こいつ、とんでもないことを言わなかったか?

さすがに耳を疑う──というか、目の前でにこにこと平然な態度をとるこの後輩の神経を疑う。

あるいは頭も。


「いつかの先輩を軟禁した時と一緒ですよ──尤も今回は、彼は抵抗すらしませんが。」


「へえ・・・諦めがいいやつなんだな。」


「いえ。諦めも性格も最悪ですけれど──先輩に負けず劣らず最悪でしたけれど。それでもあの精神に対する呪術──つまり«催眠術»を攻略したんですよ。」


「あれは術をかけている側も相当な集中が必要なんです。他人の意識の盲点を突くのは、というより盲点に憑くのは、かなり至難の業ですからね。そして私はその集中力を無理やり『解いた』。」


「ご存知«式神»の力を借りてね──後は同じ原理で、今度は私が不外 魁を一時的に傀儡にしたんですよ。」


「はあ・・・正直言って信じ難いけど。すげーな、式神。」

万能アイテムじゃん。


「私を褒めてくださいよ・・・シリーズ全体を通して作中一の活躍と言っても過言ではありませんよ?」


「そんなこと言ったって、僕は寝てたし。一人称視点だから僕のいないところでそんなことされても困る。」


「はいはい、お喋りはそこまでだ。解毒剤は手に入れたんだろ?早くしろよ。洞木に飲ませろ。」

待ちかねたとでも言わんばかりに、というよりはただ脱線した話の本筋を半ば強引に戻すべく緋雨さんは言った。


「でも僕の身体の中ですよ・・・なんとかできないもんですかね。」


「何のためにお前の不死身があるんだよ・・・・・・。」

はあ。

やっぱそうなってしまうか。


「じゃあシャワー、貸してください」

僕は言うと、返事も待たずに痛む身体を引きずってシャワールームへ逃げ込んだ。

脱衣して、シャワーのお湯を出してから手刀を構える。


「いつやっても怖いんだよな、これ・・・・・・。」

まあ愚痴ったところで仕方がないので。

意を決して、僕は目を強く閉じる。


「せーのっ」







そんなこんなで数時間にわたる過酷な掃除を終え、僕はなんとか洞木の毒を解毒することに成功した。

これで強制的に制限されていた洞木の自然回復能力は徐々に取り戻されていくはずで、それも全ては左右田 上下の奇特な性格、そして奇妙な気まぐれと異常なこだわりに助けられた形になる。

そして今回の結果とここに至るまでの過程を思い返すと、やはりこの先への不安を感じずにはいられなかった。


無事にこの荒唐無稽な物語を終われるのだろうか。

そもそもこの物語に終わりなんてものはあるのか。




任務内容、洞木 唯一の解毒──無事成功。


生還一名。

僕。


復活三名。

神凪 緋雨。

朝比奈 夜月。

桜木 葉落。


行方不明者三名。

山茶花 周防。

山茶花 長門。

華道 林檎。

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