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無題  作者: ねろ
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«反英雄»・才刃 無敵

『正しさが見つからない。』



啓白(けいしろ)高校──それは僕の住む街の郊外に建つ寂れた廃校を指す。基本的に人の手が入らないようになった今現在では、当然のようにヒーローごっこをする子供たちの秘密基地に使われているし、それ以上に何かを隠すには絶好の場所だった。

人目につかない。

この場所を舞台(ステージ)として指定する最大の利点である。

そんな廃校の二階──照明の点かない体育館で僕こと«罪悪(デッドエンド)»と、才刃 無敵こと«反英雄(アンチヒーロー)»が既に邂逅を遂げていた。


と言えど、«反英雄»と接触がとれたのは全くの計算外であった。見方によっては僥倖とも言えよう計算外だ。

これ以上打つべき手もなく、半ば詰みにも似た状況だった丁度その時。

あろうことか目の前の少年は、«命題»の事務所ではなく僕の自宅に招聘状を投函した。

その紙面には現時刻と啓白高校の名前が記されていて──それで。

僕らは出会うべくして出会ったのだ。


「いただけないだろ、そりゃあ。いくら«命題»を狙っているからってさ・・・・・・。」

もしもあの手紙を最初に見たのが僕でなく、妹の悠香や両親であったら。

僕の家族も否応なく巻き込まれることになる──それだけは駄目だ。

僕は無意識的な憤怒に震える声で告げる。

その声は無駄に広い空間の間を駆け巡り、反響して彼の耳にも届いた。


「まさか。反則(アウト)だとでも?」

才刃は一歩、ゆっくりと後退って言う。

齢一桁の少年には到底似つかわしくない、人を嘲るような濁った笑みだった。


「«組織»は絶対なんだよ。その命令だというのなら、別に俺はお前の家族を巻き込むことに躊躇などない。」


「組織のために。」

「あの人のために。」

「そして何より──«正義(おれ)»のために。」

淡々と、そして転々とそんなことを呟きながら、才刃は懐から短刀を取り出す。


短刀。

夏に地獄のような体験をした僕としては、山茶花姉妹の得物・«咎ノ匕首»を思い出さざるを得ないのだが──。

しかしその刃は、罪を咎めるといった、言わば正しさとされる気概すらも凡そ見受けられなかった。


薄暗い体育館の中でも蒼白く不気味に輝き、そこには盲目的な狂信と茫漠的な殺意がたたえられているのみである。


「お前を殺す。行くぞ、«(デビル)»。」

叫んで少年は跳躍する。


「来い、«(ヒーロー)»。」

«罪悪»を武装した僕も、同じく悪魔の脚力で体育館の床を強く蹴り鳴らす。宙を滑るように疾走した僕は、まず短刀を振るう彼の攻撃を避けることにのみ専念することにした。


一瞬にして永遠。

永久にして瞬間。

互いの怒号と地を踏む音が閉鎖的な空間の中でひたすらに反響した。

今まで繰り広げてきた派手な喧嘩とはワケが違う──事情が事情。

理由が理由。

掛け値なくこれは殺し合いだ。

時間だけがただ無為に過ぎ行く。


短刀という武器の性質上、彼はどうしたって僕に接近せざるを得ない。そして«罪悪»──悪魔の拳がある限り、僕は近接戦闘において死角は最早皆無と言える。

増してやそこに高校生と小学生という年齢差、そこから及ぶ体格差と運動能力の差が加味されるとなると、彼の勝ち目はお世辞にもあるとは言い難い。


「«多数決(マジョリティ)»ッ!!」

振るわれた短刀は«多数決»というらしい。

それは今まで相手にした«咎ノ匕首»や«危険色(イエローナイフ)»などと異なり、どこか確たる実体を持たない、幽かな印象を憶えたのだ。

何にせよ、刃先が小さいので回避するのは容易だ──僕は冷静に判断し、静かに背後へ跳ぶ。退転して距離さえとれば、せいぜい食らっても掠り傷程度だろう。

しかし結局、その読みは外れた。


「ぐうッ────────!?」

退転した僕の身体は、次の瞬間には切断されていた。

胸から腹あたりまでが大きく切り開かれていて、鮮血が勢いよく噴き出る。

どくんどくん、と波打つ脈の音が身体の内を巡って瞭然と響いており、その音に突き動かされるように僕は床に倒れ込んだ。


「・・・・・・・・・?」

ひどく混乱していた。

急激に血液を失ったので思考力が鈍った──というのもあるが、何が起こったのか、未だに僕は分かっちゃいない。

激痛に耐えつつ、必死に荒い呼吸を繰り返していることが精一杯だ。


「と言っても流石は不死身か────(とど)めを刺すのは無理そうだな。」

冷静というよりは冷淡に。

冷淡というよりは冷酷に。

奇妙なほどの静けさと落ち着きをもってして、才刃は僕を見下ろした。


不死身。

悪魔の身に宿る能力。

慢性的な特殊体質。

確かに彼の言う通り、僕の身体は時間経過で回復し、十数秒後には既に負傷の殆どが修復されていた。


「何を・・・したんだ。」


「刀を振るっただけさ。但しこの刀は────リーチが変わる。」


「刀身の伸縮が自由自在なのさ。もちろん刀身が長ければ長いほど質量も増すから幼い俺には扱いづらいけれど、それはそれ。刀を振るう瞬間だけ巨大化させればいい。」


「言ったろ──«多数決»だと。」

僕は呼吸を整え、彼の言葉を反芻した。

リーチの巨大化──それが際限なく行えるのだとしたら、なかなか厄介な相手だ。

足の速さ──つまりは回避力という点において、いくら僕と彼に差が開いていたとしても、空間の広さそのものに制限があるのだから、逃走が意味を為さなくなってくる。

しかも巨大化するのは攻撃の一瞬だとなると、見分けるのはほぼ不可能に近い。


「くそっ・・・正義の英雄も、なかなか小洒落たことをするじゃないか。反吐が出るよ。」


「はは、だろう?褒め言葉として受け取っておくよ。」


「曲解も良いところだね。どう考えても侮蔑であり、侮辱だろ。」

しかしこのまま無駄に体力を消耗するわけにも行かない。

持久戦はだんだん不利になってしまう。

内心では焦燥感が沸々と起こっていた。


「なぜ僕らを狙う?」


「あの人の願いだから」

事も無げに、臆面もなく少年は言った。


「あの人って誰だ──不外はボスとか呼んでいたな。」


「教えるわけないだろうがよ・・・あの人こそ絶対。あの人こそ正義。それだけだ。」

僕は舌打ちをした。

思考を落ち着けるように溜息をつき、暫く考え込む。


「そいつは何を目論んでいる?」


「«全ての終焉»・・・と言っても、お前らには微塵も理解できねえよ。俺らにさえ難解だ。あの人の考えることは高尚すぎていけねえや。」

くくっ、と。

そこで漸く、彼は愉快そうに顔を歪めた。


「あーあ。俺もあんまり何かを話したい気分じゃあないんだよ。質問攻めってのも礼儀に反するぜ?」


「悪い冗談だ。幼年に礼儀を説かれるとはね。」

最後の質問だ。

僕の返答を意に介さず、彼は無機質な声でそう呟いた。

最後。

手がかりを得られるとすれば、今度こそこの機会が最後と考えるべきか。

何を訊ねる?

組織について──いや、駄目だ。

解答を得られたとしても、漠然としたものである可能性が高い。

まともな答えは期待できない。

メンバーについて──非神ちゃんとは不定期に会うことは一応可能ではある。質問はできるけれど、彼女も知らないことが多い。


「・・・・・・・・・・・・。」

僕は数秒した後に、漸く意を決して口を開いた。


「«四面平等»──左右田 上下は何処にいる?」

少年は多分、一般的にまともとされているのであろう解答を口にした。


「オーケイ、ありがとう」

僕は独り言のように礼を言って廃校を立ち去ったが、英雄に礼を言う悪役もなかなか味があって良いように思えた。







«蠍»。

彼からはその名が挙げられた。

殺し屋ギルド1位の組織で、血の繋がった家族のみで構成されているという特色を持つ。

かといって他と比較しても人員が少ないということはないし、何より21個も存在する殺し屋ギルドの中でも堂々たる頂点を占めている。

一体どんな大家族だよと野暮なツッコミを入れたくもなるが、兎にも角にも、左右田 上下はそこの組織に別の名を用いて属しているらしかった。«超毒師»──成程、«蠍»という名前にはぴったりハマる。


そして«反英雄»の少年との小突き合いから一週間後──未だ昏倒している皆が目を覚まさない中、僕は愚かなことに、これまた派手に大喧嘩、敵対をした経験のある二人と«蠍»の拠点を訪れていたのだった。鮮明さの廃れた黒色に包まれた、外壁の厚そうな高層ビルである。


「万全な準備くらいして来い、無謀が」

「十全な用意くらいして来い、無能が」


「・・・・・・・・・・・・。」

まあこの通り。

激しい叱責。

激しい叱咤。

そして最早乱暴な罵詈雑言を浴びせる姉妹。山茶花 周防と山茶花 長門である。

彼女らを誘った理由は至極簡単、単純明快。死なないから。

当然、数時間に及ぶ必死の説得と決死の土下座があったことは言うまでもない──僕の誇りや名誉はいつの間にやら地の底を貫き、そのまま地獄まで堕ちてしまったようだ。


「無能、ねえ・・・。」

気に病むほどでも気に留めることでもないのは理解していたが、しかしどこかその響きだけが引っかかった気がした。

気がするだけだ。

だからどうした?


「まあ、協力してくれたことは感謝するよ。」

実際その指摘も大きく的を外しているわけではないし、何なら悪言であれどこれ以上なくご尤もな話なのだ。

何の計画も無く。

何の計略も無く。

何の秘策も無く。

何の対策も無く。


「礼を言うにはまだ早いぞ。私たちが途中で裏切る可能性を考慮しろ。」

「そもそも言葉だけならどうとでも言えるし、気持ちだけなら何とでも繕える。感謝しているなら態度で示せ。」


「怖いことを言うなよ・・・・・・全く、ほら。キャンディー。」

僕は鞄から棒付きキャンディーを2本取り出し、それぞれ姉妹に与えた。

餌付け。


「イチゴ味か。悪くない。」

「メロン味か。悪くない。」

実はこの姉妹、超甘党。お菓子好き。なのでこういう理不尽な要求を見越して、鞄の中には大体のお菓子がこれでもかと言わんばかりに詰め込まれているのだった。

«地獄の番人»という、当初のクールなイメージが崩壊していく・・・・・・。


2人は年齢以上に幼い無邪気さを見せ、目的地から少し離れたところではしゃぎながら飴を味わっている。

棒付きキャンディーを舐めながら移動すると危険だからな。


「しっかし、なんだろ。この保護者感・・・・・・。」

呆れるばかり。

本当に歳下は苦手だということを痛感する。

いや、そんなんじゃなくて。


「左右田 上下──本名、(ひさぎ) 銘天(めいてん)、か。」

まあ確かに、左右田 上下なんて名前が本名なわけ・・・ない、と思う。

僕の周りには奇抜な名前が多いからな。


まあそんな雑談はともかく、だ。


僕の目的はただ一つ。

別に«蠍»を敵対視したいわけではない──なるべく早く楸 銘天を見つけ出し、説得か打倒か、いずれかの手法で解毒の手立てを見つける。

京さん曰く、その毒は洞木の回復力を極端に低下させているだけだ──解毒したところで暫く昏睡したままだろうが、それでも大きく進歩するのには相違ない。

そのためにも。

僕は逸脱した殺戮集団(キリングギルド)の組織、その頂点に身を投じなければならない。

必要ならば、無関係の者を虐殺する覚悟だってできている。


「ごちそうさま。食べ終えたぞ。」

「ごちそうさま。食べ終えたぞ。」

2人は飴を支えていた棒を街中のゴミ箱に投げ入れて言った。


「そう・・・じゃ、行こう。」

僕は蠍の毒に呑まれるべく、そのまま高層ビルの中へと歩み()る。


さあ。

殲滅せよ。

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