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無題  作者: ねろ
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第終話(壱) 罪悪遣いの傷痕

洞木 唯一──その名前を聞いて、やはり否応なしに思い出されるあれこれ。


«命題»の長。狂気そのもの。僕の裏側。何でも(こな)す、天下無敵の請負人。万物を魅せる深紅の瞳。透き通るように明瞭な黒髪。名高い彫刻作品のように整った造形。常に物事を俯瞰するような、嘲笑するような不敵な笑み。殺し屋をも凌ぐ戦闘力。憑物すらも落とす精神力。金遣いが荒い。飽き性。サボり魔。通常を嫌い、異常を好む。日常を忌み、非日常に惹かれる。幾度となく死んで、幾度となく生きた。得意分野は全て。苦手分野は皆無。

敵に回せば一環の終わり。

味方につけても一環の終わり。

その極端なまでに行き過ぎた能力がゆえに、«最終形(エンド)»と揶揄されている。

終わりの始まり。全ての終わり。


そして僕は、恐らくそんな彼のことを、そろそろきちんと語らなければいけないのだろう──────それは義務感や責任感なんて高尚なものではなく、自分に対する悍ましい脅迫観念めいた心情があるからだ。

義務や義理などどうでもいい。

けじめをつけるため。

僕は彼と、そして僕と向き合う必要がある。


高校一年生から二年生への狭間であり変遷期である春頃、僕は彼と邂逅を遂げた。

それはあってはならないことであり、あるはずのないことだった。

何であれ、僕は単純に不運だったのだ──ツイてなかった。

憑いてなかった。

まるで全てを放棄するかのような、果てしなく無責任な物言いに聞こえるが、しかしそうとしか言い表しようのないくらいには煩雑で、複雑で、粗雑で、乱雑で、到底意味の解せない出逢いだった。

意味。

あるいは意味なんてないのかもしれない──たまたま行き着いてしまった、一種の事件。

今更そんな回想に感慨深さなんて厄介なものが憑き纏うくらいに僕は人間らしくない。

何にしろ、僕と彼に関するこの事件は、未だに解決を見ていない。

終わっていない。

もしかしたらずっと終わることなどないかもしれないし、何ならまだ始まってすらないかもしれないのだった。


洞木や遊海ちゃんと出会う。

僕が禍に憑かれていると知った。

緋雨さんと共に有栖川を打倒する。

復讐心に苛まれた者の末路を見届けた。

大虚鳥そのものとド派手な大喧嘩を繰り広げる。

己が内の二面性に蝕まれた同級生を助けられなかった。

嘯言弄語の式神遣いと出会う。

過去に捕縛された者の因縁を蛇に呑ませた。

地獄に堕ちる。

罪と罰を司る姉妹と死ぬまで殺し合った。

人間を越える半身の悪魔と出会う。

彼は超然的な因果律で、自身の生命すら代償にした。

憑物落としを専門とする不吉な男と出会う。

彼は意味深長なことを言って、僕を死戦へ導いた。

同じく憑物落としを生業とするお姉さんと出会う。

彼女はその全てを見透かしたような慧眼で、僕の死にきれない無念を拾ってくれた。

食人鬼と絶えず喰らい合う。

血にまみれ、死にまみれ、やがて罪悪が半死半生を破った。

空白の一ヶ月。

忘れちゃいけない、何処かの誰かと何かを捜す。

衝動と情動に幽閉された、厭世と空洞の行く末を見届けた。

失踪した女子中学生を捜して、全てが正反対の世界へ身を投ずる。

人の在り方、僕の在り方、どこにでもない普通の苦痛。

いろいろなものを見送って、いろいろなものを見過ごした。


そして今に至る。

思えば最後まで、僕は何も出来なかった。

いつもの如く例の如く、誤魔化しと調弄し、矛盾撞着と因循姑息、後回しの先送り、『いつか見てろ』と永遠の別離。

この語れば語るほど嫌気のさす虚無的な物語は全て、そう、全てが狂気・洞木 唯一との奇妙な邂逅という一点から始動した。

だから彼との関係性を語るとなれば、それは僕の惨めな逃げ回りっぷり、呆れ返るような醜態を余すところなく衆目に露見させることとなるのだが、つまり遠々しい自虐行為にしか、あなたの目には映らないだろうけれど、やはりそれでも、僕はその狂おしい非日常(ストーリー)を語らざるを得ない。


あるいはもっと前から、僕は狂い始めていたのかもしれない。

洞木と出会う前から。

常軌を逸する暗澹たる黒、暗黒にして漆黒の存在──即ち«禍中»たる所以は、遥かなる昔に心中で生じた狂気が原因とされている。

無意識下に、無自覚下にそれを記憶の隅に封じ込めているのだと。

この期に及んで思い出したわけではない。

だって僕は一度として、その粗筋を愚かしく忘却したことなどなかったのだから。


僕がまだ生きていた頃。


彼と──────二戒堂(にかいどう) 夜雲(やくも)と遂げた、隘路(あいろ)と悲痛の飽和する別れ。

何の未練もなく、何の変哲もなく、何の意識もなく、変わりようのない僕との背反。


そこで素直に悲しめないし、後悔すらも出来ないのだから、やはり僕は僕だ──────何とも僕らしい。こういうのをして、途轍(とてつ)もなく途方もなく、そしてどうしようもない愚かさと呼ぶのだろう。




だからこれは、最後の最後に芽吹く悪あがき。全ての終焉だ。これを語り終えた頃には、僕は今までの思い出と、そしてこの世界の全てと縁を切っているだろう。

つらつらと益体のないことを騙り続けた僕の、一切合切を(あがな)う贖罪の物語だ。

こんなもので罪を償えるとは思わないし、ましてや責任が果たせるとも思えない。罪滅ぼしと言うのなら、(まさ)しく滅ぶのは罪悪、つまり結局は僕だ。

ありとあらゆる全てを騙す。

ありとあらゆる全てを欺く。

ありとあらゆる全てを(たばか)る。

悪魔の(うそぶ)く酔狂な戯言に、是非お付き合いいただこう。

さあ、皆の衆。

御手を拝借。

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