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無題  作者: ねろ
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第影話 厭世士・××××

今回のエピソード(第影話)は、無気力 ウツロさんの作品『黒ノ厭世士』とのクロスオーバーになっています。

登場人物などの一部の設定については、先にそちらをお読みいただくと、よりお楽しみいただけます。




それでは。

開幕早々メタな話をさせてもらうと、だ。

高校二年生の一学期、僕にまつわるあれこれはとりあえずの解決を見た。


後回しと先延ばし、白い現実からの逃避行を続けていた僕は、最後の最後、漸く自分と向き合えたのだ。


これから語るのは──その続き。

終わることのない『無題』の物語。

そして。

あらゆる全てを失っても尚、前に進もうとする『モノガタリ』の創始者。

«黒ノ厭世士»について。

語るに語れぬカタルシス。

一つの奇譚(モノガタリ)として、聞いてくれ。




『モノガタリの中で生きる者たちに幸あれ』




9月4日。

あくまで学生の本分である勉強、つまりは一日の授業を終え、いつもの如く«命題»の事務所へ向かった僕は、そこで奇妙な人物に出会う。


"服"より"布"と言った方が正確なくらいに端々の破れた黒い外套を纏った男が、格調高い木製の椅子に毅然たる表情で腰掛けている。

端整な顔立ちではあるが、しかし瞳の色、顔つき等、どの要素をとっても日本人では無いらしい。

外国人・・・・・・。


「すげーな・・・。誰だろう。」

気にはなるけれど、とりあえず学生鞄を置きたいところだ。

肩が重い。

気づかれないようにそっと自室に向かうと、そこには見慣れたゴスロリ幼女、朝比奈 夜月ちゃんが綺麗な逆立ちを決めている。


「ただいま。何してんの」


「お帰り。逆立ちしてんの。見てわかんない?」

分かんねえよ。

お前という人間が分かんねえよ。

何やってんだマジで。


「ほら、そこ僕の部屋なんだからどけよ。逆立ちなら外でやれ。」


「外で逆立ちなんてできるわけないでしょ!何考えてんだこの高校生、頭が鉄で出来てんのか!むきーっ!!」

よく分からない罵倒を食らってしまった。

うーむ。女の子は難しい。

むきーって。


「ぷんぷん!!」

うざっ。


「・・・ああ、そういえば。居間にいた人、誰なの?なんつーか、タダモノじゃあなさそうだったけれど。」


「居間にいた人?誰それ。私知らない。洞木くんのお客さんじゃない?」

あー。

洞木ねえ。

あいつもあいつで、«対岸(アウトサイド)»のいろんなところに顔が広いから、有り得る。


「でも洞木くん今いないよねー。お客さんだったら待たせちゃうの悪いしなあ。ここは優しい私が応対してあげるとしましょうっ!」

逆立ちから見事に空中一回転を決めて着地した朝比奈ちゃん。

なんと器用な子だ。

体操選手にでもなれんじゃね?


「まあ・・・心配だから、僕もついていくよ。たしかに依頼人とかだったらまずいし。」

僕はそう呟いて、朝比奈ちゃんと共に自室の扉を開ける。


そこには一人の男が立っていた。


「俺の名はグラハム・ウェストン。魔術師だ。」


「・・・・・・・・・・・・・。」

日本語が堪能な方だったらしい。

って、魔術師?







「人捜し?」

僕は思わずグラハムの言葉を反芻してしまう。


「・・・アッシュ・ヘイムダル。俺はそいつを捜し続け、長い旅を続けているのだ。」


「はあ・・・アッシュ、さん。ですか。」

緊張して言葉が途切れ途切れになってしまう。人捜しというのは多分、"何でも屋"に寄せられる依頼の中では至極真っ当な内容なもののため、慄くことは何もないのだけれど・・・・・・。


「それでー?その人とお兄さんの間には何があったのかな?」

僕の後ろからひょこんと姿を現した朝比奈ちゃん。テンションの割に、質問は比較的正当なもので安堵した。


怒らせたら"魔術"とかで殺されちまうかも、なんてね。

しかし──魔術師か。

不死身の悪魔の身体で生きている僕からしたら、そう遠くもない存在なのかもしれない。


「語れば長い。何があったか、と言えば何も無かったと言っても何ら当たり障りがないくらいにはな。それほど俺達が紡いできた『モノガタリ』は、荒唐無稽なものだ。」

朴訥とした表情でグラハムは語る。

何考えてるかわかんねーなあ。

気ィ遣うぜ。


「手がかりが皆無なわけではない。俺は一度、この世界でアッシュを『()』た。死んだはずの灰色を。」


「──────? 何ですって?」

この世界?

死んだ?


「俺は此処とは違う世界から来たのだ──遠く離れた、不変たる狭量さ、窮屈さを保った箱庭、(システム)の世界から。」

「アッシュ・ヘイムダル。奴は魔王だったのだが、まあ。紆余曲折あって、命を落としてしまった──────はずだった。」


「異世界から・・・・・・ですって?それに亡くなった・・・?」

前者に関してはそりゃあ驚いたけれど、そういう奇々怪々ないろいろに耐性がついてしまっているため、さほど大きく驚愕はしなかった。

それよりも。

アッシュさんは亡くなっていて。

しかしその姿を『視』た──だと?


「ああ。しかし世界と世界を渡り歩いていた最中(さなか)、ふとアッシュの姿を目にしたのだ。見紛うはずもない。間違いなくアッシュ・ヘイムダル。魔王そのものだった──────頼むッ」

彼、グラハムはいきなり身を乗り出した。

冷淡な調子の声も、いつの間にか焦燥を感じさせるものとなっている。


「アッシュを捜してくれ。礼はする。」


「・・・・・・・・・。」

人捜し、ね。

どうやら彼らも、なかなかどうして切羽詰まってる感じらしい。

生半じゃあないってことか。


「だってさ、朝比奈ちゃん。君の«全知全能(アンサー)»なら──知らないことなどないその能力なら、目処くらいは立てられるんだろう?」


「うん、余裕。いいよんお兄さん。あなたのその意思を無下にはできない──────この朝比奈 夜月ちゃんにお任せあれ。」


「・・・・・・!」

グラハムの眼が僅かに大きく見開かれる。


「というわけで、グラハムさん。その依頼、お引き受け致します。僕ら«命題»は、あなたのために全力を尽くさせて頂きますよ。」

アッシュ・ヘイムダル。

灰色の魔王。

捜索依頼の詳らかな内容を書き記して正式な依頼書を作成してから、僕はメンバー共用のパソコンを立ち上げて、リストを開く。


グラハムは不思議そうな顔でそれを眺めていた。


ふっふっふ。

異世界からの来訪者に文明の機器が勝った瞬間だぜ。


「・・・・・・あった。洞木と面識がある人は大体ここに載ってるからな。」

僕が電子画面を凝視していると、不意にグラハムが声を上げる。

「──────これは!?」

グラハムは突如僕の手を握りしめ、マウスを操作する指を強制的に止めた。

何とも言えない、冷たい手だ。


グラハムの視線の先に載っている名前を僕は確認する。

「レコ・アドミニストレーター・・・・・・?」

誰だろうか。

僕には聞き覚えがない名前だ。

と、その時。


「なッ!?」

爆音と共に、数枚の窓が吹っ飛んだ。

幸い一番前にいた僕が«罪悪»を発動して防いだため、二人に怪我はないらしいが・・・にしても、床がガラスの破片だらけだ。


『……Hello world.』

無機質な声が響く。

煌々と輝く紫色の瞳を向けた少女が、そこにはいた。


「こいつは・・・・・・。」

かつて相対した化物──鷺沼 鷲巣や簓木 鶫。

方向性は違えど、彼らと同等、或いはそれ以上の狂気を感じる。

その場にいるだけで圧殺されてしまいそうだ。


「・・・・・・レコ・アドミニストレーター。貴様ッ──!!」

明らかに敵意を剥き出しにするグラハム。推測するに、目の前の少女も今回の件に大きく絡んでくるようだ。

それもやはり、最悪の形で。


僕は叫ぶ。

「──────«罪悪(デッドエンド)»ッ!!」


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