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無題  作者: ねろ
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僕がまだ生きていたころ

その戦闘を一言で表すなら、«死»である。

本当に、両者ともに幾度となく死んだ。

比喩ではなく。

比喩だとしても。


掛け値無しに、生死を往復しまくった。

さながら僕の天敵──世棄人(アイツ)の如く。


「うおおおおぉッ」

僕は叫び、地を全力で蹴る。少し踏み込むだけで、通常では先ず考えられまい距離の駆動、疾走が可能だということを、僕は時間稼ぎの中で知った。


時間稼ぎ。


そう、鷺沼 鷲巣を中継点として、僕は悪魔の部品を取り込んだ。当然その特性も引き継がれたので、だからこそその慣れない力に僕は戸惑うわけだ。

第一にするべきは逃避と逃走──戦略的撤退。得た能力の把握が最優先事項ということで、一先ずは簓木の猛攻を凌ぎ続けることのみを考えたのだ。

幸い機動力には困らない。

悪魔の両脚部の力で、跳ぶことも──飛ぶこともわけないのである。


次に両眼。

魔眼。

恩恵としては、これもまた人並み外れた超絶的な視力。

そして、全てを隠す闇夜の中でも対象を認識できる能力。

暗闇でもとんでもなく目が利くようになってしまった──今後の生活に支障を来しそうではあるのだが、しかし今となっては完全にこれが利点(メリット)だ。

昼の時と何ら変わりなく、或いはそれ以上に周囲を認識、識別できる。


「悪魔になろうと、君は戦闘経験が遥かに乏しい──僕に適うとでも思うのかッ!」

大きく踏み込んだ僕の隙を突いて、簓木は手刀を振るう。


「──────!?」

視界がぐるりと回転し、直後には眼前の風景が暗転(ブラックアウト)した。

テレビの接続でも途絶えたように。

なるほど・・・首が切られるとこうなるわけだ。


「・・・・・・ぐッ、はぁ、はぁ──────っ。」

しかし間髪入れずに意識は再生する。«右腕» «両脚» «両眼»が揃っていれば、少なくとも首が切られても即座に再生できるくらいの回復力、不死性は補えるようだ。


危なかった。

死ぬかと思ったぜ。

死んだけどさ。


「適うとは思わねえよ、だが戦う他にねえだろッ」

叫んで«罪悪»を宿した右腕を振るう。その重々しい拳は、奴の腹部を思いきりぶち抜いた。

簓木の身体に開いた大きな空洞からは、決して誇張ではなく、比喩でもなく、向こう側の景色がはっきり見える。


「がああああアアアアアアアッ」

彼の胴体から、噴水のように血液が噴出する。血飛沫も辺り広く周囲に飛散したが、それも地に付着する前には煙のように蒸発した。


双方共に不死身の身体であるが故の現象なのだろう。その体から流れ出た血液は、地面に付くほどの暇もなく、即座に蒸発するのである。

同様に、僕が先程撥ねられた首も、数度に渡って千切られた肢部ですら、古い部品は不要とでも言わんばかりに消滅する。

無論、悪魔としての«特異性»を有する部位は例外なのだが。


「死ねばそれまでだろうがッ!!」

不死身に極端に近い簓木が、そう叫ぶ。まるで戦うことを望んでいなかったとばかりに。

そんなものは──────虚偽だろうが。


「それは嫌だ、僕は生きるぞ・・・その為なら鬼だって────ぐッ!?」

鬼だって。

殺してやる。


「黙れッ」

僕は敵対の意志、殺意の意識を宣言とでも言わんばかりに告げようとしたものの、それを言い切る前に、髪を思い切り掴まれ、そして顔面を地に強く叩きつけられた。

そのまま異常な腕力から生み出される速度で、無抵抗の僕を地面に擦り付けるように引き摺り駆ける簓木。

勿論、«鬼»としての文字通り怪力を以てしての攻撃だ──それがどれほどのものかは想像に難くないし、同時に想像を絶する。


「僕はお前に敬意を表する──最後まで愚かしく生き永らえた敵として。喰えども悔いず、懺悔して切り裂いてやるぞォッ!」

簓木が叫んでいるのを、超加速による空気の振動を交えながらも、朧気ながらに辛うじて保ち続けている意識でしっかりと聞き捉える。



それはこっちの台詞だ、簓木 鶫。



僕を構成する劣等と葛藤。

妄想と暴走。

全てをぶつけて、殺してやるッ!!


「無駄だァァァァッ」

引き摺り続けていた僕の体躯を、簓木はそのままの勢いで投げ飛ばす。当然ながら僕自身はかなりの低空を飛び続け、しかし寸でのところで踏みとどまり、空中で回転、体勢を立て直す。


逸脱した身体の運動による負担のため、視界がクラクラとする。

顔面ごと引き摺られていたことによる血液や擦過傷も尽く消え去り、今にも気を失いそうな痛みだけが残り続けていた。


「なっ・・・・・・マジかよ。」

掠れた声で呟く。

暫くして視界が瞭然と開けてから、僕は眼前に広がる光景に絶望した。

荒い呼吸を整えながら、周囲を見渡す。



簓木 鶫が、遥か彼方にいたのだ。



勿論、催眠術や超スピード等では断じてないし、時間を止められたわけでもあるまい。

単純に僕が、それほどまでに長距離投げ飛ばされただけである。


「納得できない話じゃねえよな・・・何せ相手は鬼だし、あれだけの勢いがあれば。」

可能なのだろう。

可能なのだろう──とは思うが、普通なら先ず即死であろうあの攻撃を耐えたのは僕も初めてなのだ。

判断しかねる。

仮に判断材料が揃っていたとしても、この現状を否定し得ることは恐らく不可能だろうし、目の前で起こっていること、そして自身に起こっていることに対しては何が何でも納得せざるを得ない。

しかしこれでは、奴に«罪悪»を叩き込むまでに数秒はかかってしまうぞ──どうする?




簓木も先程までに相当体力を消耗した様子で、即座に追撃をすることはしなかった。ただ僕と同様に呼吸を整えるべく、遠く離れた向こう側に立ち止まっているだけである。




思考。




夏の夜に響く静寂の中で、疲弊しきった身体を庇うようにして立ち竦む両者の化物。

清濁併せ呑む広大な上空には、稀なる輝きを放つ星々が点在して、しかしそれを遥かに上回る圧倒的な黒色が包んでいる。


視界の少し先。

隅には死体。

蒸発しない骸。

消滅しない骸。

鷺沼鷲巣。


左腕。

胴体。

頭部。


それぞれ悪魔の部品であったものが無惨にも転がっている。


「・・・・・・・・・?」

待て。

僕は何か──見落としている。

とても大事なものを、忘れているぞ。


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