死々戦々
語り部交代。
というか、元通り。
月嶋さんの語りというのも、なかなかどうして独特なものがある。
独特というか、毒々しい。
あんなにこやかな調子で、やけに辛辣なことを言われていたらしいじゃないか。
まあ。
可愛いおねーさんになら、お説教されるのも悪くはないってことにしておくか。
そうしよう。
・
流石はこの世の怪奇を渡り歩く«六禍仙»、まさかの電話で簓木と連絡を取り合ったようだ。
相手が簓木本人でも、月嶋さんはあの飄々とした調子を全く崩すことなく話し続けていた。
それも交渉術の一環なのだろうか。
あれ以来──そう、僕が解放されたのは結局22時を回ったあたりで、その頃には心身ともに疲労困憊と言えよう状態だった。
菱森の見舞いから直接彼らの話を数時間に及んで聞き続けたんだから、まあ致し方あるまい。
月嶋さんに車で家まで送ってもらってから、僕は自宅へ無事帰還を果たした。
否。
無事とは言い難い。
いよいよと言うべきなのか、簓木 鶫との決闘の約束の取り決めが完了してしまっている。
事大有りじゃねえかよ。
自宅の階段をゆっくり昇り、悠香の部屋の前をそっと通り過ぎる。
開きかけたその扉の間からは光が漏れていて、勉強机に向かう妹の姿が見えた。
ああ。
あいつは今年受験生なんだったか。
だとすれば尚更──そんな姿は。
そんな姿は、とっくに僕が喪失しきった" 平穏 "というものの存在感を痛感するに事足りる。
平穏な日々。
平凡な日々。
悠香には半ば気づかれているようだが、それでも僕は頑なに彼女を巻き込むまいとした姿勢をとるべきなのだ。
彼女だけは。
こちら側には来てほしくない。
兄として。
人間として。
人間。
辟易としつつ自室のベッドに転がる。
嫌な現実から逃げるように布団に潜り込み、そこで漸く気づく。
僕の身が小刻みに震えていることに。
恐怖から──なのだろう。
少なくとも狂気からではない。
本当に。
なんでこんなことになっちまったのかな。
身体の内側が沸々と沸き上がるような気分に襲われ、次第に呼吸もゆっくりになる。
目尻にはきっと涙が浮かんでいたことだろう。
でもさあ。
僕にどうしろって言うんだよ。
緋雨さん。
僕はどうしたら良いんでしょうか。それともあなただったらこんな悩みも、見事に«破壊»し尽くすのでしょうか?
朝比奈ちゃん。
僕はどうしたら良いと思う?
その答えを、君は知っているんだろう?教えてほしい。
桜木くん。
君ならどうする?いつものようにそれらしいことを言って僕を啓蒙してくれよ。
遊海ちゃん。
君は結構ドライだからな。
バッサリ切り捨ててみせるのだろう。
文字通り──全てを切り捨てて。
暗望。
君はペテン師だからなあ。
僕とは全く異なる生き方をしているのだろう。
でも君だったらどうする?
何を考えて、何を思うんだ?
洞木。
僕の狂気は、言わば君自身だ。
だとすれば。
だとすれば?
涙も涸れた頃、腹立たしいほど優しげな月明かりに照らされながら──僕はやっと、眠りについた。
そして。
場所は変わる。
時も変わる。
八宮高校グラウンド。
8月31日──夏休み最終日。
僕の青春の折り返し地点。
僕の悪あがきの繰り返し地点。
夜11時。
「よう────簓木 鶫。」
僕は目の前の«暴食»に向かって声をかける。
奴は尚、沈黙を貫いて──但し、目線を少し下げて。
何処からか現れた、ソレを地面に投げ捨てた。
ここまで来ればお分かりだろう。
«悪魔狩り»──鷺沼鷲巣のバラバラになった死体である。




