宣戦布告
やっほー。月嶋 忍だよ。この世に蔓延る«怪奇»の天敵。ありとあらゆる魑魅魍魎との対話人。
安心してね。お気楽おねーさんである私が語り部を務めるのは、今回が最初で最後だろう。次回からは名も無き彼に戻るはずだよ。
さて、本題に入るとしよう。
大したことないだなんて、なかなか彼も言うようだねえ。
しかしそれは全くの錯覚だ。
誤解と言えるね。
語弊とも。
己の無力さを知らない人間は弱い。
今の彼が簓木に挑んだところで、せいぜいおやつ代わりになってお終いさ。
さて、彼は美味しいのかな?
これを読んでいるあなたも是非考えてみてほしい。
人を喰らい人として生きる簓木 鶫が、何故そんなにも恐怖の対象となっているのだと思う?
狂怖の対象と。
なっているのは。
────────何故?
例えば、だ。
食人が禁忌とされている理由を問われたところで、その解答は非常に多岐に渡るわけ。
その文化の出自を逐一辿れば、宗教的な理由とか、民族内での供養の意味とか、逆に敵対部族に対する復讐の意味とか、まあなかなか生半ではないものがある。
しかし言えるのは、私達が生まれるずーっと昔から、食人という概念はこの世に存在し続けたということだ。
昔から。
前から。
だから言ったろう?
簓木 鶫。奴は『始点』だと。
言ったのは私じゃないのだけれどね。
と言ったところで、もちろん先述したような意味のある理由なんてものは、今回においてはない。
簓木 鶫の食事は単に栄養補給といったところなのだろう──身体能力を極限まで高める為のね。
だからまあ。
今の彼──彼というのは誰でもない彼、主人公ではなくあくまで語り部の彼を指すのだけれど、今の彼が勝負に出たところで無駄だ。
筆舌に尽くし難いような、規制はまず免れないほどの死に方をして終わるだろう。
しかしながらこれも言ったはずだ。
それを避ける『狂気』が彼にあるとするならば。
話はまた違ってくる。
大体、彼は優しすぎるのさ。
事の発端はアレだろ?
不死身の男というのを捜していたということだろう?同級生であり、«大虚鳥»である彼女のために。
その過程で実態を知った食人鬼に対して戦う決意を迫るなんて、動機が些か不十分すぎるとは思わないかい?私だったら無視してしまうかな。
ああ、でも«悪魔狩り»を追うという意味合いもあったのかもね。
現在は入院しているという彼女の毒について聞き出すために。
まあ、なんにせよ。
他人のためにそこまで何かに身を窶すことが出来るというのも考えものだよねえ──考えものというより、単純に" こわい "。
ふふっ。
私が狂気と指摘したのはそこだろう。
自分以外を助ける──が、自分だけは決して助けない。
自己犠牲というスタイルに何かを感じるところがあるのかもしれないね。
命を削り、骨身を削り、血を流し、生を汚し、そこまでして彼が得ようとしているものは。
一体。
ふむ。
それについては、やはり自分で考えてもらうことにしよう。
悩める青年に幸あれ、とでも言っておこうかな。
これでも大人だからね。迷っている子供を見れば手を差し伸べたくなるのだが・・・・・・まあまあ、今となってはそんな悠長なことも宣っていられない。
・
そこまで思考して私は嘆息する。
先程まで手に持っていた携帯電話を机に置き、諧謔的に笑ってこう言った。
目の前の彼の。
目をしっかりと見据えて。
「話がついた。8月31日──夏休みの最終日。例の場所で、決闘だ。」
彼は何も言わない。
ただ何かにひどく安堵した様子で、そっと目を伏せるのみであった。




