一回、休み。
同級生に萌えるとか言ってしまったことについて、暫し止めどない罪悪感に苛まれた。
あー。
死にてえ。
これからどんな顔で菱森や林檎と話せばいいんだよ・・・・・・。
しばらく目も合わせられそうにない。
「そういう問題じゃない。いや、お前の性癖は大問題だが。・・・普通に気色が悪いぞ。引いた。ドン引きだ。」
僅かに口元を歪めて不愉快そうに言い放つ長門。
「素のトーンが一番傷つくからやめて・・・・・・。」
項垂れる僕。
いやしかし、高校生に上がってから女子高生に対する羨望は一切失われたという人が多い中、僕はその例外にいたように思う。
いつまでも女子高生は羨望の対象、憧憬の的であって、言わばその純真無垢、可憐で清楚な制服姿にひたすら日々の気苦労、心身の疲労を癒され続けていた。
つまり先程の僕の発言は言葉の綾であり、言葉の捻れであり、正しくは「同級生萌え」ではなく「制服萌え」「女子高生萌え」なのだろう。あくまでも真摯な態度を以て、そう言い表すべきだ。
真摯な紳士として。
「貴様のどこが真摯だ」
「貴様のどこが紳士だ」
「はぁ?君たちは一体何を言っているんだ。どこからどう見ても僕は人畜無害な無辜なる善人、心身共に真摯な紳士じゃあないかよ。心優しき青年じゃあないかよ。」
「・・・・・・・・・ちっ」
「舌打ちをしないで!?」
それもガチのやつじゃん。
ツッコミを放棄するんじゃねえよ。
「生憎だが、ただの変態にしか見えない。性癖を拗らせた愚かな若人だ。」
「拗らせたって・・・・・・。」
「でもまあ、私達にそういう視線を向けられるよりはマシかもしれない。私達は人間の齢では十四歳と十三歳。少女だ。中にはその未発達さに並々ならぬ興味を示す者もいるのだろう?」
マジか。
見た目とそれなりに一致しているから、まあ一安心。
小学生と言っても通りそうだが。
童顔って言うのだろうか、こういうの。
「うん?・・・ああ、ロリコンってことか。それもいるにはいるけど──でも安心しろ、未発達だか未成熟だか知らんが、僕は青い果実には興味は無い。」
「死ね」
そう言うが早いか、冷徹な声に連れて、即決即断、即刻即座に、僕の背後の白く塗られた壁に深々と携帯用の小型ナイフが突き立てられた。
僕の頬をギリギリ掠めない程度に投擲された鋭刃が空を駆け抜け、大きな音を立てて壁に追突する。
「うおおおあっぶねえ!?何すんだよお前!!」
思わず椅子から飛び上がり、数歩立ち退く。
髪の毛が数本持っていかれた気がするが・・・・・・。
「言うに事欠いて、私達を子供扱いするな。殺すぞ。失くなっても差し支えない臓器から順番に引きずり出して解してやる。」
低い声で、威厳、威圧と共にひどく冷たい調子で告げる周防。
姉妹の睨眼が僕の一身に注がれている。
「殺意が半端ねえなオイ・・・!」
「うう・・・っ。半端ないのは貴様の言葉に込められた悪意だ!人を子供扱いするな!私達に興味がないとか言うな、少しは興味を持て!」
またも涙目。
恥辱に耐えているような表情に、さも不満を必死に訴えるような様相で言う長門。
そこそこに造形の整った、愛くるしい見た目の少女二人が頬を膨らませて怒っているので、まあ可愛らしくはあるのだけれど・・・・・・しかし何度もこう泣かれちゃってさあ。
どんだけ脆いんだよ、涙腺。
つーか、メンタル。
前話で僕を散々苦しめた山茶花姉妹は、こんな軽口じゃ微動だにしねえだろ。
あの頃のお前らはどこへ行った。
「興味を持てって・・・いや、僕は君たち二人に興味がないわけじゃないぜ?うん。二人ともすげー美形だろ。可愛いじゃん。まあ比較的に、相対的にという意味合いにおいては、そこそこ身体は育っているしな。」
「貴様ァッ!!」
ほんの一秒前まで大人しく丸椅子に座っていた周防が、姿勢をほぼ留めたままに前方へ跳躍(どうやるんだ?)、そのまま僕の顔面を跳び蹴りした。
横頬が膝に撃ち抜かれる。
「ぐあああ・・・・・・っ」
思いのほか脚力が強い。
本当に中学生年齢か、こいつ?
「胸を見ながら育っているとか言うな。セクハラ発言だぞ。」
「痛えー・・・歯がちょっと砕けてやがる。血の味がやべえ。
ど、どうどう。落ち着けって。いやいや周防、冷静になれよ。最近はセクハラ発言に対して社会全体の風潮が厳格すぎると思わないか?判定が厳しいっつーかさ。意図してないところまでアウトじゃん。女子に『あ、髪切った?』とか聞いただけでセクハラ扱いになるって風の噂で聞いたぜ。」
打撃ダメージを負った頬を抑えながら、僕は必死に話を逸らすことを試みる。
「そもそも男子は皆そんなもんなんだよ。女子が髪型変えたとか、そんなのでもドキッとしちまうもんなんだぜ。だからそこらへんの事情を考慮してほしいね。女性に対する配慮は必要かもしれないけれど、しかしそれにかまけて男子に対して的を外した批判を浴びせるだけになっちゃあいけないと思うんだ。」
「ふむ。そればかりはたしかに聞き入れるべき意見かもしれないが、しかし貴様のはどう考えたって意図しているだろう。悪意の塊だろう。男子高校生の性欲を少女にぶつけないでくれ。」
「ぶつけてねえよ・・・変な言い回しをやめろ。ただのジョークじゃん。」
「ジョークに聞こえない」
「そんなこと言われてもなあ・・・。」
「常套句に聞こえる」
「なんだと!?」
こんなことを常套句で言い放つ主人公、嫌だよ。
そんなものはさっさと退場しろ。
地獄で裁かれていればいいのに。
「つーか、そんな派手な服装で来れば、そこそこ人目を惹くことは免れないんじゃあないか?露出度激高じゃん。」
「む。そうなのか?」
「うん。いくら東京と言えどな・・・やっぱ目立つぜ、それ。」
未発達なだけに。
未成熟なだけに。
その幼さ故に、より異質さが際立っている。
「男ウケの良いファッションというのをネットで調べて選んだのだが」
「だからだろ!!」
なんで男ウケの良いファッションを調べているんだ!
「あー。いやそこはほら、さっきの媚びも作戦の一環として既に練っていたわけだから。服装も女らしいものにしないと。」
と、何故か急に砕けた口調で話し出す長門。
違う・・・僕が聞きたいのはそういう事じゃねえ。
「そもそもファッションなんて、どこで学んだんだ?君たちは地獄にいることの方が多いだろうに。」
「そこはまあ、中学生らしく、みたいな?」
可愛らしく首を傾げる周防。
小聡明い。
「いや、みたいな?じゃねえよ。中学生らしくねえし中学生じゃねえだろ。説明を億劫がるな。」
「だから週五なのだ・・・土日は休みだから。別にこっちに来ようと問題ない。そういう日は一日中遊び回ってる。目に映るもの全てが新鮮で楽しいぞっ」
「そうか、そりゃ楽しそうでいいな・・・。」
僕は再び椅子に腰掛け、背もたれに体重を預けて無気力に上を向く。
ああ。
疲れた。
疲労困憊ってやつだよ。
この姉妹との会話がこんなに疲れるとは思わなかった・・・・・・。
「で、本題に戻るが」
「やめて。ちょっと待て。しばらく休ませて。」
テンションの急落差でシリアスになりきれない。
ギャグパートを終わるのは構わないが、もうちょっとゆっくり緩めてくれ。
しかし、暗望 闇樹か。
今はどうしているんだろうな、あの後輩。あの女子。
彼女なら或いは、菱森 雪都についても、悪魔の部品についても、何やら大事なヒントを握っていそうなものだ。
それを聞き出すのは、やはり生半ではないのだろうが。
何でも屋という立場上、これを依頼という形式で捉えれば、断るのは些かまずいわけだし。
立場に縛られているのは、意外なことに、山茶花姉妹よりも僕の方なのかもしれない。
いや──────。
大丈夫。
懸念することは何も無い。
どうせ僕は、そんなことじゃ簡単に死ねないよ。




