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無題  作者: ねろ
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到来

等間隔で二度響いたそのインターホンの高らかな音色は、僕と朝比奈ちゃんの思考をにべもなく遮った。


「はい、ただ今・・・って」

戸を開けると、そこには比較的記憶に新しい姿が見えた。

二つ。


「私だ」

「私だ」


「・・・・・・・・・。」

いや、誰だよ。

地獄の番人・山茶花姉妹。

姉の周防と、妹の長門。

表情に不相応なくらいの派手な姿、具体的に言えば露出度のやけに高い、若者らしい格好で二人は現れた。

周防の右手には、紙袋が提げられている。


「私は私だ。自己紹介を再度求めるか?字数が大変なことになるぞ。」

「私は私だ。自己紹介を再度求めるか?話数が大変なことになるぞ。」


「見りゃ分かるけど・・・・・・つーか、君たちは話数が大変なことになるくらいの自己紹介をする気なのか!?やめてくれ、どんな分量だよ!やるならもう少しスマートにやれや!」

前話で、そこそこかっこいい自己紹介してただろうが。

あれでいいんだよ。

いや、現世であれをやるのはまずいか。

それじゃあただの痛いやつだ。


「上がってもいいか」

「上がってもいいか」


「そりゃあいいけど・・・それより、あれ?二人って、現世にも来れるの?」


「あの男に出来て我々に出来ないわけがなかろう」

あの男ってのは──菱森 雪都か。


「そりゃまあ、確かに・・・。」

そう言われれば納得するけれど。

地獄に存在を縛られるわけではないのか。


「お邪魔します」

「お邪魔します」

この二人の場合、単に「邪魔をする」という意味合い以外に何も無いようで怖いよなあ・・・・・・。

兎にも角にも、わざわざ丁寧なお辞儀を僕に向けてから、それぞれ上品な動作で事務所の奥に広がった廊下を歩く姉妹。


歩く時に足を出す動作まで揃っているのも驚いたし、それに何より、その所作の一つ一つが非常に礼儀礼節の作法を重んじた、慇懃なものであることに驚愕した。


地獄で人間の、増してや日本人の作法なんて身につけられるのだろうか。


「居間へ」

「居間へ」

彼女らは短くそう言って、廊下を左折。

そのまま事務所の中で最も広い部屋へと入っていった。


居間?

何をしでかすか分からないあの姉妹のことだ、あくまでも慎重を期して、僕も同じように尾いていく。


「シンくーんっ、お客さんは?一体誰なの?」


「ああ・・・いや。旧知の仲というか、犬猿の仲というか・・・ちょっと遠出をした時に出会った奴さ。今は休戦中なんだけれど。」

遠出と言っても、それは地獄までの逸脱した大旅であるわけだし、事実を偽らずに嘘をつくというのはどうにも難しい。


「ふーん。私も同席していい?」

ふむ。

やはり僕の拙い説明では補えきれないか、朝比奈ちゃんは来客の正体にそれなりの興味を示していた。


「えっと・・・・・・いや、駄目。やめておけ。」

あんな奇矯な姉妹だ。

朝比奈ちゃんと邂逅を果たした瞬間、何をするか分からない。

朝比奈ちゃんを守るために──そしてそれと同等に、悪魔の«頭部»を守るために。

僕は彼女を止めた。

半ば反射的に言ってしまったところもあるが。


「えー?変なの。まあいいや。そんじゃ私、ちょっと出かけてくる。じゃーねーん。」

そう言って、いつも通りの華やかなゴスロリ姿で廊下をとたとたと駆ける朝比奈ちゃん。

可愛らしいけれど・・・ゴスロリって。

目立つよな、あの服。

大丈夫か?







「やあ──待たせたね。」

居間。

紛うことなき居間だ。

小洒落た黒色塗装のされた、木製の高価な丸テーブル越しに、僕らは向かい合うようにして座った。


「待たされたぞ」

「待たされたぞ」


「悪かったって。それで?何かあるんだろう?」


「何かなければ話しかけては駄目か?」

「何かなければ話しかけては駄目か?」


「そうじゃあないけれど──それでも、珍しいよな。二人がここまで能動的姿勢をとるのは。


うん。何も無いよりは、何かあった方がマシだ。」


「ふむ──嬉しい事を言ってくれる。」

「うむ──嬉しい事を言ってくれる。」


「まずはほら、受け取れ。」

周防が抱えていた紙袋を、勢い良くテーブルの上に置く。


「これは?」


「菓子折だ」

長門が答える。

菓子折?

どういうことだ?


「持ってこいと言ったろうが──私は貴様の頼みを実行してやったのだ。」


「・・・・・・・・・・・・。」

あー。

言ったっけな、そんなこと。

僕は謝罪の態度も一緒に頼んだはずなのだが。


「切裂 遊海のところにも参ったのだが、門前払いだった。」

そうなんだ・・・・・・。

それはなんというか、不憫だな。

まあ遊海ちゃん、敵から塩を送られるくらいなら自殺するような性格だし。

プライドが変に高いんだよ。


「うん、ありがとう・・・有難くもらっておくよ。いや本当に。マジで。超嬉しい。」


「絶妙な棒読み具合が腹立たしいな。」

「即妙な棒読み具合が腹立たしいな。」


「活字だけじゃ伝わらないことを言うな。」

それは音声あってこその芸当だろうがよ。



「はあ・・・ったく。それで何なんだ?まさか本題がそれなわけないだろうよ。」


「ああ。単刀直入に言おう。」

「ああ。単刀直入に言おう。」

二人はやはり、揃って口を開き、揃った声で口にする。

その、遍く全ての統一を不統一と化してしまうような、虚無の存在の名前を。


「暗望 闇樹を探してほしい。」

「暗望 闇樹を捜してほしい。」


「────────っ!?」

前触れも前置きもなく、突如突然にその名前が出たことに、僕はひどく動揺した。

少なくとも、思わず小さな椅子からそのまま立ち上がってしまうほどには。


「うーん・・・・・・・・・。」

一考。

いやしかし、ここは本当に真面目に考えなければならない。

一考どころか、百考でも千考でも構わない、熟考に熟慮を重ね重ねに重ねた上での判断を下さねばなるまい。


暗望かー。

個人的にどこか苦手としている向きがあるんだよな、あの後輩。

何もかも見透かしたような、解りきったような、解り見切ったような性格がどうにも僕とは相容れない。

必要以上に会話を交わしたいとは思わないし、あの真っ暗闇のような視線も、見つめているだけでなかなか精神的に威圧となるのだ。


暗望 闇樹。

式神遣い──そもそも式神の実態も、実は未だによく分かっていない。

あの時は済し崩し的に時間軸の螺旋、蛇を使ったけれど──結局は、全てを調弄されたままなのだ。


よく解らないものには近寄りたくない。

それは至極真っ当な判断で。

後先考えず、顧みず、鑑みず──見切り発車という言葉の擬人化とも呼ばれる(誰に?)ほどの僕の性格にしては、これはなかなか珍しいくらいに冷静沈着な思考状態だ。


よし、決めた。

「ごめん、無理」

即答。

いや、だって怖いもん。


「うう・・・本当に無理なのか?」

「うう・・・どうしても無理なのか?」

テーブルから身を乗り出すようにして迫り来る二人。

既に大粒の涙が目尻に浮かんでいる。

やっぱ、見た目相応に精神も幼いんだろうなあ・・・すると僕が幼い女の子二人を泣かせたみたいで、絵面的にはあまり良いとされるものではないのだろうけれど。


「いや、無理だよ・・・ただならぬ事情が、並々ならぬ事情があるんだろうけれど──無理なものは無理だ。そもそも僕にだって、あいつの動向は掴めていないんだ。」

そりゃあ同じ学校なのだから探しやすくはあるのだろうが。

もし暗望側に逃げる意思があったなら、彼女は平気で学校だってバックレるタイプだろう。

放蕩無頼と言って言えなくもない性格。そして性質。


「・・・お願い、お兄ちゃんっ!」

「・・・お願いします、ご主人様っ!」


「ッ!!!??」

動揺。

動転。

なんだ、今の媚びに媚びた甘い声は!?


「いや、切裂から聞いたんだ。貴様は妹キャラとメイドキャラに萌えるのだろう?」


「萌えねえよ!人を安易なキャラ設定にするんじゃねえ!」

あの女・・・。人の性癖を好き勝手に改竄しやがって。


「じゃあ何なら萌えるのだ。演技してやるから、ほら。言えよ。」


「あんたら姉妹が()ってる時点で萌えねえんだよ!何が『ほら。言えよ。』だ!!僕の性癖を暴露させるな!」


「で、趣味は?」

「で、嗜好は?」


「・・・・・・・・・同級生、とか。」

頭に思い浮かんでいたのは、日頃よく話す彼女ら、つまり菱森 希心や華道 林檎の笑顔だった。

畜生、いろんな意味で悔しいぜ・・・。



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