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無題  作者: ねろ
33/81

感動、感情、感傷

僕らが現世へと戻るための条件というのは、大まかに分けていくつかある。

条件というか、手段というべきだろうか。


一つ目──これが最も確実なもので、山茶花姉妹の«咎め»による、現世の所業に対する罰を大人しく受け終えること。

しかし僕らは、こんなことをされている場合でなければ筋合いもない。当然のようにそんな謂れもないので、この案は却下。

柊さんの言葉によれば、地獄に堕ちた、罰を受けたという記憶を引き継ぐことなく現世に戻れるため、体感的には非常にイージーというわけである。

恐らくだが、この現象に行き遭った八宮高校の生徒は全員この方法で通したはずだ。

いや、一般人であるところの彼ら彼女らは、この方法しか知り得なかったのだろうが。



二つ目──これはそれなりに難易度が高いが、山茶花姉妹を説き伏せることだ。

彼女ら二人と甲論乙駁、侃々諤々とした激しい議論の末に一応の復帰を見ることが出来るそうだ。

一見穏和な方法に思えるけれど、しかし狂気じみた使命感を有する彼女ら姉妹を説き伏せることは、それこそ暗望でなければ不可能なのではないだろうか。

そもそも地獄にいる最中(さなか)、そんな状況で冷静に、平静に渡り合えるとは思えない。

同様に却下。



三つ目──これが最高難易度(ハードモード)

山茶花姉妹を倒すこと。

一番手っ取り早い方法がこれだ。

しかし渦巻く輪廻の果ての果て、あらゆると災禍とあらゆる罪禍の帰結する地獄の守人というスタイルを採る()の姉妹が、容易に打倒出来るはずがない。


ないのだが。


そんな悠長なことを宣う余裕すらもない今現在、僕と共に地の底まで堕ちた殺し屋・切裂 遊海は迷わず厭わず躊躇わず、一直線にこの選択肢のみを選んだのだった。



「貴様の忠義とは、即ち妄信だ」

「貴様の忠誠とは、即ち狂信だ」


「妄信はやがて──冷める。」

「狂信はやがて──覚める。」

反響(エコー)するように、口々に姉妹は言う。

鋭いナイフを振るいながら、鴉のように飛翔する遊海ちゃんを身軽に躱しつつも、尚のこと二人は余裕そうだった。


「畜生オオオオオオオオッ!!!」

激昂。

遊海ちゃんらしくもない────どうしたんだ、一体・・・・・・!?


いくら«鴉»に対する忠心を侮辱された程度で、あの娘はここまで行かない。彼女は自負しているように、本当にクールな性格なのだ。その冷徹な性格が、その冷淡な性質がここまで大きく乱れるのには、きっと何か理由が────。


「理由なんてないよ。山茶花姉妹は何ら誤っていない。彼女らの所業はフェアじゃあないが、少なくとも人を見ることに限っては感服すべき慧眼だ。


あの二人は正しいのさ──彼女を突き動かすのは、能動的な妄信のみ。衝動的な狂信のみだ。」

柊さんは卑屈そうに微笑んで言うが、それを聞けば聞くほどその物言いは得心行かない。



公正に人を見て。

公平に人を視て。

どんな手法を用いても、必ず最悪の結論へ導く。

どんな手段を用いても、必ず最悪の結末へ導く。



「・・・・・・っ!? クソッ、«罪悪(デッドエンド)»────!!」

防戦一方である遊海ちゃんを支援(サポート)すべく、僕は悪魔の腕に頼ろうとしたその時。


「邪魔を・・・するなッ!!」

「邪魔を・・・するなッ!!」





きらり、と目の前が黒く光った。





「え・・・──────?」

首ががくんと垂れて、視界が万華鏡のようにぐるりと回る。

虚ろな視界を無理矢理に見開くと、気味悪い様相の自分の身体が目に映った。


痛い。

痛い。痛い。痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!



脇腹が──────。

撃ち抜かれている──────!



抉られている、と言った方が正しいのだろう。

元々そこには人の肉が存在しなかったかのように、そこには歪な欠落があって──そしてその傷口からは、赤黒い大量の血液が噴出していた。


血が、溢れる。


「な・・・・・・ッ!?」

遊海ちゃんがその俊敏な動きを急停止させ、僕の方を振り向く。

その惨状に彼女も目を見開いたのであろう、溶暗しかけた視界の中でも彼女の愕然とした表情が意外にも見てとれた。



だが、しかし。



「──────────────ッ!!!」

そこで体内に、苦痛とは異なる奇妙な衝撃を受ける。


「はァ──・・・・・・はァ・・・ッ!?」

呼吸が急速に荒くなる。

頭が追いつかない。

何だ、何が起こっている?


「失った脇腹が、ある・・・・・・!!」

何があったのか、と言えばそれは何も無かったのだと言わんばかりに──それほどまでに、僕の負傷箇所は完璧に修復されていた。


「あんまり人の問題に干渉しない方が良いのではないかな。いくら君が«不死身(リビングデッド)»だからと言ってさ──。」

柊さんはまるで何処かの放浪人のようなことを言って、僕を値踏みするように見つめる。


「はぁ、はぁ、ぐうッ・・・不死身・・・だと・・・・・・?」

息も絶え絶えに、意識も虚ろに、しかし確たる口調で僕は問う。


「そう、不死身。君とあのお嬢さんは地獄にいる限りは不死身でいられるよ。残念なことに、傷も痛みも拒めないが──しかし死後の世界で死ぬというのも、今ひとつ締まらない話ではあるだろう?」

まあ、そうなのか。

獄卒に殺されては復活してを繰り返す、等活地獄なんて存在も聞いたことがないではないのだが、言わばそれと似ているようなもんで──地獄に" 死 "という、終焉を意味する概念を与えてはならないのだろう。


失った部位は修復する。

現に遊海ちゃんも、二対一の不利な戦闘状況の中で負った微細な傷は、(ことごと)く回復していたようだった。


「オイ、そろそろいいだろうッ!!力の差は歴然だ──しかし彼と彼女は、他の人間より幾分か聡明。どうだろう、今一度互いに交渉(ネゴシエーション)してみないか。」

柊さんは空に向かって声を張った──その声は思った以上に遠くまで響き渡ったらしく、激戦を繰り広げていた三人の動きは瞬間的に即座に停止する。


「客人のくせして意見をするな」

「客人のくせして提案をするな」

山茶花姉妹はそんなことを言ったが、しかしゆったりと、ふわふわと、優雅な動きで地に舞い降りてくる。遊海ちゃんも疲労困憊と言った感じだが、しかしそれでもある程度の力は残しているようだった。


「ほら、君も悪魔の腕を解きたまえ」


「・・・・・・。」

渋々と、言われるがままに武装を解く僕。

遊海ちゃんも相手を睨みつけて威嚇したまま、ナイフを専用ホルスターに収納した。


「山茶花姉妹、君らの言う通り、確かに私は客人だ。しかしこの状況は、第三者の存在なくしては収集もつくまいよ。


私の仲介の下で、今一度話し合おう。彼らは現世へ戻りたいだけの、強固な意志を有する少年と少女だ。どうか彼らを、戻してやってくれないか。」

柊さんはあくまでもにこやかに、その人相には不相応なくらいに優しい笑みを浮かべて姉妹に向かって深々と頭を下げる。


「了解した、但し」

「了承した、(しか)し」

彼女らは一瞬だけ顔を見合わせたものの、しかしすぐに向き直り、あくまでも柊さんに対してそう言った。


「条件がある」

「誓約がある」


「委細承知ッ」

何故か僕ではなく──当然遊海ちゃんでもなく、威勢の良い返事を、間髪入れずに柊さんが口にした。


「如何なる難題が降りかかろうとも、その一切を私が請け負う。その合切を私が引き継ぐ。何せ、娘の友達の為だからな。」

その発言に、不意に憶える違和感。

見た目からも、今までの挙動からも、随分と若々しいような、つまり青年のような印象を受けていたが──娘、だと?


「貴様、世捨人ではなかったのか」

「貴様、厭世人ではなかったのか」

天涯孤独ではなかったのか────と、眉を顰め、少し驚いたように、というよりは訝しげに訊ねる周防と長門。


「いいや、違うさ。教えてあげよう。私の素性を──────。」




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