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無題  作者: ねろ
31/81

第業話 咎罪・山茶花姉妹

七不思議──そんな怪しげな呼称がやけに人口に膾炙していることには首を傾げざるを得ないものがあって、しかし実際、その存在が七つも確認されている時点で、既に不思議と呼べないような気もするのは、やや的を外した指摘だろうか。

やはり不思議という概念には理由付けなど不要で、在るべくして在るだけ──あの全てを晦ます不思議な後輩ならば、きっとそんな、分かったようなことを言うのだろう。

そして僕は、何も分からない僕は、恐らくそれを鵜呑みにしてしまうのだろうと思う。


そして今回語るのは、僕が灰色の青春を日々謳歌している高校、つまり私立八宮高校における七不思議の怪奇譚(エピソード)だ。

いや、実際には七つもないのだし、そういう意味では矛盾撞着していると言っても構わないのだが、それでもその奇譚は──«忌譚»は。

正しく«命題(ぼくら)»のために用意されたかのような、不思議にして不死議な物語だった。


山茶花(さざんか) 周防(すおう)

山茶花(さざんか) 長門(ながと)

そんな彼女ら二人の姉妹に呑み込まれた、僕と君の日常の話だ。


冗長な前置きなどいらない。

七つもその場に在り続けるのは──────精々、咎められるべき«大罪»くらいで丁度良いだろう。




『周りは皆変わった。君はどうする?』




「ねえシンくん、知ってる?」

本名にかすりもしないその渾名をすっかり定着させた張本人、クラスの学級委員長──菱森 希心は、帰り道の途中で突然僕の方を振り向いた。

かつての一件で、«大虚鳥(おおそどり)»を取り込んだ少女である。


「知らない。何だ?」


「もう。まだ何も言ってないでしょ・・・あのね、今、この学校で流行ってる噂があるんだよ。」


「噂?」

半ば反射的に復唱してしまう。

世界の裏面に関わる人間が表の方にも何食わぬ顔で溶け込んでいること──具体的には、この学校の生活にすらも溶け込んでしまっていること(僕とか暗望とか。菱森はグレーゾーン)を知ってから、噂話やら都市伝説やら、その手のあれこれには出来るだけ聞き耳を立てておくことにしたのだ。

アンテナを張る、とでも言うのだろうか。


「うん、噂。あのね──夕暮れの帰り道、突如どこからか呼び声が聞こえるんだって。」

声を落とし、怪談テイストで語り出す菱森。

なんとも茶目っ気溢れる演出なもんだからツッコめないけれど、空の色が澄みきった薄い青色である為、あまり雰囲気が出ているとは言い難い。

たとえ夜だったところで、ひゅうどろと話し込むわけにもいかないけれど。


「呼び声ね。それで?」


「それから声のする方を振り向くと、何度も通った帰り道、今まで気づかないはずがないのに、いつの間にやら大きな廃墟が建っているのよっ!」

ふむ。

まあ不思議な話で、興味が無いわけでもないのだけれど、しかしこういうのって、割とよくある話でもないのか?

あまりにも見慣れた光景だから細部の変化に気づけなくて、いざそれを知ると、えらく新鮮に感じる──みたいな。


「そして興味本位で廃墟の中に足を踏み入れる。すると────!」


「すると?」


「・・・?なんだっけ、忘れちゃったよ。てへ。」


「おい!」

オチを忘れるなっての・・・・・・しかもこの話の運び方、かなり在り来りなテンプレじみててあまり気乗りしないんだよ。


「・・・しかし、興味本位で足を踏み入れるってのは何なんだ?警戒心が低すぎるだろ。どうにも嘘っぽいぜ。」


「まあね。実際に被害に遭ったって言っている人の約6割が女の子だから、たしかに貞操観念が心配だね。」


「・・・・・・。」

お前がそういうことを言うなよ。

貞操観念って。


「って、え?約6割が女の子って・・・まあもしも仮に、その話が本当だったとして、だ。被害に遭ったって奴は、全部で何人いるんだよ?」

しかも、被害──だと?

言い方が妙だぞ。

それじゃあまるで、呼び声の正体に" 何かされた "みたいじゃないか。

でも被害に遭ったと主張することが可能であるということは、生きているんだろう?


「うーん?私も全員に話を聞いたわけでもないし。わからないけど。でも知ってる限りでは20人くらい。」


「多いわ!」

最近、ツッコミすらも反射的に入れてしまうようになってしまった。

職業病だろうか。

裏の人たち、会話が独特すぎるんだもんなー。


それにしても20人って・・・一話に収めるには多すぎる人数だろう。

いや、でも。

どんな被害に遭ったのか判然としない以上、それを多い少ないで測るのかは些か早計が過ぎるか。

被害人数20人が少ないなんて言えるほどの所業が身近で行われている、というのもぞっとしないが。


「怖いよね。怪奇現象だよ・・・いや、怪奇現象じゃあなかったらもっと恐いか。」


「そうだな・・・・・・でも、だからと言って僕らに何が出来るわけでもないんだろうよ。」


「相変わらず冷めてるねえ。何?そういう斜に構えたみたいな、クールもどきがカッコイイと思ってるの?」

うるせえな。

ほっとけ。


「そういうわけじゃねえよ、別に僕は──────ん。」

そこまで口にしたところで、目の前の風景、少し離れたところに見慣れた人影を見つけた。


紺色のパーカー。

白黒ボーダーのシャツ。

黒地のジーンズに、黒いスニーカー。

高身長でモデルのように完璧なスタイル、髪は後ろで一本に結わえている。


右手には買い物袋、左手には──ポケットサイズの手帳?


「あら」

彼女は──危険色(イエローナイフ)こと切裂 遊海は僕に気づいたようだった。


「久しぶりね、シンくん。」


「ああ──久しぶり、遊海ちゃん。」

カッコイイ系の風貌をした女性を" ちゃん "付けで呼んだことに対してだろう、声を出さずに驚愕した菱森の表情が横目にちらりと見えた。


「ところで、そちらの方は?」


「僕の同級生────だ。菱森 希心。」

«大虚鳥»であることは、あくまでも伏せておくべきだろう。

コイツの人格の裏側が、あなたが従事している組織、«鴉»のボスなんだよ────なんて、一体どんな顔をして語ればいいのだ。


「そう。菱森さん、私は切裂 遊海よ。あなたと同じ花の女子高生です──初めまして。」

そう言って、握手を求めるべく片手を差し出す──勿論、手帳を右手に持ち替えて。


「うん。初めまして。」

それに快く応じた菱森──なのだが、この二人は旧知の間柄であることを双方のうちどちらかにでも気づかれないようにするのは、難しいと思うぞ・・・・・・?

どうする。


「と、ところで遊海ちゃん?その袋は一体何なんだ。」

話題を変えるべく新たな話題を切り出すのも、既に使い古された手法ではあるけれど、ところがなかなかこれが有効なのである。


「ああ、これ。今日の夕ご飯の材料。シンくんに何かご馳走してあげようかなーって。」

表情を変えず、平坦な口調でそう告げる遊海ちゃん。


ああ。

死闘から生還したら美味しい手料理を振舞ってもらう、みたいな約束。

そう言えば、したな。

既に一度軽く振舞ってもらったりもしたんだけれど。

料理の腕については、うん。

まあ何も言うまい。


「えっ!?シンくん、夜ご飯を作ってくれる女の子がいたのっ!??きゃー、これは報告ねっ!」


「そのくらいでいちいち騒ぐな、中学生か・・・って、ちょっと待て、報告って誰にだ!?」


「クラスメイトの皆」


「やめろ!!」


「まず私たちが恋仲であるという前提にツッコみなさいよ」

遊海ちゃんの至極真っ当なツッコミが入った。


ストライク。

(バッター)、アウト。


「じゃあ遊海さん、その手帳は?」

談笑の余韻もそこそこに、菱森が次の話題を振る。


「タメ口でいいわよ。あと" さん "ではなく" ちゃん "ね。是非ともあなたみたいな美少女に" ちゃん "付けで呼ばれたいわ。」

そこは徹底するんだな・・・・・・すると、僕までそのルールに従っている理由が益々分からなくなるけど。


「オッケー。遊海ちゃん、この手帳は何なの?」


「これね。お買い物のメモ。一人じゃ覚えられないんだもん。実は物覚えがすごく悪いの。ところで、あなたは誰でしたっけ?」


「よりによって僕を忘れるな!」

もうちょっとさ。

お互い仲良くいこうよ。

フレンドリーに。


「随分とクールな口調でボケるんだねえ。私だったらツッコミが追いつかないや。」


「そりゃもうクールよ。真夏日に冷房いらずの女と呼ばれているわ。」


「真冬日は?」


「氷点下になる」


「極端すぎるぞ・・・・・・!」

氷点下って。

遊海ちゃんの場合、どれほど寒いギャグでも平然と放ちそうだから怖いよなあ。

草も生えねえぜ。


「へえ、これからの季節は便利だね!」

一方菱森はそう言って、よくわからんやり取りの締めとばかりにハイタッチを交わす二人。

意気投合してんじゃねえか・・・。


「「いえーい」」

うーん。

疎外感が半端ない。

この二人が徒党を組んだら僕がツッコミの過労で死にそうだ。


「それじゃあ私、家がこっちだから。また明日ね。」

それからも雑談を暫く続けた後に、岐路に差し掛かった菱森は、そのまま道を右折して自宅へと向かった。


「ところでシンくん」

既に時が経ち、赤みがかった夕焼け道を並んで歩きながらのこと。

不意に──というほどでもないが、遊海ちゃんが僕に呼びかけた。


「はい?」


「確認したい噂話があるのだけれど・・・聞いてもらえるかしら?」


「ああ・・・うん。いいよ。何?」

また噂話か──と半畳を入れたいところだけれど、それは僕の事情でしかなく、彼女の与り知らぬこと、ここは甘んじて受け入れるしかないか。

それに遊海ちゃんは、完璧に«対岸(オーバーサイド)»へ位置づけられた存在──彼女の持ってくる噂は、«ただの噂»でない可能性が高い。確認したいと言うなら、尚更。

強いて言うならば、そこが菱森との差異・・・・・・ってことなのだろうか?


「«東芳鳴(とがめ)»という組織(チーム)をご存知かしら?いえ、組織と言えど殺し屋でも何でも屋でもないし、何せ構成員(メンバー)がたったの二人という、語るだけで一際異彩を放つ謎の存在よ。」


「東芳鳴──いや、聞いたことない。寡聞にして知らないな。」


「そう。まあそうでしょうね・・・本来、あなたみたいな、前向きであり続けることができる人がそれを知り得るはずがないもの。」

前向きな人。

僕はその言葉に反駁しようとしたものの、しかしその隙すらも与えられずに次の説明が開始された。


「いい?東芳鳴は──それを名乗る二人の姉妹、山茶花(さざんか) 周防(すおう)山茶花(さざんか) 長門(ながと)は、心に大きな傷を抱えている人を惹き込んで、その後ろ暗さを、懊悩とした気分を、綺麗さっぱり断ち切るように解決するの。」

あくまでも公正に。

正しくも公平に。

まるで断罪が如く──断ち切る。

罪を裁くように。


東芳鳴というのは、そうか。

«咎め»とかかっているわけか。

大罪を咎める二人の姉妹・・・ね。


「・・・って、解決?」

なんだ、それは──予想外だ。

しかし解決ってのは、基本的に良いことなんじゃあないのか?


「分からない?そこには暗に、" どんな手を使っても "という注釈が添えられているわけよ。そして大抵、それは本人にとって«最悪»の形で────。」


「遊海ちゃん、危ないッ!!」

そこで僕は叫ぶ。

人の説明を途中で遮断するのは何とも無礼極まりないことであるというのは、いくら野暮な僕でも充分に承知していたのだが。


流石に彼女の背後から、高層ビルの壁の一部が剥がれるように崩れ落ちてきたとなれば話は別だろう──────しかも、頭上に。


なんだ?

こんなこと、本当に有り得るのか?


遊海ちゃんならばあるいは、それを回避することも出来たかもしれないし、何なら僕の«罪悪»で被害を最小限に抑えることも、出来たのかもしれない。

出来たのだろう。


しかしながら不意を突かれ、僕らは二人ともその場に固まってしまう。

呆然としていたし。

唖然としていたのだ。


周りを歩いていた通行人が、やがて痺れを切らしたかのように一斉に叫び出す。その悲鳴が耳に残響となって留まり続けるのを朧気に認識しつつ、そして僕らは。






瓦礫に潰されて、死んだ。



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