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無題  作者: ねろ
24/81

螺旋

「私の幼馴染────八橋(やつはし) (みやこ)ちゃんを助けてあげてください。これはいくら式神遣いでも、どうしようもありません。」



「どうやらその現象は«螺旋»と呼称されるみたいなんですけれど、それより深いことは分からなくて・・・・・・とりあえず、経緯を話しますね。」

暗望は儚げな笑みを浮かべたまま、上を向いてそう言った。



「八橋 京ちゃんは私の幼馴染です。とっても可愛い、小柄な女の子なんですよ──まあそれはいいとして、私と同い年のその子は、最近とある人物から命を狙われているんです。」



「命を・・・・・・。」

同い年の女の子──ってことは、多分僕より一つだけ歳下か。

その口ぶりからだと、八宮高校に通う生徒ではないようだけれど。

いや、そもそも学校に通っているとも限らないのか。



「一度殺されかけたこともあってですね──その時は行動を共にしていた私が、式神を使役したことで最悪の事態は回避したんですけれど。それだって、逃走が精一杯でした。」



「以来、それ故に京ちゃんは行動出来なくなっているんです。学校にも全然行かなくなってしまいまして────そして先輩。ここまで聞いたならば、あなたはきっとこう仰ることでしょう。」



「『だったら警察に届けるべきじゃあないのか』とね。いいんですよ、それが正常ですから。」

警察──。

確かに、()け狙われているだけならばそう考えるのが自然なはずだ。

裏の世界に踏み入れている僕は例外だろうけれど、表の世界の人間だったら、まず頼るべき公的機関として警察を連想するのだろう。

ん?

表の世界の人間──?



「暗望、少し待ってくれ。京ちゃんって、その──えっと。


" どちら "の人間なんだ?」

僕は慎重を期して言葉を選びつつ、それでもやはり肝要になろうその事実について確認を試みる。


白か黒か。

表か裏か。

嘘か真か。

罪か罰か。




「ああ、お伝えしていませんでしたね。彼女は──八橋 京は、完璧に完全に99パーセント白ですよ。

こちら側に関与することなどは、まずないです。」

99パーセント──それはつまり、彼女に関与する残りの1パーセントは" 黒い "と言うことなのだろう。



つまり。



「今回、京ちゃんを尾行している人間こそが、黒の人間ってわけか──。」



「ご明察の通りですよ、先輩。ざっつらいと、ですね。


そう、その正体は、私はとっくに分かっているのです。分かっているからこそ、解らないのですよ────。」

暗望はそこまで話して、にたりと緩やかに微笑を浮かべた。

その微笑は、闇が(とぐろ)を巻いているような、そんな邪な思いに溢れているように見えた。



「さて、ここで問題(クエスチョン)です。懸命なまでに賢明な先輩ならさぞ既に理解しきっていることかもしれませんが、確認をしたいので────ずばり、その犯人は一体、誰でしょう?」

うっ。

ハードルを全力で上げてから、そんな最重要事項をぶつけて来られても困るんだけれど・・・・・・。


誰って・・・。

彼女を尾行するのは裏の人間で、一度殺されかけたこともあるらしい。逃走したという言い方からしても、犯人の狙いは明らかに八橋 京の殺害と見るべきか。


なら殺し屋?

八橋 京と繋がりのある人間の中に、暗望同様、実は裏の世界に通じる人間がいて、何らかの理由で殺し屋に殺害を依頼──或いは、本人が殺し屋ということも有り得なくはない。

ふうむ。



「ヒントをくれ。鉢合わせして殺されかけたのは、今からどれほど前だ?」



「四ヶ月くらい前ですかねえ?」

四ヶ月前──気温が上がり始めて、春らしくなってきたあたり?

丁度僕が遊海ちゃんに襲われた頃かな。


いや、そうなると。

仮に四ヶ月前に京ちゃんを襲来し、そこでは式神遣いの活躍により殺害計画は失敗に終わったとしても──そこから四ヶ月も間が空くのはおかしくないか?

流石に表の世界の人間は隙だらけで、護身なんてそうそう出来るものでもないのだろうし、その空白の数ヶ月間に機会はいくらでもあったはずなのだ。

多分。


犯人は殺し屋じゃあ──ない?

迅速で円滑な依頼遂行する技術を有していない人物ならば、辻褄が合わないわけでもない。

些か牽強付会が過ぎるようにも思うけれど・・・・・・。



「はい、タイムアップです。残念でしたねえ──愚かな私でも辿り着けた解答(アンサー)だと言うのに。正解は」



「八橋 京」

暗望の言葉を遮るように、突然に洞木がそう言った。

不満げな表情で脚を組みながら、唾棄するように──その名を言ったのだ。



「犯人は八橋 京そのものだ──これは俺も、いよいよ無関心と無関係を決め込むわけにはいかないな。」

そう続けて、シニカルに笑った。







「«螺旋»から落ちた者ってことさ────暗望だっけか?本当はお前、ことの真相については大方見当をつけていたはずだぜ。なかなかどうしてひねくれた性格をしてやがる。」

その言葉に、暗望ちゃんは何も反駁することはない。いつもの如く、妖しげな微笑みを貼り付けているのみだった。



「それじゃあ話してやるとするか。答え合わせの後は必ず、解説がいるからな──────。」



「この話でキーワードになるのは" 時間 "だ。ここでは前提として、時間の流れは螺旋状になっているものとして考えてくれ。


そう、続き続ける、さりとて無限ではないし永遠でもない螺旋階段だ。


一段上がって未来へ行き、一段下がれば過去へ戻る。だからやっぱり基本的には一方通行なわけだが・・・・・・。」



「たまにその階段から" 落下 "する者がいる。足を滑らせ、階段を踏み外したわけだ──落ちて落ちて、過去へと戻りまくる。

所謂(いわゆる)時間遡行(タイムスリップ)ってやつだよ。


そうするとどうなる?単純さ。

未来の自分──と言うべきなのかどうなのかは知らないけれど、落ちた自分と、落ちた先の時間軸の自分とが共存することになる。

この場合、暗望と同い年である16歳の八橋 京は、落ちた先の時間軸に存在する人間だ。だからこの時空においては、彼女の存在が本物。」



「じゃあ、こっちへ落ちてきた京ちゃん──さん?が偽物だとして、同じ時間軸に同一人物が存在したらまずいわけだろ、どうするんだ?」

僕は洞木の巧みな説明に聞き入っていたものの、しかしながらどうしたって事件の要点はそこにあるわけで、解決する際の手立てを考慮するに際してもそこを無視するわけにはいかないのだった。


「そう結論を急かすな。別にこっちへ来た八橋 京だって、偽物というわけでもないんだよな──そういう意味では、本物という表現も不安定で不確定なもんか。

そう、言うならば、彼女は«歪んだ存在»ってわけさ。」



「そして現状、この事態を解決する方法は二つある。

こちら側の八橋 京が死ぬか、あちら側の八橋 京が死ぬか。


────どちらかだぜ。」



「・・・・・・・・・っ!!」

愕然とした。

洞木の鋭刃のような言葉は、僕のひ弱な精神を大きく動揺させるには充分過ぎるほどで、僕はその場で視線を泳がせて狼狽える。



「な、なあ・・・暗望。あちら側の京ちゃんってのは────何歳だった?」



「知るわけないでしょう、そんなの・・・20代前半くらいでしょうかね?風貌も若々しかったし、動きも俊敏でしたよ。」

つまり。

つまりつまりつまり。

行き詰まり。


もし後者の選択を採用して、今現在の京ちゃんを救うべく未来の京ちゃんを殺したとしても、その時点で彼女はあと数年しか生きられないことが確定してしまう。

自分がいつ死ぬか判然とした人生なんて、ぞっとするほどぞっとしない。



「どちらの選択をするかはお前に任せるよ。依頼を受けたのはお前だしな────螺旋階段は、一瞬で落ちることは出来るが、一瞬で数年も昇ることは出来ねえんだよ。


救うってのは、そういうことだ。

変えるってのは、そういうことだ。必ず何かを捨てなきゃいけない。



──────────諦めろ。」

洞木はそう吐き捨てて部屋を出た。その閉鎖的な空間には、項垂れている僕と、神妙な顔つきの暗望が取り残されただけだった。




螺旋の呪い──時間遡行。




「・・・・・・おやおやおや。何やら退っ引きならない状況になりましたねえ。京ちゃんが時間を逆行したならば、私達は状況を逆境にしたのでしょうか。ふふふ────面白いほど笑えませんねえ。」



「なんで、余裕そうなんだよ。そんな・・・・・・。」



「余裕じゃありませんって。幼馴染が今すぐ死ぬのか死ぬのを待つかの二者択一に追いやられたのですから。


(いただ)けませんねえ、二者択一の回答──クローズドクエスチョンってのは。」

今朝の暗望の言葉を思い出す。

二者択一、イエスかノーで回答が出来ないものはオープンクエスチョンであって、ならばその逆として" 閉じられた質問 "があって然るべきなのだ──と。

恐らく彼女が言いたいことは、そういう意味なのだろう。



閉じられた状況。



逼迫した状況に、緊迫した逆境。

退っ引きならない逆行に、並々ならない遡行。

どちらにしろ八橋 京は死ぬ。

あらゆる帰結(エンディング)において、彼女は無惨に命を落とす────これぞ死劇。


«罪悪»。

デッドエンド。




教えてくれ。

僕は一体、どうしたらいいんだ?

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