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無題  作者: ねろ
18/81

咽び泣く季節

さてさて。

前回に引き続き、お得意の雑談タイムだ。

お喋りをしようじゃないか。



僕は«命題»の彼らを友達と形容したけれど、もしも仮にそれを仲間と言ったところで、恩人と表したところで、結局それの指す意味に大きな差はないように思うのだ。

ただどんな形容をしたにしても、あの各々が個性に溢れた、非常に奇矯な面々を大切な人として感じた僕の気持ちに、何かしらの変化が訪れるわけでもないのだから。

そう思う。



そしてその僕は今──真っ当な人生を全うしようとしている誠実な一介の男子高校生であるところの僕は今、あろうことか、あるべきことか、そんな曖昧模糊とした関係性を互いに維持し続ける彼ら彼女らのために、命を賭けている。命を懸けている。

体を張っているのだ──本当に張っているのは、意地かもしれないし、見栄かもしれないけれど。



何故だ?

いや、それはあの日あの時の出来事が関係しているのだろう。


遊海ちゃんの襲来──洞木の救済。


そしてそれ以前の、僕の中に«最悪»が芽生えた契機と言えよう数年前の«絶望»。

まあなんだ、そのエピソードは数話先の話になるから乞うご期待──というか、しばらくお待ちいただきたい。


coming soon、暫し待たれよってやつ。


それが分かるまで、僕は欺瞞だけで生きるおかしなヤツだと思われてしまうのだろうけれど、展開上の都合と言うものだ。

ただの風変わりな主人公として、一味と言わず二味も違い、一癖も二癖もある語り部として、この作品を楽しんでくれ。



閑話休題。

今回の本題はそんなことじゃない──自分語りを際限なく続けるというのはどうにもつまらない。聞き手としてはやはりマンネリ化してしまうのだろうし、語り手としても実はうんざりしてしまうものなのだ。

だから今回は、対峙すべき、退治すべき敵について語ってみよう。

ソイツの濫觴(らんしょう)について。



旭川 黒羽。

殺し屋ギルド«鴉»のボス──見た目は幼女。その実600歳。

自身の複製品(コピー)を用いて僕らに接近した時は確か14歳と名乗っていたけれど、暴走して自意識を投げ出した複製品(クローン)と異なり、彼女は自我を持っている。

生まれてから──本体に作られてから、14年が経過するという意味なのだろう。

多分。


そうそう、語り忘れていた。

肝心の異能について。

彼女の能力は、そう、正確に表現するならば生命エネルギーの操作。これは後々知ったことだけれど、«大虚鳥(おおそどり)»という、彼女を呼称する際の二つ名は、どうやら元々異能力の名前を流用しているそうだ。


死体──というか、死んでいなくても別に構わない。生死状態を問わず、生物の身体にエネルギーを注入したり、吸収したりする能力だ。

死体に活力を注入すれば、ある程度の自我と自意識を持った、されど己の意のままに操作出来る複製品が出来上がるし、既に命を有している生物にそれを行えば、常識を逸脱するほどの力が手に入る。

それを利用して、不老不死(正確にはこれも違う。条件によっては本当に死んでしまうらしいが)なんてのも──────。


なんてのも、実は可能なのだった。

実際、旭川 黒羽の本人がそれを行っている。



つまり僕は、不老不死という逸脱した能力(スキル)を、キャラクターとして些か(ずる)いような能力を持ち合わせる奴を相手にするというのだから、これは事件解決、事変解決どころではない────それ以前に、目の前の問題を解決することすらも生半(なまなか)ではない。

単純に言えば、ヤバいってやつだ。


そう。

ただのそれだけだったなら、「おいおい、難易度設定を間違えたのか?不老不死だなんて、いくらなんでも相手の能力がチートすぎるぜ」と半畳を入れられるのだが(誰にだよ)、実の所はそんなわけでもない。

そんな甘いわけでもない。

物語は予定調和で進むが、人生はそういうわけにはいかないのだ。

予定の調和ではなく、予定の飽和。



おっと。

冒頭から説明的になりすぎてしまった──これはよろしくない。

語り部としても望ましい展開じゃあないし、無論、読み手としても飽きて呆れて諦めてしまうくらいの、冗長すぎるほどに冗長な前置きだろう。


安心してほしい、梗概は大体語り終えた。

それではここから、百発百中の四苦八苦、千載一遇の一か八か、千差万別のその場凌ぎと朝三暮四の行き当たりばったりな、そんな因循姑息な本編を語らせてもらおう。


ここまで読んでくれた読者の皆。

よく耐えてくれた──ありがとう。

心の底から、お礼を言おう。






「彼らは友達だ。だから僕は、だからこそ僕は、あんたを許すわけにはいかない────。」



「あんたを許しちゃあ、いけないんだ。」



「ほざくなっ・・・・・・!!」

旭川 黒羽は叫ぶ。

拳を握りしめ、憤怒の形相でこちらに睨眼を差し向けてはいるものの、しかし彼女はその場に立ち尽くしたままだった。

一歩たりとも動かない。



「何が友達だ・・・私という人間を完成させてしまったのは、アイツじゃあないかッ!!」



私という人形を造り出した・・・・・・?

どういう意味だ?



旭川 黒羽という少女を──。

作り出したのは。

造り出したのは。

創り出したのは。


つくりだして、しまったのは。


彼女の言う" アイツ "とは、誰だ?



まさか。

まさかこいつにも、 " なにか " が あるってのか──────?



「ちょっと待て、何を・・・────っ」



「うるさいっ、黙れェェェーーーーッ!!」

旭川は想像を絶するほどの機動力で、瞬発力で、こちらへ跳んだ。

低空ではあるが、それは飛んだと言ってもおよそ差し支えのないほどのレベルで、それを彼女と相対する正面で目の当たりにした僕は、カウンター攻撃として狂腕・«罪悪»を振るうことすらも失念してしまっていた(実際、今の僕にはそれが出来たはずだ)──────そして彼女が僕の首元にまで攻撃のリーチを伸ばしたその瞬間に、漸くそのことを思い出す。


思い出すというか、思い返す。

走馬灯のように、かつての人生の全てを。


もう手遅れ──間に合わない。

激昂状態とは思えないほどの的確な狙いが定められた、その一撃を食らって死ぬ。

それが生命を操作するほどの人外の力を放つものであるならば、より生還は望み薄だ。

確率なんて考えるまでもない。

言ったろ、百発百中の四苦八苦って。




畜生。畜生。畜生。




また失敗した。

しくじったんだ。

やらかしたんだ。



自己嫌悪。

同属嫌悪。



嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。嫌悪。憎悪。



失敗からも失態からも、後悔からも屈辱からも、いつまで経っても何も学ばないんだ、僕は──────愚かしいなんて言葉じゃあ済まされない。

馬鹿の一つ覚えなんて言えど、一つでも覚えられりゃあ、それは馬鹿なんかじゃあないんだよ。


本当にどうにもならない、本当にどうにも出来ない、どうしようもない馬鹿ってのはなあ────!!




そう思ったところで、悲哀に満ちた刃の切っ先が視界に映る。銀色に煌めく刀身と共に、大太刀の輪郭がゆらりと揺れる。

旭川──彼女が構えているのは日本刀だった・・・・・・今度は誰の能力をコピーしたのだろうか。

まあ、誰でもいいよ。

どうせ、それを知る由はないのだし、知ったところで、冥土の土産がそんなものではつまらなさすぎる。僕のようなつまらない人間は、せめて夭折(ようせつ)した彼らに、面白い土産話のひとつでも持って行ってやりたいものだったんだけれど。


未練たらたらのどうしようもない愚者は、ここでやっと瞼を閉じた。


物語の幕も。

同様に、やっと閉じられた。




しかし。

刹那、閉じられた瞼の向こう側。

翡翠の色をした火花が散ったようだった。





「君の物語はここで幕を閉じた──はずだった。」

朦朧とした意識で薄目を見開く。

一人の青年が僕らの間に介入していた。

まるで二人を仲裁するかのように、鳥の羽の如く両手を広げて。

切り落とされたはずの、左手も。

同様に、広げていて。


「" はずだった "までちゃんと言いきれよ。予定調和と予定飽和を全部まとめて覆すような«大嘘突き»にして«大嘘従き»こそが、君の本質だろう?」

彼はひとりでに語り続ける。



「大丈夫。君は愚か者なんかじゃあないさ──安心しなよ。本当の愚か者は、生きる目的を持たない者を指す。惰性でも堕性でもない、心に空いた虚無の空洞に落ちたことすら気づかない者を指す。」



「じゃあ俺が教えてあげよう。君は何のために生きるのか?」



そして彼は、旭川の振るった大刃を白刃取りした腕をそのままに、もう片方、こちらへと伸ばした腕で、僕の肩へと優しく手を置く。

それに続けて言葉を発した。


彼は漸く、僕を見た。

生きたままの、生きっぱなしの、レールから外れ、ルールから反れてしまった脱獄犯のような眼差しをしている、僕のことを。

見つめた。






「君が生きるのは、死ぬ為だ。」






桜木(さくらぎ) 葉落(はおち)は、確かにそう言い切ったのだ。

場に不相応な、穏和な笑みで。




ならばこれもまた、滑稽譚。


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