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めでたくバルディウス殿下の新居が決まり、僕らは公爵邸の離れから引越しをするための準備をしていた。
「新居で暮らすために引っ越しをしなければなりませんが、準備の方は進んでますか?」
「はい、殿下。持って行く荷物は意外と少なく準備は着々と進んでおります。それよりもこの離れの備品で新居には持って行けず、買い足さなければならないものが結構あります」
「買わなければならないものをリストアップしてください。それをハルボアヒル商会に渡してそろえてもらいましょう。必要なものを買いそろえることができたら引越ししましょう」
こうして必要なものを買いそろえ、荷物を運びだし僕らの引っ越しは終わった。今まで暮らしていた離れから引っ越すのは少し寂しさを感じるものだった。
「それでは、父上、母上、今までお世話になりました。これからは公爵邸の離れからでて自分の家で暮らしていきます」
「うむ、何か困ったことがあったならいつでも頼って来なさい。それからお前とルナリー嬢の結婚が正式に宮廷に認められた。これからは本当の意味での婚約者となる。おめでとう」
「ありがとうございます、父上」
「バルディウス、いつでもうちに帰ってきてもいいのですからね」
「わかりました、母上」
「では、父上、母上お元気で」
こうしてバルディウス殿下は公爵邸の離れから出て新居で暮らすことになったのだった。
「さて、引っ越しも無事に終わりましたね。ご近所にも挨拶はし終わりましたし、次は何をすればよいのでしょう?」
「ルナリー様をお茶会にでも招くのはどうでしょう?」
「そうですね、ルナリーに引っ越したことをまだ伝えていませんでしたし、お客様を迎えてこそ居を構えたという感じがしますからね」
「お茶会をするのはいいですが、新居には侍女がいません。そのことはお忘れなく」
「そうでした。公爵邸の離れにいた時に借りていた侍女のアンジュは公爵邸に返したのでした。少々不便になりますね。サモンドはルナリーをお茶会に招いてください。開催日は明日にしましょう。アルベルト君は茶菓子の用意をお願いします」
「僕ら二人に同時に命令を出すと殿下の手元に誰も残らなくなりますが大丈夫ですか?」
「少々のことなら一人でも大丈夫です」
「わかりました。命じられた仕事をします」
翌日、ルナリー様がお茶会にやってきた。
「ようこそいらっしゃいました、ルナリー。無事引っ越しも終わりこうしてあなたを招くことができるようになりました。どうか楽しんでいってください」
「お招きありがとうございます、バルディウス様。ご招待とてもうれしく思いますわ」
「では早速あがってください。お茶にしましょう」
「はい、バルディウス様。」
部屋へとあがり、早速お茶の準備がされる。準備しているのはサモンドさんだ。それを見てルナリー様は殿下へ尋ねた。
「お茶の準備をサモンドさんが行っているようですが侍女はいないのですか?」
「ええ、侍女は雇っていないのですよ。前に公爵邸の離れに住んでいた時は本邸から侍女を借りていたのですが……」
「まあ、侍女がいなければ不便ではないのですか?」
「そうですね。下働きならサモンドやアルベルト君がしてくれますが、時々手が足りないと思うことはありますね」
「それではこれから侍女をお雇いになるのですか?」
「それをルナリーと相談しようと思っていまして。ルナリーは私と結婚するときに侍女を実家から連れてくる気はありますか?ルナリーが侍女を連れてくるなら、侍女の採用はその連れてきた侍女でいいかなと思いまして」
「まあ。私が侍女を連れて嫁入りしてもよろしいのですか?」
「ええ、その方がルナリーも暮らしやすいと思いまして」
「ユニ、あなた私が結婚してもついてきてくれますか?」
ルナリー様が連れてきている侍女に尋ねる。
「もちろんです。ルナリーお嬢様が望むのならついて行きます」
「まあ、ありがとう、ユニ。私とっても嬉しいわ」
ルナリー様はそう言って顔をほころばせた。
「ルナリー、良かったですね。では侍女はルナリーと結婚するときに連れた来るということでいいですね。それではお茶にしましょう。お茶菓子は王都でも有名なポエズ・デ・フーグルというお店の焼き菓子です」
「まあ、ポエズ・デ・フーグルですか。私はそこのお菓子が大好きなんです」
「それは良かった。遠慮せずに食べてください」
「そういえば、私とルナリー嬢の結婚が正式に宮廷に認められたと父上がおっしゃっていました」
「本当ですか、バルディウス様。私嬉しいです」
「ええ、私もとっても嬉しいです」
「これで私はバルディウス様の正式な婚約者となることができたのですね」
「ええ、そうです。私たちは正式に婚約者だと認められました。あとはルナリーが婚約者だとお披露目をして、結婚式をあげることができればよいのですが……」
「何か問題でもあるのですか、バルディウス様?」
「実は引越しにお金を掛けたため、今のところ少々懐具合が寂しく、お披露目の宴を自力で開催するのはなかなか厳しいのです。早急に開催するには、父上に頼んでみることになりますね」
「まあ、そうでしたか」
「ええ、そういうわけですから、情けない話ですが婚約者お披露目の宴はもう少々お待ちください。父上と交渉してみます」
「はい、バルディウス様と正式に婚約できたのです。少々待つくらいどうといこともありませんわ」
「そうですか、ありがとうございます。ああ、お茶のお代わりはいかがですか?」
「はい、いただきます」
こうしてルナリー様をお客様として迎えたお茶会は無事に終わった。次はルナリー様がバルディウス殿下と婚約したことを知らしめるためのお披露目の宴を殿下は開きたいらしい。今の僕らにはジルバーン公爵様に頼って宴を開いてもらうのが最善だ。殿下はそのためにジルバーン公爵様との面会を依頼したのだった。




