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ブレウワルド王国建国400年目の記念のパーティーが王城で行われる。バルディウス殿下は当然招待されているので、僕らは王城へ行く支度をして出かけた。出かける途中街が賑やかなことに気づく。
「今日は街もずいぶんと賑やかですね?」
殿下の質問に僕は答えた。
「街でも建国400年目の記念としてお祭りをやるそうですよ。賑やかなのはそのせいですね」
「お祭りですか。どんなことをやるのでしょう?」
「僕は王都のお祭りは初めてで詳しくは知りませんが、いっぱい食べたり飲んだりするのではないでしょうか。」
「なるほど。それは楽しそうですね」
そうこう話しているうちに王城へと着いた。サモンドさんが招待状を見せ門を通る許可をもらう。入城して使用人に案内された部屋はとても広く立派なパーティー会場であった。殿下は目ざとくジルバーン公爵様を見つけてそちらのほうへ向かう。
「父上、アルセウス兄上、本日のレースは誠に残念でしたね。『ベロステン』は2着であとほんの少しのところで優勝できるところでした」
「うむ、優勝できなかったことは誠に残念だった。優勝まであと少しだったな。実に悔やまれる」
「バルディウス、レースは来年もやるんだろう?そこでリベンジだ。今度こそ絶対に負けん」
アルセウス様がそう言った。よほどドラゴンレースで2着になったのが悔しかったのだろう。手をギュッと握りしめ震わせている。
ドラゴンレースが2着で終わった悔しさを話し合っていると、招待客もそろったのかパーティーの開始を告げる挨拶が始まった。
「皆のもの、本日はブレウワルド王国建国400年目を祝うパーティーに参加してくれて感謝する。我が国がさらなる繁栄を迎えるためにも、この機を利用して皆がよりよい関係を紡ぎ、これからのブレウワルド王国を支えてほしいと願っている。それでは建国400年を記念して乾杯!」
国王陛下の挨拶でパーティーが始まった。まずは公爵様達は王族の皆様へと挨拶市に向かった。
「国王陛下、この度は建国400年を迎え……」
「私とお前の仲だ、そんな堅苦しい挨拶はよい。それより、昼間のドラゴンレースだが、あれは実に惜しかったな。ゴールがもう少し遠ければ逆転したかもしれぬ」
「ええ、実に口惜しいレースでした。また来年鍛え直して出直しましょう」
「昼間のドラゴンレースといえばすごい盛り上がりだったのう。バルディウスよ。お前が考えたドラゴンレースで建国400年目の記念式典は無事に終えることができた。よくやったな」
「もったいないお言葉、ありがとうございます、陛下」
「来年もドラゴンレースを行うということだが今から楽しみだ」
「ご期待に添えるように努力いたします」
「我らばかりが陛下と話しているわけにもいきませんでしょう、では陛下これにて失礼いたします」
陛下との挨拶を終えて公爵様達は自分たちの席へと戻ってくる。後は自分たちに挨拶に来るものたちを待つのだ。公爵様達は自分たちの席で豪華な料理を食べている。僕は周りの様子を窺った。話題になっているのはやはり昼間に行われたドラゴンレースについてで、優勝したラングボルツ侯爵のドラゴン、『アプスラーゲン』を褒めるものだったり、自分のドラゴンを出場できなかった悔しさを述べるものだったり、自分の勝利ドラゴンの予想が当たって一儲けしたというものだったりと様々であったが、おおむねドラゴンレースそのものが受け入れられている発言であったため、僕は安堵した。
いくら庶民にドラゴンレースが受け入れられても、ドラゴンを所有し、レースに出場させるのは貴族様達だ。そのため、貴族様達の間でドラゴンレースが受け入れられないとドラゴンレースの存続はできなくなる。僕はドラゴンレース存続のためにも貴族様達に受け入れられるドラゴンレースを行っていかなければならないと心にとどめた。
そんなことを考えている間に、公爵様達に挨拶するためエルドリッチ子爵様がやってきた。
「公爵様お久しぶりでございます。お昼のレースでは惜しいレースでございましたね」
「久しぶりだな、子爵殿。息子のバルディウスが世話になっている。子爵殿には感謝しきれんな」
「いえいえ、バルディウス殿下は実に良く働いてくれています。公爵様の教育がよろしかったのでしょう。ドラゴンレースの開催に大いに役立ってくださいました」
「バルディウスにとっては初めて与えられたお役目で、迷惑をかけているのではと心配してましたが、子爵殿がそう言うのであれば安心できます。愚息も少しは成長できたみたいで何よりです。今後もよろしくお願いします」
「こちらこそ今後もよろしくお願いいたします」
エルドリッチ子爵様はそう言うといそいそと他への挨拶のためにこの場を去ったのだった。
「バルディウスよ、今後ドラゴンレースはどうなる?」
「来年からは着順に応じて賞金を支払うように変わります。また、レース回数を少しずつ増やそうかという案も出ております。その際にはメスのドラゴン限定のレースにするとか、年齢に限定制限を設けるといったような案が出ています」
「そうか、なるほどな。やはり今のうちからドラゴンの畜産に力を入れておくのが得策だろうか。バルディウスはどう思う」
「今後レースが増えていくことを考えますと、ドラゴンの畜産に今から力を入れていくのはよい考えだと思います。良いドラゴンは今後今まで以上の値で売れるようになると思われます」
「そうか、わかった。考えておく」
その後は貴族様達が次々と挨拶しに公爵様のもとへ訪れた。公爵様は淡々と挨拶をこなしていく。偉い立場というのも大変だ、そう思いながら殿下の後ろに僕は控えていた。
もう間もなくパーティーも終わるというころ殿下が言った。
「今日のパーティーの主役はラングボルツ侯爵様でしたね。大勢の貴族たちに囲まれて祝福の言葉を受け取っていました」
「そうですね、すごい人気でした」
「ドラゴンレースの優勝者がそれだけ人気者になれるということは、ドラゴンレースもそれだけ人気があるということです。来年のレースに向けて頑張らねばなりません」
「はい、そうですね。頑張りましょう」
今夜のパーティーはドラゴンレースの成功とその人気がよくわかるパーティーだった。僕らは来年のドラゴンレースも成功させようと心に誓ったのだった。




