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建国400年目の記念式典も終わり王都が普段に賑わいを取り戻したころ、僕達バルディウス殿下とその家臣は久しぶりののんびりとした時を過ごしていた。
「いやあ、建国400年目の記念式典も無事に終わり、静かな日々が戻ってきましたね」
「バルディウス殿下、この静かな日々はほんの一時のものです。来年のドラゴンレースに向けて、決めなければならないことが残っています」
「そうでしたね。つい最近まで建国400年目の記念式典を成功させねばというプレッシャーがあったため、それから解放されて気を抜きすぎてしまいました。しかしながら、せっかくのゆっくりできるお休みです。何か有意義な過ごし方はないのでしょうか?」
「インデラウンドの街にでも出てみましょうか?建国400年目のお祭り騒ぎはもうだいぶ静まったでしょうけど、何か面白いものがまだ残っているかもしれません」
「そうですね。ただ部屋に籠っているのも退屈ですし、少し街を散策しましょうか」
「わかりました。では出かけましょう」
こうして僕らは王都であるインデラウンドの街へと繰り出すことになった。
「まずはどこへ行きますか?」
「中央区の市場へ行ってみましょうか」
市場への道を歩く。どうやらお祭り騒ぎはもうとっくに終了していて、市場は普段の姿を取り戻していた。
「これではいつもと変わりませんね。何か面白いことはないですかね?」
「あちらに人だかりができています。行ってみましょうか?」
「そうですね、面白いことをやっているといいのですが……」
向かった先にいた人だかりの中心にいたのは吟遊詩人であった。まるで何かを歌うように語っている。よく聞いてみるとそれは建国400年目の記念式典で行われたドラゴンレースの様子だった。吟遊詩人はレースの様子を情感をたっぷりと込めて語り、その洗練された語り口は、まるで今目の前でレースが行われているようだった。吟遊詩人をとり囲む客たちは、その語りにいちいち反応しては驚いたり、興奮したりと声を上げ大盛り上がりであった。
やがて吟遊詩人の語りがレースの終わりの話に差し掛かると、観客はよりいっそう盛り上がり、レースの決着の場面では観客の盛り上がりは最高潮に達したのだった。そして吟遊詩人の語りが終了すると観客は次々とお代を置いて立ち去るのだった。殿下もお代を置いて吟遊詩人に話しかける。
「今の語りは建国400年目の記念式典で行われたドラゴンレースの様子でしたね。結構な人気があるように見えましたけど、それほど人気な話題なのですか?」
「今最も人気のある話題だよ。当日ドラゴンレースを見に行けなかった人達や、見に行っても遠くてどうなっていたのかよくわからなかった人達がたくさんいるからね。こうして語っているのを聞きたがる人は多いのさ」
「それだけドラゴンレースは人気があったわけですね?」
「ああ、数少ない庶民の娯楽の中でも最も新しく大掛かりな娯楽だからね。さっきの通り大人気さ。来年もやるんだろう?今から楽しみにしている人達もいるくらいさ。今度こそ勝利ドラゴンを当ててみせるって気合を入れている人達も何人もいるくらいさ。」
「なるほど。王都の民衆には大人気でしたか」
「王都だけじゃないと思うね。レースで優勝したラングボルツ侯爵様の領地で語ればきっとさっきにもひけをとらないほど盛り上がると思うね」
「そうですか。よくわかりました」
殿下はそう言って、手を振り吟遊詩人と別れる。
「聞きましたか?サモンド、アルベルト君。どうやらドラゴンレースは庶民の間では大盛況のようですね。レースが終わって数日たつのにもかかわらず吟遊詩人に語られて大盛り上がりの様子です。これは、来年のドラゴンレースも気合を入れて取り掛からねばなりません」
「そうですね。予想以上の人気です。ありがたいことです」
そう言って僕らはその場所を離れた。
僕らは中央区の市場から富裕層向けの高級店が並ぶ通りに移動した。通りを歩いているとバルディウス殿下が声をかけられた。
「そこを往くのはバルディウス殿下ではありませんか?」
「これはニューフェルダー伯爵様、奇遇ですね」
声をかけてきたのは建国400年目の記念式典のドラゴンレース本番で7着になった『ブレンザ』というドラゴンを所有するニューフェルダー伯爵様であった。
「ええ殿下、奇遇ですね。建国400年目の記念のパーティーではゆっくり話もできませんでした。今からちょっと話をしませんか?」
「もちろん構いませんよ。伯爵様、記念式典のドラゴンレースでは残念でしたね」
「いえいえ、予選を勝ち抜き本番に出場できただけでも十分だと思っています。あの大勢の観衆を前に自分のドラゴンを走らせることができて誇りに思っています」
「そうでしたか。私もあのドラゴンレースを開催できたことを誇りに思っているのです」
「ええ、実にいいレースでした。ところで殿下、ドラゴンレースは今後毎年行われると聞いているのですが間違いはございませんか?」
「はい、その通りです。今のところ毎年開催するということになっています」
「そうですか、それはいい。レース結果を誇りにお持っているとはいえ、やはり負けっぱなしは悔しいものですからね。次の機会があるといううのなら是非勝ってみたいものです」
「伯爵様もですか。うちの父上も今後のレースで勝利を狙っているようでした」
「ジルバーン公爵様もですか。それは手ごわい相手ですね。気合を入れて取り掛からねばなりませんね」
「こうして来年のドラゴンレースも勝とうとしてくれる人達がいる限り、レースはきっと盛り上がり成功することでしょう。私たちも頑張って良いレースを開催しましょう」
「私からもお願いします。私のドラゴンが勝つまではレースが続いてほしいですからね」
「ええ、できれば今後もずっと行われるブレウワルド王国の伝統となってほしいのです」
「ブレウワルド王国の伝統ですか。それはいいですね。伝統となりずっとレースが続けられるということは、勝ったドラゴンの名ものちに残るということです。ますますレースに勝ちたくなりましたね」
「ええ、私たちも頑張ってレースを開催するので、伯爵様も頑張ってドラゴンを育ててください」
そう言って、殿下と伯爵様との会話は終わった。その後は特に何事もなく公爵邸の離れに戻った。
僕は殿下と伯爵様の会話にあったようにドラゴンレースをブレウワルド王国の伝統にするために頑張ろうと決意した。




