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間もなくレースがスタートする。いよいよこの国で一番のドラゴンを決めるレースが始まるのだ。僕は緊張して無意識のうちに固く手を握りしめていた。顔もこわばっていたのだろう。そんな僕を見てバルディウス殿下が僕に声をかけてくださった。
「落ち着いてください。後はもうレースがスタートするだけです」
殿下の言葉に、僕は落ち着きを取り戻そうと努力する。ただ、それができたかは疑わしかった。なぜなら、待ちに待ったドラゴンレースが始まるからである。勿論、模擬レースや、予選レースは見てきた。だが、多くの観衆や貴族たちそして王族の前で行われるこの本番のレースは緊張感が違った。出場するドラゴンの所有者やドラゴンに騎乗する人達の緊張と絶対に勝つぞという気迫がまるでそのまま伝わってくるかのようだった。
そしてついにレースがスタートする。大歓声が上がる中ハナを切って上がって行ったのは9番のフレヒバウム卿のドラゴン、『ピーハディー』、続いて5番のラングボルツ侯爵のドラゴン、『アプスラーゲン』が追いかけるようだ。
そのあとは6番のマルシュホール男爵の『トラウリッヒ』と、1番のジルバーン公爵所有の『ベロステン』が続く。
さらには、2番のニューフェルダー伯爵の『ブレンザ』、3番のスプレゲン卿の『ポジティオン』、10番のヒルリンダー卿の『ゼーグーター』がかたまって進んでいる。
少し遅れて7番のデフロス卿の『グリネスブロウト』、8番のゾンドルフ卿の『インクルバツィオン』、最後方は4番のブラウスブラド子爵のドラゴンである『ワンダバル』だった。
先頭の『ピーハディー』と『アプスラーゲン』は良いスタートだった、反対に最後方の『ワンダバル』は少しスタートを失敗気味だった。
第一コーナー、第二コーナーと回り、先頭は変わらず9番の『ピーハディー』と5番の『アプスラーゲン』が争っている。続いては、6番の『トラウリッヒ』と2番の『ブレンザ』、少し下げて1番の『ベロステン』、以下3番の『ポジティオン』、10番の『ゼーグーター』少し遅れて7番の『グリネスブロウト』、8番の『インクルバツィオン』、最後方は4番の『ワンダバル』と言ったところか。
先頭のペースが少し早いんじゃないかと僕は心配になる。前を走っているドラゴンは途中でばててしまうんじゃないだろうか。
直線に入り、先頭は9番の『ピーハディー』、その後に続いて5番の『アプスラーゲン』、さらには6番の『トラウリッヒ』と2番の『ブレンザ』が続いている。少し遅れて1番の『ベロステン』、3番の『ポジティオン』、10番の『ゼーグーター』、さらには7番の『グリネスブロウト』、8番の『インクルバツィオン』、最後方の4番の『ワンダバル』が少し上がり始めたか。
先頭は変わらず飛ばしている。少しずつ集団がばらけ始めてきている。
第三コーナー、第四コーナーを回り観客席正面の直線に入る。またも大歓声が上がる。先頭はいまだ9番の『ピーハディー』、その後に続いて5番の『アプスラーゲン』、2番の『ブレンザ』が上がりこの位置につけている。さらには6番の『トラウリッヒ』少し遅れて1番の『ベロステン』、3番の『ポジティオン』、10番の『ゼーグーター』さらには7番の『グリネスブロウト』、8番の『インクルバツィオン』、そして4番の『ワンダバル』は8番『インクルバツィオン』に並びかけている。
2回目の第一コーナー、第二コーナーと回る。順位は変わらないが先頭と後方の差が少し詰まったか。
直線に入り、先頭の9番の『ピーハディー』に5番の『アプスラーゲン』が並びかける。2番の『ブレンザ』さらには6番の『トラウリッヒ』も差を詰めてくる。少し遅れて1番の『ベロステン』、3番の『ポジティオン』、10番の『ゼーグーター』、7番の『グリネスブロウト』、8番の『インクルバツィオン』、そして4番の『ワンダバル』という位置取りだ
第三コーナー、第四コーナーを回り観客席正面の最後の直線に入る。割れんばかりの大歓声だ。先頭は5番の『アプスラーゲン』に変わった。9番の『ピーハディー』の脚はもういっぱいか。すごいスピードで1番の『ベロステン』、3番の『ポジティオン』が上がってくる。7番の『グリネスブロウト』、8番の『インクルバツィオン』もいい脚だ。
ゴールに最初に飛び込んだのは黄色の帽子、5番の『アプスラーゲン』だった。2着には1番の『ベロステン』、3着は3番の『ポジティオン』。以下、9番の『ピーハディー』、7番の『グリネスブロウト』、8番の『インクルバツィオン』、2番の『ブレンザ』、6番の『トラウリッヒ』、10番の『ゼーグーター』、4番の『ワンダバル』という着順だった。
「黄色だ。黄色の帽子のドラゴンが勝ったぞ!」
そう騒ぐ観衆が大勢いた。
ついにゴールしたのだ。観衆は大声を上げてゴールしたドラゴンを称えた。建国400年目の記念式典のドラゴンレースの覇者が決まったのだった。僕は感動に打ち震えていた。
5番の『アプスラーゲン』に乗るラングボルツ侯爵様のご子息コーネリアスはガッツポーズをしながらウィニングランをして観衆から大きな声援を浴びている。それが終わると、優勝ドラゴンの『アプスラーゲン』の所有者であるラングボルツ侯爵様優勝記念のメダルが授与された。ここでもひときわ大きな歓声が上がった。
1着『アプスラーゲン』の最終オッズは3.2倍で払戻金を受け取る勝利ドラゴンの投票券引換所は黄色に塗られた投票券を持つ人達で凄い混雑を見せたが、王都軍兵士の誘導もあって混乱することなく無事に払い戻すことができた。
こうしてドラゴンレースは無事に幕を下ろした。僕は感無量だった。田舎の農村で生まれ、その何もなさに絶望しながらも、ドラゴンに出会いいつかドラゴンレースを開くといった夢を持つようになり、ようやくそれが実現したのだ。言葉では言い表せない思いでいっぱいだった。そしてこのドラゴンレースは今日だけではなく来年もその次の年も行う定期事業として認められているのだ。来年も再来年もこれからずっとドラゴンレースを見ることができる。僕は早くも今後のドラゴンレースが楽しみで仕方なかった。
「無事に終わりましたね」
バルディウス殿下がエルドリッチ子爵様に言った。
「そうだね、無事に終わったね。皆のもご苦労だった」
この後は王城で記念パーティーが開かれる。殿下も子爵様も招待されている。僕らは急いで支度し、王城へと向かうのであった。




