36
今まで主人公のアルベルト視点で書いてきましたが、今回途中で視点が切り替わるところがあります。
注意してお読みください。
僕が書いたドラゴンレースの計画書は殿下を驚かせた。だが僕の熱のこもったプレゼンテーションが功を奏したのか、殿下から提出の許可を得ることができた。殿下からも計画書の資料におかしなところがないことを確認してもらい、城門の門番に提出した。それは提出期限日ぎりぎりの日のことだった。
私の名はヴィルヘルム・ブレウワルド。このブレウワルド王国の国王をしている。国王をとは面倒なものだ。宮廷貴族は国のことを考えるより自分の懐が潤うことばかりを考え、領主貴族は国に忠誠を誓っていても自分の領地のことを一番に考えている。それらの利害を調整し国体を保つというのは実に面倒なものだ。普段は面倒なことばかりしているのだ。だから少しぐらい楽しいことをしても問題あるまい。私はそう思って来年の建国400年目の記念式典を楽しいものにしたいと考えた。だが、大臣共から猛反発を食らってしまった。パレードなぞいったい何が楽しいのだ。だから私は何か楽しい企画がないか宮廷会議に出席している上級貴族共に考えさせたがいい案は出なかった。そこで私は一般公募によって何かいい案が出てこないかを期待することにした。そして今日その公募された案の中からいいものがないかを探し出す宮廷会議の日であった。
「法務大臣よ、公募はどうだった?たくさん案は送られてきたか?」
「たくさん送られてはきましたが、実現不可能な案や同じような内容の案が多く、実現できそうな案の種類は数えるほどですな」
「いくら建国400年目のめでたき記念式典とはいえ、予算には限りがある。予算を大幅にオーバーするようなものは却下じゃからな」
「財務大臣のいうこともわかるが、400年目の記念式典だぞ。予算をケチってみすぼらしいものにするのもいかん」
「それはわかっておる。まずは一つ目の案から精査していくぞ」
こうして精査していくが碌なものがない。大通りをめいいっぱい使った市を行うとか、料理コンテストを行うとかつまらないことが紙切れ一枚に書かれていて次々に案が読み上げられるが却下されていく。このまま仕方なくパレードをすることになるのかと思っていると、文官によって新たな紙束が持ち込まれた。
「なんだ、まだそんなに案を持って来た人達がいたか」
私が持ち込まれた分厚い紙束に光明を見出して言ったがそれはすぐに否定された。
「いいえ、これは一人の人が持ち込んだ企画案です」
「なんだ、一人でそんなにいくつも考えてきたのか?」
「それも違います。これ全部が一つの企画案の資料となっております」
「なんと!」
驚きの声が上がるのも無理はなかった。
「とにかくそれを読んでみよう」
『建国400年記念式典におけるドラゴンによるレース開催の事業計画について バルディウス・ジルバーン』
そこに書かれていたものは式典の企画案ではなくて事業の計画書であった。
「バルディウス・ジルバーン?独立したばかりの公爵様の末っ子か?」
「誰が企画したかではなく中身が問題だ。続きを読もう」
『本計画の目的:血統制を導入してドラゴンレースを行うことにより我が国のドラゴンの能力強化を図り、レース順位を当てるギャンブルを行うことにより民への慰撫と当事業への予算充填を行うこと及び、ドラゴンに騎乗する我が国の伝統文化を守ること』
そしてその後にはレース場を作る場合のレース場設計図と建設費用の概算、ギャンブルを行った時の予想収益、血統制を導入することでの我が国のドラゴンの能力強化できる利点など細かくびっしりと書いてあるのであった。
「……」
目を通した誰もが無言だった。それまでの紙ペラ1枚の企画案にはない熱意と迫力がその紙束にあった。私はごくりとのどを鳴らし言った。
「財務大臣この案をどう思う?」
「そこに書いてある通りレース場建設には莫大な費用がかかりましょう。予算オーバーです」
「王都郊外にある王都軍の練兵場を流用すれば予算は安く済まないか?それにこの計画書に書いてある通り、建国400年記念式典だけでなく継続的事業として行った時の利益を考えてみよ」
「うむう、それならば許容範囲か?」
「軍務大臣はどう思う?」
「賛成ですな。血統制を取り入れて我が国のドラゴンが能力強化されるのは望ましいですし、最近大きな戦がないせいかドラゴンに乗れない貴族もいると聞く。それが見直されるかもしれないのも魅力的ですな」
「法務大臣はどう考える?」
「私からは一つですな。ギャンブルで身を持ち崩してしまう輩が出て治安が悪化する恐れがありますな。その辺はどうするつもりですか?」
「私的に闇で行われるギャンブルなぞ既にあるだろう。ギャンブルで身を持ち崩す奴はすでにいるだろう。それに公営でギャンブルを行うことで闇で行われるギャンブルに打撃を与えられるかもしれない」
「そういう闇ギャンブルはとりしまってるつもりなんですがね。とにかく陛下はこの案に乗り気なのですね?」
その通りだ。私の前で我が国のドラゴンたちが走り1番を競う。どう考えてもパレードなんかより面白そうではないか。
「その通りだ。これが実現したら計算ができる財務系貴族をある程度雇って収支計算や賭け率計算させる必要があるなぁ」
ピクリと財務大臣の眉が動く。財務系貴族の雇用枠が増えるのだ。財務大臣が雇用を斡旋し見返りに賄賂をもらったり自分の派閥を強化したりすることができる。そのことに気づいたのだろう
「ドラゴンレースの細かな規約の制定やその施行のためにも法務貴族も雇う必要があるなあ」
今度は法務大臣の眉がピクリと動く。
「ドラゴンレースに軍の騎士が出場して大活躍するかもしれないなあ」
軍務大臣の耳が動いた。
「どうだ、ドラゴンレースをやってみないか?」
3人の大臣達はついに同意したのであった。
「問題はこの事業計画の実行を誰に指揮をとらせればいいかだな?」
「計画立案者はバルディウス殿下となっているが、殿下がこの事業の指揮をとるには若すぎる。もっと経験がある者がふさわしい」
「かといって我ら大臣は通常業務だけで手いっぱいだ」
「誰か適任者はおらぬものか?」
「エルドリッチ子爵はどうだ?やつは公爵派だし、バルディウスの面子をつぶさずにやってくれると思うが……」
「それはいいですな子爵ならご自身の手で商売されていて人を近い経験もあるだろうし……」
「では決まりですな」
こうして建国400年目の記念式典にはドラゴンレースを行うことに決まったのだった。




