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 バルディウス殿下の独立生活が始まったがそれは前途洋々としたものではなかった。殿下は安い宮廷貴族の給金を節約するため、相変わらず公爵邸の離れに間借りしていた。そして役職につくために毎日就職活動をおこなっていたが手ごたえはなかった。この時代就職するには実力のほかにコネと金と運が必要だ。だが殿下には金と運がなかった。いくら就職したくても役職に空きがなければどうしようもない。しかも大概の役職は世襲と決まっている。役職に空きができて人員の募集があるというのは奇跡でも起きないありえないことだった。しかもそのわずかな可能性で空いた役職があってもそれを狙っているのは殿下だけではない。そうなると強いコネか沢山の上役への賄賂が必要になってくる。どうしても就職活動は殿下にとっては厳しいものだった。


 「殿下、このまま就職活動を続けても成果があるとは思えません。何かほかの方法をとってはいかがでしょうか?」

 「ですが、僕にはお金はあまり持ってません。誠意をもって頭を下げてまわる以外にできることがあるのでしょうか?」

 しばらくの間沈黙が続いた。そんなに簡単にはいいアイデアは浮かんでこない。

 「今日の就職活動はお休みにしてちょっと考えてみましょうか」

 そういうわけで本日の就職活動はお休みとなった。いろいろと頭をひねって考えてみるがよい考えは浮かばない。就職を希望する宮廷貴族の数に対して役職の絶対数が少なすぎる。その構造を根本的に変えない限り就職は難しいのではないか。だが、貴族の役職をいきなり増やす方法なんてものはあるのだろうか?どう考えても困難だ。

 「チェスでもして気分を変えましょうか」

 殿下もよい考えが浮かばなかったのだろう。突然そう言った。


 チェスか!それを聞いて僕に一つのアイデアが浮かんだ。

 「殿下、一つアイデアが浮かびました。就職活動は一旦止めて金策を行いましょう」

 「金策といっても何をするのですか?父上に借金でも申し込むのですか?」

 「いいえ、殿下。商売をしましょう」

 「貴族の商売は基本うまくいきません。本職の商人にはかなわないのです。それに元手とする資金もありません」

 「まずは僕が売りたい商品の見本を作りますのでそれを見てください」

 「わかりました。とりあえず見てみましょう」

 「それでは木工所に行って試作品を作ってもらってきます」


 数日後出来上がってきたものは四角い盤とたくさんの小さな円状の板だった。いわゆるリバーシである。異世界転生と行ったら定番のリバーシである。なぜなら制作が簡単なうえ、ルールが子供でもおぼえられるくらい単純、なのにゲーム性は奥が深い。しかも四角で区切られた盤に丸が次々に並んでいくのは幾何学的な美しさがあると思う。要は異世界でも流行る可能性が高い。

 

 僕は早速試作したリバーシのルールを殿下に教えた。

 「相手の色を自分の色ではさめば自分の色に変えられます。これを交互に繰り返して最終的には自分の色が多い方が勝ちです」

 実際に遊んでみると殿下は楽しんでくれた。

 「これは間違いなく流行りますよ」

 そう太鼓判を押してくれた。サモンドさんも面白いといってくれた。

 「殿下、問題は売り出し方です。普通に作って売ったのでは簡単に真似されてしまい、殿下の利益とすることができなくなります」

 「父上の力を借りましょう。このリバーシに公爵家の紋章を刻んで公爵家の専売品とします。貴族用の豪華版と庶民用の廉価版を作って売れば儲かること間違いなしでしょう」

 「では、殿下。公爵様との交渉をおねがいします」


 そういうことで、公爵様へ面会申請をしリバーシを持って行った。殿下が公爵様へリバーシの説明をする。そして実際やってみようということで、その場で一戦始まった。勝負がつくと公爵様が言った。

 「いいだろう。公爵家の紋章の使用と専売品とすることの許可は出そう」

 「リバーシの制作と販売には公爵家の御用達であるハルボアヒル商会にお願いしようと思うのですが……」

 「まあ、それが妥当だろう。商会の会頭であるセヴェロを呼んでおこう。その時に利益配分の交渉をしよう」


 そういうわけで。ハルボアヒル商会のセヴェロが呼ばれリバーシの制作と販売についての話が行われた。リバーシを体験してみてセヴェロは商売になると見たらしく前向きな態度で交渉は進んだ。最終的な利益の取り分は公爵様が1割、殿下が4割、商会が5割となった。これが適正な利益配分なのかは僕にはわからなかった。だがこれで、殿下に収入の当てができることになった。

 

 「早速貴族向けの豪華版を用意してくれ。王家への献上品とする」

 「ははあ、わかりました。」

 公爵様の言葉にセヴェロは了承して頭を下げた。


 数日後、王家献上用のリバーシが完成したとセヴェロが持って来た。早速王城へ献上するための面会申請を行う。申請が通って面会できるのはそれからさらに数日たってのことだった。王族はやはり忙しいらしい。


 王城へ行き王家の面々と面会するための部屋へと通される。そこには国王陛下を始め王妃殿下、王太子殿下、王女殿下の4人が勢ぞろいだった。

 「今日は新しい遊具を持って来たのだろう?早く見せてみよ」

 子供のような無邪気な声で国王陛下がそうおっしゃった。サモンドが持っているリバーシを国王陛下の使用人に渡した。そしてバルディウス殿下がリバーシのルールを説明した。早速バルディウス殿下と国王陛下が対局する。勝負はバルディウス殿下の勝利で終わった。

 「畜生!もう一勝負だ!」

 国王陛下が熱くなって子供みたいに叫んだ。身内しかいない場所では国王陛下はこんな人なのか。

 「父上、私もやってみたいです」

 王太子殿下がおっしゃった。そのため次は国王陛下と王太子殿下が対局することになった。結果は王太子殿下の勝利だった。

 「もう1回だ」

 国王陛下はそうおっしゃったが王妃殿下に却下された。

 「私たちもやってみたいです。次は私とベアトリーチェでやりましょう」

 そうおっしゃって王妃殿下と王女殿下の対局が始まった。

 「ルールが単純な割に奥深いゲームだな。これはおもしろいぞ」

 王太子殿下がそうおっしゃった。

 「バルディウスはこれを売るのか。良く考え付いたな。いいだろう。王家お墨付きの遊具に認定してやろう」

 「ありがとうございます、伯父上」

 こうしてリバーシは王家のお墨付きをもらい売りに出されるのであった。


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