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「せっかくのめでたい叙勲の日がマーシャルってやつのせいで台無しになってしまいましたね」
「俺は王城内じゃなかったらあの野郎を叩き切ってやるところでした」
「まあ、何にしても大事にならなくてよかったですね」
「殿下は甘いです。あの男爵から和解金でもぶんどってやればよかったのに」
「あまり欲張って恨みを買ってもいけません。向こうは領地持ちの男爵、こっちは公爵家の血筋とはいえ独立しばかりで領地も役職もない平貴族です。父上に頼らなければこちらのほうが力関係は弱いでしょう」
「俺は殿下がそう言うならいいんですけどね」
そんなことを話しながら公爵邸の離れに帰るとアンジュさんが出迎えてくれた。
「バルディウス殿下、叙勲おめでとうございます。本日は殿下の叙勲のお祝いとして公爵家本邸で晩餐会を催すことになっています。忘れずに本邸へいらしてください」
「わかりました。まずは昼食にしましょうか」
「ただいま準備いたします。少々お待ちください」
「父上から侍女を借りておいて良かったですね。帰ってきてすぐに昼食が食べられます」
「そうですね。僕たちだけではやはり人手不足で殿下に不便な思いをさせてしまうでしょう」
昼食後には今日のマーシャルによるトラブルにおける対処法について反省会を行った。
「まずアルベルトが子供だとなめられたときにガツンと言い返さないとだめだ」
サモンドさんがそう言った。
「殿下には他の従者ともめるなといわれていたので加減がわからなくて……」
「とにかく好き放題言われっぱなしはだめだ。俺たちだけじゃなく殿下の面子も立たなくなる」
「わかりました。今後は気を付けます」
「俺たちが馬鹿にされるということは殿下が馬鹿にされるということだ。それを忘れるな」
「はい、肝に銘じます」
今日の僕はマーシャルに言わせるがままにしたことが問題あったとのことだった。今後はうまく返答できるようにならなければならない。
「反省会はこれくらいにしましょう。父上が晩餐会を催してくださるそうなので、そろそろその準備をしましょう」
殿下がそう言うので反省会は終了し、晩餐会用に殿下の身支度を整える。
「それでは本邸にと向かいましょうか」
殿下とともに本邸へと移動した。
「ようこそいらっしゃいました、バルディウス殿下。晩餐まで少々お時間がございます。よろしければ控室まで案内いたしますが?」
「そうですね、お願いしましょう」
控室でくつろぎながら会話する。
「晩餐会ですか、楽しみですね、殿下。お客様は何人ほど招待されているのでしょうか?」
「殿下の独立のお祝いだ。きっと公爵派の貴族が大勢招待されているぜ」
「それは豪勢な晩餐会になるでしょうね。楽しみですね」
僕達が晩餐会についてあれやこれやと想像を膨らましていると、不意にドアがノックされた。
「そろそろ晩餐会が始まります。会場のほうへ移動をお願いします」
「わかりました。それでは参りましょう」
晩餐会の会場は大きな広間だった。テーブルと椅子が並び、おいしそうなご馳走が白いテーブルクロスの上でいい匂いをさせて主張していた。
参加者がそれぞれの席に着く。すると公爵様が立ち上がり言った。
「本日は我が3男であるバルディウスがめでたくも独立し新たなる家を興すことになった。今宵はそれを祝福するため宴をとり行うことになった。忙しい中みんな参加してくれてうれしく思う。それではバルディウスの前途を祝して乾杯!」
公爵様の乾杯の音頭で晩餐の宴は始まった。これで殿下はおいしそうなご馳走を早速いただけるということはなくて、まずは、宴を開いてくださった公爵様のところへ挨拶に行く。公爵様の隣には公爵妃様だろうか、上品な女性がいた。
「父上、母上、本日は私のためにこのような宴を開いてくださりありがとうございます」
「うむ。これからは一家の主として恥ずかしくない行動を心がけるんだぞ」
「わからないことや困ったことがあればいつでも聞きに来なさいね」
「はい、よろしくお願いします」
殿下が両親への挨拶を終えて席に戻る。するとすぐに殿下へ挨拶しに来るものがいた。
「これは殿下ご無沙汰しております。この度は独立なさるとのこと、おめでとうございます」
「お久しぶりです、エルドリッチ子爵。ご丁寧にありがとうございます」
エルドリッチ子爵は確か領地を持たない宮廷貴族だが、副業として手広く商売をしていてそれが儲かっている公爵派の有力貴族である。確か殿下とはチェス仲間で腕も相当なものらしい。僕は王国の貴族について学んだことを思い出していた。
「若輩の身で至らないことも多くあるかもしれませんがご指導のほどよろしくお願いします」
僕が子爵の情報を思い出しているうちに挨拶は済んだようだ。
この後も公爵派閥の貴族や、公爵様の部下である寄子の貴族、公爵家陪臣の貴族が挨拶に押し寄せてきた。殿下はそれにいちいち笑顔で応えていた。僕はその怒涛の挨拶攻勢に自分が貴族でなくてよかったと思っていた。挨拶をしてくる何人もの貴族様を相手にずっと笑顔で応えるなんて僕には不可能だ。
大勢の貴族からの殿下への挨拶が終わり殿下は一息つくと、もうすっかり冷めてしまったご馳走を食べ始めた。挨拶の最中に飲んだらしく、殿下の手元に飲み物がなくなっているのに気づいた。
「何か飲み物をもらってきましょうか?」
「ワインをもらってきてください」
僕は侍女に頼んでワインを用意してもらうと殿下のところまで持って行った。殿下のグラスにワインを注ぐ。
「どうやら無事に晩餐会を終えることができそうですね」
「今日は公爵派の派閥の者だけしかいませんでしたからですね」
「他の派閥の人が混じると無事に終わらないことがあるんですか?」
「たまにあるんですよ」
何それ、怖い。
「まあ、今日のところは大丈夫ですよ。それよりも今日から僕は独立しました。3人で力を合わせて新しい家を盛り立てていきましょう」
「はい。これからもよろしくお願いします」
こうして晩餐会は終わり、殿下の独立生活が始まるのだった。




