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僕がシルバスタッドの御城に来てから月日は過ぎて、季節は秋に変わっていた。僕はバルディウス殿下の家臣として立派に働けるよう、貴族様に仕えるとはどういうことかを学び、御城の使用人達や出入りしている陪臣貴族の皆様や兵士の人達の顔も少しづつおぼえているところだった。
そんなある日のこと殿下の部屋にいつも通り僕とサモンドさんと殿下で集まり、お茶をしているとき殿下が言ったのだった。
「王都の公爵家の屋敷に詰めている騎士隊とこちらにいる騎士隊とが交代する日が近いそうです。この交代する騎士隊が王都に上るのに合わせて僕たちも王都へ行きたいと思います。そうすれば護衛を余計に頼まなくて済みますから。それぞれ王都までの旅の用意をお願いします」
「いよいよ王都に行く時が来たのですね。せっかくシルバスタッドの御城や町に慣れてきたのに残念です」
「独立のための叙勲の儀は王都で行われますし、独立した後は公爵領を出て王都で暮らすことになります。次は王都での暮らしに慣れてください」
「殿下たちは王都へ行ったことがあるのですか?」
「ええ、何度か訪れたことがあります」
「王都はどんなとこですか?」
「私達は王都を隅々まで探索したことはありませんから、王都を完全に把握しているわけではありませんが、王都はシルバスタッドの町よりも大きく、人もたくさんいるそうです。ブレウワルド王国のあちらこちらから人や物が集まり、シルバスタッドの町では見られないようなものも多くあると聞きますよ」
「シルバスタッドよりも大きいのですか。それは凄いですね。早く見てみたいものです」
それから数日間僕らは王都への旅の準備をして過ごした。王都へ行けば、殿下は独立して家を構えるためシルバスタッドへは帰ってくることはない。生まれ故郷のオクタウス村を離れシルバスタッドへやってきたが、今度はそのシルバスタッドも離れなくてはならない。僕はそんな寂しさを感じながら数少ない自分の荷物をまとめて旅の支度をするのだった。
いよいよシルバスタッドを発つ日がやってきた。僕の荷物はたいした量はないが、殿下の荷物はそうはいかない。大量にある殿下の荷物をドラゴンが2頭で曳く車に乗せて僕らは王都に向けてシルバスタッドを出発した。同行する騎士隊を率いるのは公爵家陪臣のシモンズ様で20人の兵士を率いていた。旅は歩いて行軍する兵士たちの速度に合わせて進む。子供である僕はどうしても遅れがちになるので、荷物と一緒にドラゴンが引く車に乗せてもらっていた。ちなみに殿下とシモンズ様は騎乗用ドラゴンに乗っていたが、サモンドさんは今回は歩きだった。騎乗用ドラゴンはエサの量や世話になど費用が非常にかかる。殿下が独立したとしてその費用を賄うには1頭がせいぜいだ。だから、泣く泣くサモンドさんは徒歩で旅をしているのだった。
王都への旅は順調に続いた。道中野盗に出会うこともなく、無事に途中途中の村や町で休息することもできた。この世界には野盗がいて襲われたり、閉鎖的な村には入れてもらえなかったりと旅をするのはとても大変らしい。今回の旅ではシモンズ様率いる20人の兵士がいるため、野盗にも襲われずに無事に旅ができているらしい。
こうして何日も旅をして、僕らはようやく王都インデラウンドへたどり着くことができた。インデラウンドはシルバスタッドの町を囲む石壁よりも立派な石壁で囲われていた。この石壁がシルバスタッドの町より広いインデラウンドを囲っているのである。その建築にはどれだけの費用や時間がかかったのだろう。僕が石壁に見とれながらいろいろ考えているとやがて大きな門が見えた。この門はインデラウンドの東門らしい。ジルバーン公爵領は王都から見て東側にあるのだそうだ。このブレウワルド王国の地理に疎い僕は初めて知った。
インデラウンドの東門には入門の許可を待つ人の列ができていた。王都はただ大きいだけでなく人の出入りも多いらしい。僕らはジルバーン公爵家のバルディウス殿下一行なので、上級貴族の特権で列に並ばずに入門の許可を得ることができた。
無事に入門した僕らは、王都にある公爵家のお屋敷に向かう。公爵家ほどの上級貴族となると、自分の領地だけではなく王都にもお屋敷を構えるものだそうだ。公爵家の王都のお屋敷は、貴族様が住むエリアの中心に近いところにあった。
公爵家の屋敷の入り口を守っている番兵にバルディウス殿下一行が到着したことを告げる。バルディウス殿下達とシモンズ様はすぐに公爵様にお目通りすることになった。殿下の後に続いて僕とサモンドさんは屋敷の中に入った。さすがにシルバスタッドの御城ほどではないが、十分に立派な大きなお屋敷だった。
「よく来たな、バルディウス。シモンズも道中ご苦労だったな」
公爵様が言葉をかける。僕は殿下の後ろに控えながら、あれが国王様の弟君であらせられる公爵様なのかと関心していた。その声や姿にははっきりと威厳があり、迫力のある人だと僕は思った。すると、公爵様は僕のほうに目を向け言った。
「見ない顔だな。その子供は誰だ?」
「この度僕の家臣となりましたオクタウス村出身のアルベルト君です」
「オクタウス村?あの小さな農村か」
僕は公爵様がオクタウス村を知っていることに驚いた。何もない田舎の農村である。知っているならもう少しでも村の発展にテコ入れしてくれてもいいんじゃないかと思った。そう思いながらも紹介されたので、僕は笑顔で一礼をする。こうして無事に公爵様との謁見を果たし、次はこの公爵家の王都屋敷に住むための準備をすることになった。
僕達は公爵家の王都屋敷の本邸ではなく、離れにある建物に住むことになった。殿下が公爵家から独立するからというのが理由である。離れにシルバスタッドから積んできた荷物を運びこむ。それはとても重労働だった。そんなこんなで僕達の王都生活は幕を開けるのだった。




