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バルディウス殿下は部屋に入った後、侍女を呼び旅装を解くとお風呂を用意をさせた。この世界にお風呂に入る文化があったのかと僕は驚いた。殿下がお風呂に入るのは侍女に任せ、サモンドさんは僕がこの御城にいる間に過ごす部屋へと案内してくれた。そこは、殿下の部屋からすぐ近くの使用人用の部屋で、サモンドさんと相部屋になるとのことだった。
「これからしばらくは一緒の部屋になる。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「俺たちも旅の汚れを落とすぞ」
そう言ってサモンドさんと水桶を用意して体を洗った。
「殿下が風呂から出るまでにまだ時間はある。簡単に城の中を案内しよう」
僕らは御城の中を巡ることにした。領主様一族が生活するエリア、使用人達が住んでいるエリア、貴族様達が仕事をするエリア、兵士たちが詰めているエリアざっと区分けしてもそれだけあり、御城のような大きな建物で暮らしたことがない僕はおぼえるのが大変だった。
「そろそろ殿下が風呂から出るころだろう。殿下の部屋に戻るぞ」
殿下の部屋に戻ると既に殿下はお風呂から上がっていた。
「アルベルトに城を案内してました。戻るのが遅くなり申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。晩餐までは部屋でゆっくりとしていましょう」
殿下は侍女を呼ぶとお茶を用意するよう申し付けた。僕とサモンドさんもテーブルにつき、3人分のお茶が用意され侍女が退出した。
「アルベルト君、今日初めてシルバスタッド城へ来ましたが、何かわからないこととかありませんか?」
「ベルゼウス様にはお会いしましたが、もう一人の殿下の兄君様は何をなされているのですか?」
「公爵家次男のアルセウス兄上はですね、公爵家騎士団に入団しています。騎士団の仕事で城の外にいるのですよ」
「殿下には他にご兄弟はいらっしゃらないのですか?」
「ええ、3人兄弟です」
「そういえば、殿下は新し家を興すとおっしゃていましたが、それはいつごろになるのですか?」
「今年の冬に王城で行われる叙勲の儀で独立することになっています。冬までには王都へ行かなければなりません」
今は夏だ。冬までに王都へ行くなら半年も猶予はない。
「殿下は独立したら何をなさるのですか?」
「実はまだ決まってないのです。独立してから役職を探す予定です」
役職なんてそんな簡単に見つかるものだろうか?公爵家のコネがあれば大丈夫なのだろか?僕は少し不安をおぼえた。
「他には何か質問はありませんか?」
殿下がそう言った直後、ドアがノックされ侍女から晩餐の支度が整ったことが告げられた。
「では晩餐に向かいましょう」
晩餐の席を囲むのは我らがバルディウス殿下とベルセウス様、それとその奥方様のカサンドラ様の3人だった。
「まずは領内を巡り、無事に家臣を見つけ戻ってきたバルディウスに乾杯をしよう」
ベルセウス様がそう言って3人は乾杯をした。
「さあ、領内を巡る旅がどんなだったか教えてくれ」
「いいですよ」
バルディウス殿下はそう言って語り始めた。殿下はまずシルバスタッドの町の中から家臣を探し出そうとしたらしい。各街区の区長宅や大きな商店を回り家臣にならないか聞いて回ったそうだ。ただし、どこの家の者も首を縦に振らなかったそうだ。理由はあれこれとつけていたが、結局は独立して新しい家を興すバルディウス殿下には何の実績もなく将来に信頼がおけないことが原因だった。
バルディウス殿下はその原因に気づいてはいたが、それでも自分を信頼し家臣となってくれる人がどこかにいるだろうと他の町や村を探し始めた。領内とはいえ、バルディウス殿下は騎乗用ドラゴンにのって自分たちだけで旅をするのは初めてのことで始めのうちはとても苦労したそうだ。そしてようやくたどり着いたオクタウス村で僕を見つけたらしい。
殿下の旅の失敗話や家臣の勧誘時の苦労話にベルセウス様うなずいたり、相づちを打ったりしながら楽しんで聞いていたらしい。
「なかなか面白い話でしたわ」
「苦労したかいあって新たな家臣が見つかってよかったな、バルディウス」
「ええ、本当に苦労しました。アルベルト君が見つかってよかったです」
こうしてバルディウス殿下の話が終わるとともに晩餐も終了した。殿下は部屋に戻り、今度は僕達の晩餐が始まる。殿下たちが食べきれなかったご馳走が出てきて僕は夢中で食べたのだった。
「それにしても本当にアルベルトが見つかって良かったぜ」
「家臣探しはそんなに大変だったのですか?」
「おう、大変だったぜ。文字の読み書きのできる奴は案外少ない。それを探し出すだけでも苦労するのに、行く先々で勧誘を断られるんだ。本当に心が折れそうになるんだ。」
前世で言う就活生が次々お祈りメールが送られてくる感じなのだろうか。サモンドさんは苦労がにじみ出たような顔をしていた。
「文字の書けない人を雇ってから文字を教えるのは駄目だったんですか?」
「それも考えたが、そいつらが必ず文字をおぼえてくれる保証はないし、そういうやつらは礼儀作法や言葉遣いも全然なってなくてなあ。そんなに教育に時間を費やしてられないと考えたんだ」
僕はどうやらなかなかいないような文字を書けて、言葉遣いもちゃんとしている有用な人材だったらしい。僕は僕に文字を教えてくれたアーレフさんに感謝した。そして文字の読み書きをおぼえてきた自分の努力が実ったことを喜んだ。
「わかりました。期待に応えられるよう頑張ります」
「おう、頼むぜ」
こうして御城での初めての晩餐は終わり、殿下の部屋へとやってきた。
「明日の予定ですがどうしましょうか?」
「アルベルトに城下町を案内するのはどうでしょう?」
「それはいいですね。それでは朝食後に町を見に行きましょう。今日は旅の疲れを残さぬように、早めに寝てしまいましょう。」
「わかりました、おやすみなさいませ殿下」
「おやすみなさい。また明日」
殿下の部屋を退出して僕らも休むことになった。
明日は城下町の散策だ。とても楽しみにしながら僕は眠った。




