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夕食の前に僕らは今晩泊まる部屋へと案内された。当然のように僕はバルディウス殿下とは別室で、バルディウス殿下は客間に、僕とサモンドさんは使用人部屋だった。まず、僕らは水をもらって旅の汚れを落とした。
そしていよいよ夕食の時間になった。食堂に着くと、食卓には領主のレヴィン様とその妻らしき人とその子供らしい僕と同い年くらいの男の子が席に着いていた。そこに殿下も加わった。まずはご主人様である殿下が先に食べるのだ。サモンドさんは殿下の給仕をするようである。僕はやることもなく、殿下の後ろに控えていた。
食予告された通り、豪華なご馳走が領主様達と殿下の前に並ぶ。これをご主人様である殿下が食べ終えるまで黙って見てないといけないなんて、家臣ととてもはつらいものだ。
食事前の感謝の祈りがささげられた後、夕食は始まった。
「バルディウス殿下は、この度いろいろな町や村を巡ったのでしょう?どうだったのですか?僕はこの村を出たことがないので是非聞きたいです」
男の子がいかにも興味ありますといった感じに目を輝かせて言った。
「ええ、確かに公爵領のいろいろな町や村に行ってきました。それでは旅の話を聞かせましょうか」
「ありがとうございます、バルディウス殿下」
殿下は上機嫌で、訪ねた町や村の様子や道中の旅の様子を語って聞かせた。殿下の話で場は盛り上がっていたが、殿下の家臣である僕が話しに加わることは失礼に値するのでできない。僕は殿下たちの話を聞きながらも、殿下たちが食べているおいしそうなご馳走に目を奪われていた。お腹が減っている僕の目の前でご馳走が食べられていく。僕はそれを何でもないような顔をしながら殿下の後ろで立って見ているのだった。
和やかなムードで会話もはずみ、殿下たちの夕食は終了した。殿下は客室に戻り、領主一家もいなくなって、ようやく僕達の夕食となった。先ほどのご馳走の一部余ったものも出され、殿下たちの夕食ほどではないにしても、豪勢な夕食だった。僕は空腹だったのでたっぷりと堪能した。
夕食後、僕らは明日の日程を確認するため、殿下のいる部屋へ向かった。サモンドさんが言うには、明日朝食を食べてからここを出発してドラゴンを走らせれば、明日の昼過ぎにはシルバスタッドへと着くということらしい。その旅程でいきましょうと殿下の鶴の一声で決まる。殿下へ就寝の挨拶をして殿下の部屋から退出し、自分たちの部屋へと戻る。
「村から初めて出て、しかも初めてドラゴンに乗って旅をしたんだ。お前も疲れただろう。夜更かししないで早く休むんだな」
サモンドさんが心配して声をかけてくれた。
「そうですね、わかりました。もう寝ます。おやすみなさい」
僕はそう言ったが、疲れよりも初めての旅の興奮で眠れそうになかった。なにしろ今日初めてドラゴンに乗ったのだ。前世でも馬に乗ったことはなかった。ドラゴンの背中に乗って走るという体験はとても気持ちの良い物であった。ドラゴンが走るとともに揺れるドラゴンの背中、高速で流れていく景色、ほほに当たる気持ちの良い風。村にいて繰り返される日常と違って、すべてが初めての体験でとても楽しいものであった。僕は寝床に横になりながら今日の出来事を思い出す。それは思いだすだけで僕をまたワクワクさせてくれた。今日はとても楽しかった。明日はどんな一日になるだろう?期待を膨らませて僕は眠るのであった。




