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「さて、バルディウス殿下の家臣になることにしましたが、これからどうすればいいですかね?」
僕が疑問を口にすると村長は答えた。
「まずは家族に知らせるべきだな。カイル達を呼び出そう」
そう言って村長はターニャ姉さんに僕の家族を呼んでくるよう言った。村長の奥さんにお茶を用意してもらって飲みながら父さんたちが来るのを待った。
父さんたちが到着した。この度僕がバルディウス殿下の家臣に取り立てられたことがお代官様の口から僕の家族へと伝えられる。
「なんと、本当か?アル。バルディウス殿下の家臣になるなんてすごいじゃないか」
「アル、本当なの?」
父さんは驚きながらも喜んでいるようだった。母さんはどうやら信じられないようだった。
「頑張るんだぞ、アル」
リカルド兄さんは応援してくれた。
「アルベルト君のことは私がしっかりと預かりますので安心してください」
バルディウス殿下が朗らかに笑いながら僕の家族に向けてそう言った。父さんはとても恐縮しながらよろしくお願いしますと言った。
「殿下、いつごろこの村を発つのですか?」
「急なことになりますが明日には出発しましょう。ひとまずシルバスタッドにしばらく滞在し、家臣の心得を教育したり、必要なものを買いそろえたりして、それから王都インデラウンドに行くことにしましょう。アルベルト君、今夜中に家族との別れを済ませておきなさい。私は今夜、代官屋敷に泊まります。明日の朝食後、代官屋敷で合流して出発しましょう」
「わかりました、殿下。それではまた明日お会いいたしましょう」
そう言って殿下たちに別れを告げると、僕達家族は急いで家に帰った。明日までに僕の旅支度をしなければならない。マントや水筒など旅に必要なものを用意し、そのあとは僕の門出を祝うささやかな晩餐が用意された。
「それにしてもアルがこんなに早く家を出ていくことになるなんてなぁ」
父さんが別れを惜しむように言った。
「僕もこんなことになるなんて思ってもいなかったよ」
「貴族様に勧誘されるなんてアルは頑張ったのね」
「明日からアルがいないと寂しくなるな」
母さんもリカルド兄さんもそれぞれ声をかけてくれる。
「大変だろうけど僕頑張るよ」
こうして家族と過ごす最後の夜は更けていった。
翌朝、リカルド兄さんより早く目が覚めた。これからはリカルド兄さんに起こしてもらうわけにはいかない。
「おはよう、リカルド兄さん。朝だよ」
僕がそう声をかけると、リカルド兄さんはすぐに目を覚ました。
「おはよう、アル。水汲みに行こうか」
日課だった朝の水汲みも今日で最後だ。いつもは前世の生活と比べて格段に不便な水汲みに大きな不満があったが、それも最後となると感慨深いものであった。
朝食を済ませるといよいよ本当に家族と最後の別れとなった。
「体に気を付けて頑張るんだぞ」
「元気でね」
「たまには帰って来いよ」
家族みんなに声をかけられ僕は出発する。
「それじゃあ僕行くよ」
僕はそう言って生まれ育った家から旅立った。
代官屋敷につくと、サモンドさんが門前で待っていた。
「おはよう。旅の準備はできているな。今バルディウス殿下を呼んでくるから待ってな」
そう言ってサモンドさんは殿下を呼びに行った。すぐに殿下が姿を現す。
「おはようございます、バルディウス殿下」
「おはよう、アルベルト。今日からよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
僕はそう言って殿下に頭を下げた。




