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二章 『スタート・ライン』 Ⅲ

    9:十七号館裏バスケットコート/鹿崎悠斗(かざき ゆうと)


 黙って聞いていた紅葉(こうよう)はゆっくりとその場で立ちあがり、自分がスタートしたエンドラインへと一歩ずつ踏みしめるように戻っていく。コートの中心に立つ俺からは表情が見えないが、背中を向けて遠ざかる姿のままで、叫んだ。


(あおい)


「……ん」


 眠そうな顔で見ていた葵は瞼をこすりながら返事をする。片手に《色相球(シンボル)》を握った彼女はもはや《着色銃装(シューター)》を地面に置いている。気の抜けた様子だ。


「投げ返してくれ」


 簡潔なセリフは戦場にひらめく旗のようなものだ。

 記号化された言葉がときに白旗のように両手を上げる意味をもつこともあれば、今のような場合もある。つまり、俺の言葉に対する紅葉の答えがそれだ。


 パシッと言う音をたてて俺は受け取った。虹色の球体、《色相球(シンボル)》。

 振り返った紅葉が俺に言う。


「まず、それは称賛の言葉の代わりだ」


「へぇ。何に対する?」


「僕を超える君と上山(かみやま)さんに対する、だ」


「それじゃ、負けを認めるってことか」


「さっきまではそうしようと思っていたけれど、気が変わったよ」


 紅葉は目を逸らさずに続ける。


「……僕らからの勝利は、僕一人に勝っただけでくれてやるほど安くない」


 ここまではっきりと俺に、いや、俺たちに対抗心を燃やす紅葉は三年ぶりだ。懐かしむ俺は自然と溢れる笑顔と、ついでに挑発の言葉を贈った。


「…………そのリベンジ、受けて立つ」


 紅葉は袖を捲ってちらりと確認する。

 彼が気に入っている腕時計だ。


「僕の《制限状態(ホールド)》解除から試合終了まで。おおよそ四十八秒間の時間が残っている」


 相変わらず細かい男だ。それでいて最高に楽しい幼馴染でもある。


「その五十秒間で俺から《色相球(シンボル)》を奪うってことか?」


「四十八秒間な。今度は葵にも全力で加勢して貰うから、覚悟してくれ」


「相変わらず細けぇな。つか、覚悟ならとっくに出来てるっつの」


 四十八秒間だろうが一時間だろうが、紅葉からは逃げ切ってみせる。

 こんなところで捕まっている場合ではないからだ。

 一秒でも速く紅葉を仲間にして、追いつかなければいけない相手が居るのだから。


「それじゃ、僕も遠慮しないね」


 俺は睨む。紅葉と目が合うが紅葉だけじゃない。その奥に副審として立つ男――滝原幸也(たきはら ゆきや)

 紅葉を超えて、幸也も超える。

 目を閉じて深呼吸を二回する。アサミの宣言が、コートに響く。


宮島紅葉(みやしま こうよう)選手、《制限状態(ホールド)》解除まであと十秒です」


 その声の裏で。紅葉たちに悟られないように後ろのスアマに作戦を伝える。

 いや、こんなものは作戦とは呼ばない。ただの意地だ。


「……ってして欲しいんだが、頼めるか? スアマ」


 スアマはなぜか満足そうに頷く。


「……もちろん。楽しんできて、ね」


「おう。誰よりも楽しんでみせることに関しては、絶対に約束するよ」


 最高のエールに俺は自信をもってそう返す。

 葵に投げ渡された《色相球(シンボル)》を握りしめる。フリースローライン用のかすれた白線に足先を揃えて合図を待つ。バスケットコートの中に張り詰めた空気が満ちていくのを肌で感じた。


 三年前と同じだ。自分の意識が急速に目の前の相手だけに集中していくのを感じる。

 対照的にコートの外に対する認識がぼやけていく。

 開戦の合図は前後することなくきっかり十秒後に訪れた。


「……宮島紅葉選手、《制限状態(ホールド)》解除です」


 瞬間、俺の世界から色が消えていく。

 残るのは無彩色(アクロマティック)な背景と、変わらず佇む好敵手の姿だ。



    10:十七号館裏バスケットコート/鹿崎悠斗(かざき ゆうと)


 スニーカーが地面に擦れる音。

 紅葉の足音。俺の足音。二つは古時計の振り子のように交互に音を響かせる。

 さっきの勝負とはまるで状況が違うため全力で距離を詰めるようなことは出来ない。そんな悪手を取れば、二秒後にはこの右手に掴んだ《色相球(シンボル)》は奪われてしまうだろう。最大の違いはお互いの背後に、引き金に指をかけた補助射手が居ると言うこと。


 一歩、下がる。

 《色相球(シンボル)》を持っている俺たちは別に相手を《制限状態(ホールド)》にする必要はない。これを握ったままの状態で制限時間まで逃げ切ればそれで俺たちの勝ちなのだ。紅葉がちらりと俺の目を見た。


「安心しろよ。そんなつまんない事はしねぇから」


 俺は小さく呟いて、タン、タタンと踊るような変則的なステップで紅葉との距離を詰め、あるいは離れ、左右に素早く動く。これは相手の補助射手に狙われないようにするための一種のテクニックだ。

 葵は移動しながらの射撃を正確にこなす技術はない。つまり、常に葵から隠れるように動き続けるだけだ。バスケットコートの中で唯一葵が撃つことの出来ない遮蔽物――つまり、紅葉(こうよう)を挟むように。


「もともと不安になんてなってない」


 紅葉は軽口を返すと、それまでの《着色銃装(シューター)》を警戒するゆっくりとした移動から一変、自分から走って距離をつめ――


「待てスアマ。撃つな」


 俺の斜め後方、バスケットゴール下で今まさに引き金を絞る姿勢をしていたスアマを抑えるように左手を伸ばす。


「了解」


「紅葉はまだ本気で走ってない。撃てば躱されてチャンスを与えるだけだ」


 だからと言って所詮は狭いバスケットコートの中だ。すぐに俺と紅葉はお互いに《制限状態》化を狙える範囲まで近づいていた。

 攻撃、回避、逃走、スイッチ、あるいは……。

 様々な選択肢が脳内をよぎる。


「……」「……」


 硬直は一瞬だけ。先に動いたのは紅葉だ。

 紅葉が右手が直線の最短距離で俺の左肩を狙う。この距離での戦いとなればいちいち考えている時間はない。信じられるのは反射神経と直感、そして勝利への渇望だけだ。


 反射的に俺はそれを左手でブロック――する時に空いた左わき腹へ危機。

 突き刺すように放たれた紅葉の左手。これは半身に回転することでどうにか回避。

 その勢いを殺すことなく俺は右手で紅葉の肩にあるマークを狙う。本来ならばこれも思考を追い越した高速かつ必殺の一撃。だが読んでいたのか、紅葉はこれに冷静に対処。さっき弾かれた右手で強く受け止めようと手を振り――――


「……クッ!」


 咄嗟のバックステップと、思わず口から漏れた苦渋の声。

 危ない。《色相球(シンボル)》を掴んでいる右手で紅葉と接触するのはリスクが高すぎる。

 勝利条件である《色相球(シンボル)》を所持していることでこちらが有利に見えるが、それは接近戦での不利にもなりうる。敵の前を歩くことが敵に背中を見せることに等しいように、俺は勝利条件を満たすと言うディスアドバンテージを抱えているのだ。


「悪いけど、僕らには時間がないんだ」


 俺に休む暇を与えずに紅葉は追撃を重ねる。秒間数十発のマシンガンを思わせるような殺意の込められた諸撃。この瞬間にもその一撃が俺のブロックを擦り抜けても何もおかしくはない。

 だんだんとこちらの反撃の手数は減り、逆に紅葉の連撃は《彩色服》を捉えはじめていた。

 右へ、左へと回避を重ね、息は切れる。


 ……マズい。本能と経験から確信した未来は自身の限界だった。

 試合終了まであと十数秒と言うところか。

 だが、この戦況はあと五秒も保つことが出来ないだろう。

 どうにかしなければ。せめて《色相球(シンボル)》をスアマにパスするだけでも――


「ッ!!」


 閃いたのは作戦じゃなく博打だった。

 それも酷く非現実的で、おおよそ実行不可能だと思われる博打だ。

 だが、それでも……。


 追い詰められている状況なのに自然と胸に湧きあがってしまう感情。

 ダメだ。こうなったら俺はもう自分を止めることは出来ない。


 ……どうせやるなら、選ぶべくは楽しい楽しい修羅の道。


「っらぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 お利口に戦況を分析する頭を、身体が追い抜いた。

 向かって左から右にくり出される紅葉の一撃。俺は右足裏に強く力を込めて、左に飛ぶ。

 身体が斜めになるような大跳躍。もはや着地などと言うことは考えない。空中を左に流れる俺にはもうこの勢いを殺す術はない。逆に言えば、紅葉に自分から近付いて《制限状態(ホールド)》化をすることも出来ない。

 対して、紅葉の反応も早かった。

 俺が紅葉に対して近づくつもりがないと見るや否や、後ろを振り返って(あおい)に叫ぶ。


悠斗(ゆうと)は躱せない! 撃つんだ!」


 その言葉を聞くよりも速く、葵は俺のマークに照準を合わせていたようだ。

 同時に俺もスアマに向かって叫ぶ。だが、スアマにも葵にも顔を向けることはしない。


 仲間を信じろ。仲間に任せろ。自分に出来ることをしろ。

 ただ一人、自分が倒すべき相手――宮島紅葉から視線を切らすな!

 俺が叫んだのはつまり、スアマに自分の命を預けると言う宣言でもあった。


「スアマ!! 全部撃ち落とせ!!!!」


 無彩色(アクロマティック)に染まった背景のどこかで、誰かが驚きの声をあげたのが聞こえた気がした。


「了解!」


 普段の彼女とガラッと変わった雰囲気で、威勢よく答えるスアマ。

 俺は大きく右手を振りかぶって――――。

 同時に、銃声音。

 両エンドラインからそれぞれ三発ずつ。

 《着色銃装(シューター)》が発砲する高く短い音が繋がって、バスケットコートに大きく響く。

 結果は――――見るまでもない。あの上山素甘が、灰色の世界で最も正確な補助射手として名を馳せた『まあす』が、標的を外すことなどあるはずがない。


 ――――たとえ、射抜く相手が同じ《着色弾(バレット)》だとしても。


 ぶつかった《着色弾(バレット)》は跳弾することすら無く、互いのエネルギーを完全に打ち消し合って一瞬だけその場で寄り添うように静止する。そのまま重力と言う絶対の法則に掴まれると、ゆっくりと下方へ落ちていく。それが三回。計六発の《着色弾(バレット)》が無力にも落ちていき、カラカラと地面を転がる音をたてる。


 そして、俺は自分の胸の前で勢いよく両手を合わせた。

 パン、と言う短い破裂音のような音が響く。

 驚いた紅葉は考えるよりも前にこちらへ顔を向ける。

 あんな高速の連撃で俺を攻め立てた紅葉が、この音に反応出来ないわけがない。俺は胸の中で吠える。

 反応出来てしまうこと……それがお前の敗因だ。


 幼馴染として十何年も共にしてきた紅葉の顔を見ると、彼が考えていることが手に取るように分かった。

 彼の思考は――まず安堵。

 破裂音は俺が拍手しただけの虚仮おどしであることの把握。

 その後に遅れてきた疑問は、不安に繋がった。


 ――なぜ鹿崎悠斗は拍手をしたのか?


 ――なぜ鹿崎悠斗は拍手が出来たのか?


 ――鹿崎悠斗の右手に握られていたはずの《色相球(シンボル)》は……。


 答えは紅葉にとっての背後にあった。俺はとびっきりの笑みと礼を返す。

 それは、俺を楽しませてくれたことに対する感謝の礼だ。


「ありがとう、紅葉……」


 直後、紅葉が視線を外していた間に俺の投げた《色相球(シンボル)》が、コートの外のフェンスにぶつかり跳ね返った《色相球(シンボル)》が、紅葉の手に衝突してそのまま彼の《彩色服(クロス)》のマークを捉えた。


『ルールその6、《制限装(キーパー)》でマークを触られると《制限状態(ホールド)》になるの。これは自分の《制限装(キーパー)》でもなってしまうわ』


 再び思い出されるアサミの言葉。コート内に鳴り響く《彩色服(クロス)》の警報。

 当然、その音は紅葉が《色相球(シンボル)》に押された自身の《制限装(キーパー)》でタッチした腰のマークから鳴っていた。紅葉にぶつかり、跳ね上がった《色相球(シンボル)》をどうにか俺がキャッチする。

 同時にアサミが笛を吹いた。


宮島紅葉(みやしま こうよう)選手、《制限状態(ホールド)》。そして試合時間終了により、現時点で《色相球(シンボル)》を所持しているチームA……鹿崎(かざき)選手、上山(かみやま)選手の勝利とします!」


 バスケットコートに、審判であるアサミの声が響く。《色相球(シンボル)》をギリギリでキャッチしたまま無様に着地失敗した俺は、空を見上げて、呟く。


「ゲット……コンプリート」


 その時にようやく空がもう夕陽で赤く染まっていることに気が付いた。

 もう一つ気が付いたことと言えば、今日ももう白い月が空に浮かんでいたことだ。

 その日はちょうど綺麗な満月だった。



   11:十二号館‐四〇二/鹿崎悠斗(かざき ゆうと)


「おはようございます」

「ますー」


「おう。よく来たな新入り。歓迎するぜ」


「ありがとうございます、滝原(たきはら)さん。新入りじゃなくて宮島(みやしま)です」

「宮島ですー」


「ハハハ。そいつは悪かったな紅葉チャン」


「その呼び方もやめていただきたいんですが……。と言うかそもそも、もうここ来るの五回目くらいなんですけど」


「お、皆来てる。おはよー」


「そう言って入室した猫川沙月(ねこかわ さつき)。そこには滝原幸也(たきはら ゆきや)宮島(みやしま)兄妹の双子、そして鹿崎悠斗(かざき ゆうと)が居た」


「おはようございます。猫川さん。あと読口さん、部屋の奥に石川(いしかわ)さんも居ますよ」

「ますよー」


「……そうか。宮島紅葉。宮島葵」


「すっかり二人もここに馴染んできたね」


「まぁ、練習頻度がアレですからね。猫川さん」


「そうだね。でも、今月で私たちはしばらく対外試合減るから、ちょっとゆっくり出来るかな」


「そうなんですか?」

「ですかー」


「そうだよ。……そう言えば、新しく入った皆にはシーズンの話してなかったね」


「シーズン? 初めて聞きました」


「……俺は知ってます」


 部屋の隅で『カラーリング・ラン』の大会関係の書類に目を通していた俺は答える。


「鹿崎くんはずいぶん調べてるみたいね」


「悠斗、シーズンって言うのはなんなんだ?」


 俺に疑問を投げかけてきたのは紅葉だ。一週間前の勝負でどうにか俺が勝利したことで、紅葉と葵もここで『カラーリング・ラン』を始めることになったのだ。


「猫川先輩の言ってるシーズンってのは『カラーリング・ラン』の全国大会……『C・C・C(カラーズ)』の選抜戦のことだ」


 それ以上の説明が面倒臭くなった俺は、C・C・C(カラーズ)について詳しく書かれている紙を紅葉に手渡した。

 C・C・C(カラーズ)は年に一回行われる大会で、『カラーリング・ラン』で最も大きい全国規模の大会だ。全四十七都道府県それぞれから原則一チームずつを代表として行われる本戦は八月にある。


 特に『カラーリング・ラン』の主要なチームが東京都に集中していることから、東京都の代表だけは一年を四つに分けた選抜期間の成績によって一チームずつ選ばれる。つまり。全四十七都道府県に加えて東京は計四チームが本戦に参加するため、合計で五十のチームが本戦で競うことになる。

 そして、この四つに分けた選抜期間のことをシーズンと呼ぶ。本戦のある八月から始まるので、二月から四月末までの三ヶ月間はシーズンⅢだ。この期間の対戦成績の上位二チームによってシーズンⅢの代表チームが決まるのだ。


「《楽しんだもの勝ち(ブルー・ムーン)》は今シーズンの戦績ランキング一位なんでしたっけ」


 俺が質問すると、猫川は自慢するような表情を見せた。


「そうよ。先月までは二位だったんだけど、どうにかね」


「それはつまり、東京って一番ってことですか。すごいですね」


「それは違うぞ、紅葉。確かにすごいとは思うが東京で一番じゃない」


「え? どうしてだい?」


 俺はさきほど渡した紙の一文を指差す。


「よく読めよ。シーズンⅠとⅡで代表になった二チームは、シーズンⅢには参加できないって書いてあるだろ」


「え……あぁ。なるほど」


 とは言え《楽しんだもの勝ち(ブルー・ムーン)》がかなりの強豪チームであることも事実だ。

 それを差し引いても、ここまでの二回のシーズンで東京地区の代表となった二チームは、どちらも前回大会でベスト4に入った優勝候補筆頭であることを考えるとやや分が悪いか。


「《獄花(ライラック・バラック)》と《BE0039(カーマインズ)》……」


 猫川は憎々しげにその名前を呟く。どうやらその二チームには悪い思い出があるようだ。


「皆さんはそのチームに勝てずにここまでのシーズンを抜けられなかったんですね」


「失礼ね。そりゃ負けることもあるでしょ」


「拗ねたような顔でそう答える猫川沙月。どうやら鹿崎悠斗は怖いもの知らずのようだ」


 猫川の冷たい視線から逃げるように、俺は読口に話を振る。


「ちなみにどんなチームなんですか?」


「シーズンⅡ代表《BE0039(カーマインズ)》は至って普通なチームだな。強いて言えば五人のチームプレイ重視型か。幸也の機動力を軸に、他の四人でサポートする俺たちとは対照的だな」


「《獄花(ライラック・バラック)》の方はどうです?」


 尋ねると読口はあいまいな笑みを返す。猫川も苦笑していた。


「《獄花(ライラック・バラック)》は東京でナンバーワンのチームだけど、それ以上にオンリーワンなの」


「オンリーワン? 変なプレイをするチームってことですか」


「《獄花(ライラック・バラック)》にはね……補助射手(アシスト シューター)が一人もいないの」


「「なっ!?」」


 俺と紅葉は思わず驚きの声をあげる。


「それはつまり全員が前衛走者(ランナー)だってことですか?」


 ありえない。常軌を逸している。

 『カラーリング・ラン』において補助射手は特別なポジションで、それが居ないと言うのはサッカーで例えればキーパーが一人もいないようなものだ。ルール上は確かに問題ないが、それで実践レベルのチームを結成することは不可能に近い。

 そんな異常な編成で都内ナンバーワンの実力を誇るチームと言うのはにわかに信じがたい。


「そうよ。ただ、それもただの走者じゃなくて、全員が他のチームならエースになれるレベルの走者。幸也(ゆきや)が五人居るチームを想像してみれば、それが近いかもしれないわ」


「それは…………厳しいですね」


「タイマンで俺に勝てる奴なんて東京には居ないよ」


 奥に座っていた幸也が言う。ツッコミを入れるべきところなのかと思ったが、猫川も読口も頷くだけだ。それだけ自分のチームのリーダーを信頼していると言うことだろう。

 反応に困った俺は話を戻す。


「まぁ、とにかく。今月末の時点で戦績二位のチームとの試合で勝てれば、シーズンⅢの代表としてC・C・C(カラーズ)の本戦に参加出来るわけですね」


「いや、それは違うな。俺らはもう本戦行きが決まっている」


「決まっている? どうしてですか」


 戦績上位二チームによる代表決定戦は必ずあるはずだ。


「今シーズンの二位チームは《全てを我らに(ディスク・レッド)》だけど、あのチームは代表決定戦には参加しないからさ。いや、正確には参加出来ないから……か」


「参加出来ない?」


 幸也はつまらなさそうに首を振る。


「《全てを我らに(ディスク・レッド)》のリーダーの切島(きりしま)って奴がなかなかぶっ飛んでる奴でな。チーム自体の登録は消えてないんだが、他のメンバー四人が愛想尽かして脱退したらしい」


「なるほど。だから不戦勝で代表になれるってことですね」


「まぁ、もしアイツが別メンバー揃え直して来たとしても、俺らは負けないけどな」


 幸也は言う。口ぶりから察するに、どうやらその切島とは知り合いらしい。

 一通り目を通した紅葉が、俺に大会要項の紙を返す。


「悠斗がちゃんと調べてるなんて珍しいね」


「いや、ちょっとな」


「…………?」


 大会のルールではメンバーが四人以上居れば(・・・・・・・)今からでもシーズンⅣにエントリー出来るとある。俺は口元に手を当てて、その紙を眺めていた。


 俺。

 宮島紅葉。

 宮島葵。

 上山素甘。


「…………」


 どうやら楽しくなりそうだ




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