一章 『カラーリング・ラン』 Ⅳ
11:十七号館裏バスケットコート/鹿崎悠斗
結局『カラーリング・ラン』用の道具を二人分持った俺と浅見朝霞は、いまだ泣き止まない猫川沙月のことを読口直樹に半ば強引に任せて練習に行くことになった。
読口はかなり文句を言っていたので最終的には二人で走って逃げた。
「猫川先輩ってあれ、どうすれば良かったんですかね……」
練習用のコートへ移動する途中で浅見に切り出した。
一応このチーム『Blue Moon』の仲間になる以上、名前には先輩を付けて呼ぶことにしておいた。
「あぁ。サツキのことなら気にしなくていいよ。あれはなんか、癖みたいなものらしいから」
「癖、ですか?」
「そう。サツキは高校まで東北のかなり田舎の方で生活していたらしくてね」
話があまりよく見えないので続きを促す。
「なんて言うか、あの喋り方は方言みたいなものだと思っていたみたいなの。それで今でも驚いたりすると出ちゃうのよね」
「あの喋り方?」
くるりと振り返った浅見は無表情のままで言った。
「語尾に『にゃ』を付ける喋り方だにゃー」
「…………」
「おや、どうかしたかにゃ?」
「……やめてください、浅見先輩」
もはや勘弁してくださいと言いたいほどだった。
自分よりも年上で、特に落ち着いた雰囲気のある浅見が語尾にふざけた言葉を付けて喋っている姿と言うのは、可愛いとかよりも背徳感が先行してしまう。
イメージとしては成人女性の女子高生コスプレのような、見ている方が恥ずかしくなるシチュエーションだ。
……いや、成人女性のコスプレなんて見たことないけど。
と言うかそもそも、その変な語尾を方言だと思い込むとはいったいどんな田舎に住んでいたのだろうか。
「悠斗、それなら君もやめてくれる?」
普通の喋り方に戻した浅見は、注意をするように人差し指を立てる。綺麗な指だ。
「やめる? 何をですか?」
「その浅見先輩って奴を、さ」
「浅見さんって呼べばいいって言うことですか?」
「そうじゃないよ。君がその言葉づかいで話したいなら構わないけれどね……」
浅見は俺の額にビシィッと指をつきつけた。
「そんな形ばかりで、文字数の多い呼び名には何の意味もないよ。それに私はまだ何も君に尊敬されるようなことはしていない。出来れば下の名前で呼んでくれないかな」
僅かな沈黙。
「朝霞……」
「うん」
「……先輩」
「あれれ」
一度満足そうな顔を作った浅見が、思わず姿勢を崩すようなリアクションを取る
さすがに年上の女性を下の名前で呼び捨てにするほどの精神力は俺にもなかったのだ。
代わりの案を出すことで納得してもらうとしよう。
「あの先輩」
「先輩じゃないけど、何かな」
「アサミさん……と呼んでもいいですかね」
浅見と言う苗字をさん付けで呼ぶことなら俺でもどうにか出来る。
浅見と言うのは女性の下の名前としてもありえる読みをする苗字だ。
少しイントネーションをそれに寄せることでどうにか納得してくれないだろうか。
彼女はわずかに考え込むような表情を作った後、フフフと楽しそうに笑みをこぼした。
「いいよ。よろしくね、ユートくん」
浅見の手首に巻かれた腕時計が午後四時を指していた。
夕陽と形容するには僅かに位置の高い日差しを、背の高い建物の向こうに感じながら俺たちはコートに辿りついた。辺りはわずかに暗いが、不自由するほどでは辛うじてない。
部屋からお互いに手で持ってきた《彩色服》と《制限装》を装着する。
一対一なので《色相球》は無しだ。
ついでに言えば、《着色銃装》に関してはチームで一人が専用のポジションとして持ち込める道具なので、今回は省いた。
そう言えば、と思い出す。
あの灰色の世界では同じチームに《まあす》と言う一級の腕を持つ補助射手が居たが、彼女ももしかしてこの世界で『カラーリング・ラン』をやっていたりするのだろうか。
だとすれば、再会する可能性もないわけではない。
とは言え、幼馴染である《Red》《Blue》と違って、現実では会ったことはないので再会したとしてもお互いに分からないだろうが。
――《It》も、もしかしたら……。
「じゃ、そろそろ始めましょうか。ルールは大丈夫?」
向かい合ったアサミにかけられた言葉で、俺の意識は過去の五人目のチームメイトから現実世界に向けられた。自分の着用した《彩色服》と《制限装》を軽く見下ろして、問題がないことを確認する。
「俺はいいですよ。単純に先に《制限状態》にした方が勝ちでいいですか」
「いいえ、相手を二回《制限状態》にした方が勝ちのルールで」
「了解です、アサミさん」
「それじゃあ……スタート!」
浅見の宣言と同時に、俺の靴が勢いよくバスケットコートの地面を蹴った。
10メートルほどの距離を開けていた浅見に対して正面から走っていく。全速力で駆ければ、これはすぐに詰められる距離だ。
だが『カラーリング・ラン』では、当然距離を詰めるにつれてスピードを落とすことになる。
理由は単純な節理。自分が相手に近付けば、それだけ相手も自分に近付く。
自分が相手の《制限状態》化を狙うのと同じように、相手もまたカウンターを狙う。
だから、背後からの攻撃に弱いこのルールではいかに相手を数の優位に持ち込むか、と言うことが重要になる。挟み撃ちの形を取れば確実に相手を《制限状態》へ追い詰めることが出来るのだから。
つまり、一対一ならば距離を保ちつつ味方の居る方向へ誘導する技術を磨くべきだ。
「アサミさん、行きます!!」
それは、教科書の上での話。
定石として体系化された作戦、もしくは理論。
だが俺は、それを嘲笑うように――――全速力で距離を詰める。
「……ッ!!」
最初は俺がブレーキをかけるタイミングを見計らって自分から距離を詰め《制限状態》化しよう構えていたアサミも、すぐに異変に気付く。
この速度はブレーキをかける意思のある人間のものではない。
そして、俺は絶対にアサミの《制限装》から視線を切らすことをしない。
相手の《制限装》で触れられさえしなければ《制限状態》にはならないのだから、四ヵ所ある自分のマークを護るのではなく、相手の《制限装》の動きを察知して受け止める技術が求められる。これは灰色の世界の常識からの流用だ。
片腕だけを前に出し腰を落とす、柔道の構えのような体勢をとった浅見。
相対するは、両手を振り全力で走る俺。
交錯の瞬間。
(ここで……あえて曲げる!!)
相手に正面から突っ込むように見せかけて、手が届くほどの至近距離で左に曲がる。
浅見の手が、《制限装》がそれにつられるように俺の《彩色服》のマークを追っていく。
それと同時に、俺は全力で地面を蹴り飛ばす。
上半身から飛ぶように――――後ろに下がった。
「なッ!?!?」
浅見の口から小さく漏れる驚愕の叫び。
それに対して、俺が返す宣言はただ一つだ。
「ゲット……《制限状態》ッ!!」
後ろに下がりつつ無防備になった浅見の《着色服》。
その肩のマークを俺の《制限装》が確実に捉えた。
そのまま一旦距離を取った俺に対して、一度だけ《制限状態》になったことを確認しながら浅見が称賛の言葉を告げた。
「やるね。やっぱり私の目に狂いは無かったよ」
「……そちらこそ」
今の一瞬の攻防で分かった。
浅見も十分にレベルが高い。
もしも『㎡onochrome』での並のプレイヤーが相手であれば、今のは確実に二回《制限状態》化を喰らわせられていたはずだった。
それを一回でも免れたのは、アサミが俺の動きに付いて来たからだ。
相手に対してプレッシャーをかけるための突進。
そこから急な角度に曲がり相手の《制限装》を陽動。
同時に相手に右側だけを向けることで、マーク二か所のブロックによる安全を確保。
そして、最高速から速度〇そしてマイナスへの急減速。
相手の死角に潜り、確実に《制限状態》化。
今の一瞬の間に重ねられた五個の策ですら、浅見を完全に振り切ることは出来なかった。
その事実は俺の鼓動を早め、背筋に冷たい汗を走らせた。
相手の反撃を警戒しつつ、ゆっくりと呼吸を整える。
実際の勝負ではこのような時間でも、他の敵の奇襲を警戒しなければいけない。
「次は、私が取るから」
浅見は俺の目を見据えてしっかりと言い切る。後ずさりしてしまいたくなるが、恐怖を必死に抑える。自分自身に宣言するように俺も言い放った。
「次で、決めてみせます」
様々な違いはあるが三年ぶりの最高の勝負。
全力の自分と、それに付いてくるハイレベルな相手。
ヤバい。
楽しい。
これほど楽しいことから、逃げてたまるか。
そしてそれは、次の一手を放つために足を踏み出そうとした瞬間だった。
徐々に赤さを増した落陽。
鋭い西日を差すに連れて、建物に遮られたコートは暗さを増していた。
夜にまだ至らないがゆえに慣れぬ目でぼやける世界の中で――
――その男は急に現れた。
「へぇ。楽しそうなことやってるなぁ!」
静寂を切り裂く威勢のいい声。
大声に反応して振り返るが、影になってその男の顔はよく見えない。
ポケットに手をつっこんだ背の高い人影としか分からない。
だが、浅見の方はその男を知っていたようだ。
「……幸也」
12:十七号館裏バスケットコート/鹿崎悠斗
「やぁ、少年。俺が滝原幸也だ。よろしくなっ!」
その男は近付いてくると、にこやかに笑い、右手を差し出した。
白い歯が見える。
滝原幸也。
すらりと伸びた身長は俺よりも高い。
深い紺色のジャケットと、その下にはシワのない白のワイシャツ。
左右非対称にワックスで上げられた前髪は奇抜でありながらも、その美形な顔によく合っている。そして力強い目で、真っ直ぐとこちらを見ていた。
差し出された手を、握り返そうと腕を伸ばし、
「あ、よろしくお願いし――」
――――殺気。
考えるよりも早く、俺は飛び退いた。
「いったい何……が?」
状況を確認しようと視界を正し、驚愕。
〇コンマ数秒前まで俺が居た空間を、手刀のように鋭い形にそろえられた幸也の右手が切り裂いていた。
大気を切る音が響いた。
悪寒を受けた俺が瞬時に飛び退いていなければ、あの一撃はこの《彩色服》を捉えていただろう。
「へぇ、やっぱ反応速いな」
まるでこうなることが分かっていたとでも言うように、顔をあげた幸也はニヤリと笑う。そして、何事か分からない俺を置き去りにして、言葉を続けた。
「少年、名前は?」
「鹿崎……悠斗です。今のはいったい……?」
名前を答える時になってようやくコートの外に、もう一人男が居ることに気が付いた。
目元が全く見えないほど長く伸びた前髪。滝原幸也とは真逆な印象、どこか暗い印象を与える男だった。俯いてスマートフォンをいじっている。
「鹿崎悠斗…………悠斗。なるほどな。」
何がなるほどなのか分からないが。幸也は納得したとでも言うように何度かうんうんと頷くと、今度は浅見の方に顔を向けた。
「おいアサカ! 今これ一対一の練習中だろ?」
浅見は幸也に声をかけられると、すぐに着ていた《彩色服》を脱ぎ始めた。
「そうよ、はいこれ」
浅見は歩いて近づいてくると、脱いだ《彩色服》と《制限装》を幸也に差し出した。
だが、幸也は《制限装》だけを受け取ると、浅見の腕に自分のジャケットを脱いで乗せた。
「サンキュ。あとこれ預かっていてくれ」
「えっと……?」
二人が何をしているのか分からない俺は首を傾げる。
《制限装》を両手に付けた幸也はキュッと引っ張るとこちらに向き直った。
「まぁ、そういうわけだ。悠斗くん」
どういうわけなのか全く分からない。猫川に続いて本日二度目だ。
浅見が俺の肩を叩いた。
「幸也が私の代わりに一対一の相手役をやるってことよ」
「え。あー……そういうことなんですか?」
この二人がいつの間にそんな意思疎通をしていたのだろうか。
浅見は肩を竦めて答える。
「ええ。幸也の奴が放っておくはずないもの……こんな楽しいことを」
楽しいこと、か。俺は目の前の男に向き合う。
どうやら幸也とは考え方が一致するところがあるようだ。
そもそも、こちらとしては相手はどちらでも構わないし、色んな相手と練習した方が意味があるだろう。
ただ、一つだけ疑問を口にした。
「滝原先輩、《彩色服》は着ないんですか?」
「ああ。これはハンデだ」
「ハンデ?」
いったいどんなハンデなのだろう。《彩色服》を着なければマークがないので《制限状態》化することが出来ないと思うが。
目の前の幸也は当然とでも言うように答えた。
「俺の身体全部をマーク扱いってことだ。あぁ、ついでにさっきアサカが受けてた《制限状態》も有効で、俺が二回取るまでに一回でも《制限状態》に出来ればお前の勝ちでいいよ」
「…………」
舐められたものだ、とは言わない。
幸也たちから見て、こちらは全くの未経験者なのだから。
だが、むしろ可哀想だと思った。
幸也も浅見も知らないのだから。
この俺が――あの灰色の世界の第一回大会で優勝したチーム『R』のリーダーであることを。
「悠斗、油断しないで」
コートから出て行く浅見は振り向かないままで忠告する。
「幸也はハンデありでも私より遥かに強いわ…………私が一度も勝ったことがないほどに」
「本当ですか……?」
思わず耳を疑う。
浅見も十分強い相手だったのだから。
その話が本当ならば、幸也はあの世界で俺が会ったどんなプレイヤーよりも強いと言うことになる。
いや、正確に言えば。
厳密にはあの世界にも俺よりも確実に強い奴は一人だけ居た。
だが、あいつは五人目のチームメイトとして一緒に戦うことはあっても、対面したことはなかった。
唇を噛んだ。
その話が本当ならば、
「……ふっ」
なんと楽しいことだろう。
再び、笑い声が漏れる。
「闘志は十分、か。俺も楽しめそうだな」
目を合わせた幸也もまた、口元が歪んでいた。
バスケットコートから出た浅見が左手を挙げて、勝負開始のカウントを取った。
「3」
俺は笑った。
「2」
幸也も笑った。
「1……」
浅見の左手、夜空の色をした腕時計が下がる。
「……スタート」
13:十七号館裏バスケットコート/鹿崎悠斗
自分から距離を詰めることによる状況支配。
先手必勝。
正面突破あるのみ。
これが俺の戦闘法だった。
「らぁあああああ!!!!」
力を振り絞るように叫びながら、全速力で相手に突っ込む。
対して幸也は、左右に素早く動くためか大股気味なものの、完全な脱力姿勢。だらんと下げられた両腕。その両目だけは強いプレッシャーを与えていた。
油断は、しない。
先ほどと同じように至近距離で、左へ急転回。
(――ッ!?)
手を伸ばせばすぐに届く距離。
だが、ここに来ても幸也は姿勢を崩さない。
てっきりこの距離で勝負をつけに来ると思っていた俺は、これに驚く。
――ならば、ここでバックステップを挟む必要はない。
予想外の幸也の選択にも対応して、手を変えることを決める。
本来この急転回&急減速は相手の《制限装》を陽動するための技だ。
加えてここでは相手は全身がマーク扱いになっている。
ならば、ここで取るべき選択肢は……。
「!!」
アサミが息を飲む音が聞こえたような気がした。
停止した俺は――真下方向に加速した。素早く、屈む。
後方に加速すると思っていた幸也はこれに付いて来られない。
このまま相手の脚に触ってしまえば俺の勝ちだ。
そもそもあの姿勢から俺を止められるはずがない。
勝利を確信した瞬間、
「なッッ!!??」
今度は俺が息を飲む番だった。
同時に、幸也が言う。
「……俺の勝ちだな、悠斗くん」
俺のマークが二カ所、《制限装》によって触れられていた。
疑いようもなく、間違いなく俺の負けだ。
だが、驚いたのはそれだけではない。
俺を《制限状態》化した二つの《制限装》が――俺の《制限装》だったのだ。
全く予想していなかった展開を前に、辛うじて俺が思い出したのは、あの部屋で浅見が言っていた言葉だ。俺が聞き流していた言葉でもある。
『ルールその6、《制限装》でマークを触られると《制限状態》になるの。これは自分の《制限装》でもなってしまうわ』
俺はそれを思い出し、そのルールを利用するこの戦闘法に感動していた。
幸也の両腕の狙いは、最初から俺のマークではなかった。俺の《制限装》を狙っていたのだ。
あの一瞬、素早く俺の《制限装》を掴んだ幸也は、それで俺自身を《制限状態》化させたのだ。
「~~~~っっ!!!!」
心の中に何かが湧き上がる。
熱い感情。
強い感情。
そうだ、これは悔しさだ。
『楽しさ』と同じように、この三年間味わっていなかった心の底から悔しいと思うこの感情を、俺はなんだかとても愛おしく思った。
眼前で誇らしそうに笑う幸也。
先ほど出来なかった握手を交わしながら、俺は考える。
この人を越えられたらどんなに、『楽しい』だろう。
それこそ、三年前でも手にしなかったような感情がそこにはあるような気がした。
そして同時に『カラーリング・ラン』という競技についても、考えを改める。
幸也が用いた戦法は『㎡onochrome』には存在しない。
あのゲームには自身の手でマークに触れても《制限状態》にはならなかったし、そもそもあの世界には相手の身体を握ると言う手段が存在しなかった。
ならば、灰色の世界にない手段で負けて不満か?
答えは否だ。
悔しさこそあるものの不満などかけらも無い。
むしろ俺は期待をしていたのだ。
ゲーム『㎡onochrome』ではなくスポーツ『カラーリング・ラン』だからこその楽しさがあるのではないか、と。
ここには灰色の月よりも俺が見たい何かが待っているのかも知れない、と。
「今日からよろしくお願いします」
「うん。元気がよくて楽しい新メンバーは大歓迎だ。俺、アサカ、サツキ、ナオキ、タクマ……五人とも君をメンバーとして認めよう」
タクマと言うのだけは初めて聞いた名前だが、おそらく幸也と共にここに来た前髪の長い男のことだろう。
その優しい言葉を俺は、訂正した。
「すいません、それって俺だけじゃなくてもいいですか?」
「それはつまり、他にもメンバーに心当たりがあるってことかな?」
返事をしたのは浅見だった。
俺は首を縦に振る。
「はい。あと二人ほど……」
俺は二人の幼馴染を思い浮かべた。
灰色の世界では、俺と並んで優秀なプレイヤーだった《Red》。
そして回避能力に秀で、広い視野で戦場のオペレーターを務めた《Blue》。
あの二人をこの競技に誘わない手はないだろう。
「もちろん大丈夫! 私の連絡先を教えておくから、都合のつく日に一度連れてきて」
「分かりました。おそらく今週末には」
こうして、期せずして年上女性の連絡先を手に入れたのだった。
四人で部屋に戻ると泣き止んだ猫川沙月が待っていた。読口はげっそりとやつれて壁際に座っていた。
俺は浅見と共に軽いフォローを猫川に入れた後、また来る約束をして五人に別れを告げた。
タクマと呼ばれた男とは結局ほとんど話をする機会がなかった。
建物から出ると、辺りはすっかり暗かった。
頭上の月は昼間と変わらないのに、とても明るく見えた。
一度伸びをして、これからの未来に思いを馳せる。
しばらくは《楽しんだ者勝ち》の一員として練習することになる。
そしていつかこの手で、必ずあの男を超える。
それが俺の目標だ。
だが、俺一人では無理だ。
そのためには仲間を集めなければいけない。
幼馴染の二人と《まあす》、そして《It》。
「…………」
なぜか《It》に関しては想像することが出来なかった。
そもそも現実世界で会ったことがない二人と再会するのは難しいだろう。もうここはゲームの中ではないのだから。
この競技ではチーム名に色を入れるのが暗黙のルールとなっているらしい。
ならば、自分が作るチームの関する色は『灰色』だ。
あの世界の『R』と同じように、いや、それ以上に楽しいチームを目指そう。
不意に、チーム名が思いついた。
それはどこか口に出したくなる語感だ。
まるで紅茶の名前だと笑われてしまうだろうか。
暗くなった世界に決意を示すように、俺は声に出して呟いた。
近付いてくる池袋駅前の雑踏の、その奥へ目を向けた。
「作るんだ……《最高の景色》を」




