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錯認の果て──不倫だと知らずに恋をした、私の物語。  作者: 髙山あきら


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第八話 食パンと卵とハム

真実を確かめることができないまま、いつもの生活を続けていた真由。

けれど、日常というものは、こちらが立ち止まっているからといって、同じ場所に留まってくれるわけではありません。


何気なく立ち寄ったスーパーで、思いがけず呼び止められた名前。

その声は、忘れていたはずの過去を静かに呼び起こします。

 仕事を終えた私は近所のスーパーへ立ち寄り、入口近くに積まれた特売の野菜を横目に見ながら買い物かごを手に取ったのだけれど、店内には夕食の支度をする人たちが溢れていて、惣菜売り場からは揚げ物の匂いが漂い、レジの方からは子供のはしゃぐ声や店員の案内する声が絶え間なく聞こえてきていて、そんな当たり前の日常の真ん中に立ちながらも、私の意識だけはどこか別の場所へ置き去りにされたままだった。


 ブロッコリーと半分に切られたレタスを買い物かごへ入れたあと、私は鶏肉売り場の前で足を止めた。


 今夜は油淋鶏にしようか。


 そんなことを考えながらパックを見比べていた時だった。


「梶原さん?」


 不意に名前を呼ばれ、私は反射的に顔を上げた。


 こんな場所で声を掛けられるとは思っていなかったものだから、一瞬だけ何が起きたのか分からず、そのまま振り返った私は、そこに立っていた男性の顔に確かな見覚えを覚えながらも、それが誰だったのかまではすぐに思い出すことができなかった。


 記憶の奥に引っ掛かる何かを手繰り寄せるように相手の顔を見つめていたのだけれど、向こうはそんな私の反応を面白がるように穏やかな笑みを浮かべたままこちらへ歩み寄ってきて、その表情が妙に懐かしく見えた瞬間、曖昧だった記憶がようやく形を取り戻した。


「やっぱり梶原さんだ」


 その声だった。


 懐かしい響きに背中を押されるようにして、記憶の底へ沈んでいた名前がゆっくりと浮かび上がる。


今回は、少しだけ視点が変わるきっかけになる話です。


真由自身はまだ何も決められないままですが、思いがけない場所で、思いがけない人物と再会します。

こういう偶然が、人生の流れを変えてしまうこともあるのかもしれません。


この先、彼が誰なのか、そして真由の過去とどのようにつながっているのか。

もし少しでも気になると思っていただけましたら、続きを読んでいただけると嬉しいです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

ご感想やリアクションなどいただけましたら、とても嬉しく思います。

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