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錯認の果て──不倫だと知らずに恋をした、私の物語。  作者: 髙山あきら


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第二十一話 正解のない問い

答えを求めて訪れた場所で、真由は思いがけない言葉を聞くことになります。

誰かに決めてもらえれば楽なのに、最後には自分で決めなければならない。

迷いながらも、真由は少しずつ、自分のこれからについて考え始めます。

「……私、産んだほうがいいのでしょうか」

 その言葉を口にした瞬間、自分でも答えを求めているわけではないことが分かった。


 看護師はすぐには答えず、私の顔を静かに見つめていた。

「それは、私がお答えできることではありません」

 声は終始落ち着いていた。

「産むか、中絶するかは、梶原さんご自身が決めることです。私たちがお勧めしたり、決めたりすることはできません」


 私は視線を落としたまま、返す言葉が見つからなかった。


「ただ、中絶だけが選択肢ではないということは、お伝えしたいんです」

 看護師は机の上へ両手を重ね、言葉を続けた。

「誰にも妊娠を打ち明けられないまま出産を迎えられる方も、実際にはいらっしゃいます。パートナーと連絡が取れなくなってしまった方、経済的な事情を抱えている方、ご家庭の事情がある方……理由は本当にさまざまです」


 私は顔を上げた。

「そうして生まれたお子さんの中には、児童養護施設で生活されるお子さんもいますし、『特別養子縁組』という制度を利用して、養親のもとで育っていくお子さんもいます」


「……特別養子縁組、ですか」


 看護師は私の反応を確かめるように、一度だけ頷いた。

「はい。生まれたお子さんを育てたいと願っているご夫婦の養子となり、法律上の親子になる制度です」

「……知りませんでした」


「知らない方のほうが多いですよ。ただ、梶原さんには、そういう選択肢もあるということだけは知っておいていただきたかったんです」


 少しの沈黙が流れたあと、看護師は静かに尋ねた。

「差し支えなければ、パートナーの方には妊娠のことをお話しされていますか?」


 私は俯いたまま、小さく首を横へ振る。

「……まだ、話していません」


「そうでしたか」

 看護師はそれ以上理由を尋ねることはなかった。

「もちろん、ご事情はそれぞれです。ただ、妊娠はお二人に関わることです。可能であれば、一度お話しされることも考えてみてください」


 私は返事をする代わりに、小さく頷いた。


「何かあれば、またいつでも相談にいらしてください。一人で抱え込まないでくださいね」

 看護師は私の目を静かに見つめた。


「……あと一つだけ、お伝えしたいことがあります」

 

 私は黙って頷いた。


「リスクがない選択肢はありません」


 その声は責めることも、慰めることもなかった。それでも、一つひとつが静かに胸へ落ちていく。

「中絶にも身体的、精神的な負担があります。出産にもリスクがありますし、その後お子さんを育てていくことにも、ご事情によっては特別養子縁組という選択をされることにも、それぞれ悩みや苦しさがあります」


 看護師は少し間を置いて続けた。

「だからこそ、どれが正しいと私たちがお伝えすることはできません。梶原さんご自身が納得できる選択をしていただくことが、一番大切だと思っています」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

今回は、真由が看護師さんに「産んだほうがいいのでしょうか」と尋ねる場面を書きました。

……いや、聞く相手が違うでしょう、と突っ込みたくなった方もいらっしゃるかもしれません。

私も書いていて、そろそろ真由の優柔不断さにイライラされる方が出てくるのではないかなと思っています。

「藤崎さんに話さなくちゃ」「決めなくちゃ」と何度も考えているのに、なかなかそこへ進めない。けれど、今の真由にとっては、それだけ簡単に割り切れることではないのだと思います。

今回、看護師さんから教えてもらったのは、答えではなく、真由が知らなかった選択肢でした。

産むこと、中絶すること、そして生まれた子どもを特別養子縁組によって託すこと。それぞれに事情があり、それぞれに悩みや負担があります。

だからこそ、誰かに「これが正解です」と言ってもらうことはできない。

真由自身が決めなければならないのですが、その「自分で決める」ということが、今の彼女には一番難しいのかもしれません。

そして、まだ藤崎さんには何も伝えていません。

ここまで来ると、「いい加減、藤崎さんに話して!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。

この先、真由がどうするのか。もう少しだけ、彼女の迷いにもお付き合いいただけたら嬉しいです。

この作品は、すべての方に受け入れていただける作品ではないと思っています。登場人物の行動に共感できない部分や、もどかしく感じる部分もあると思います。

それでも、ここまで読んでくださっていることを本当にありがたく思っています。

もし何か感じていただけましたら、「真由、もう!」でも構いませんので、リアクションや率直なご感想をいただけると嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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