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いまここ新世界  作者: アリエス


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7/9

.7 フォロワー

ルカはそのまま木刀を頭上へ掲げる。右手は柄の上部。

左手は下部を握り、両腕を大きく交差させるような独特の構え。


その瞬間。


ふわり――


ルカの全身を包むように、微かな風が生まれた。

長い髪が揺れ、体操着の裾がかすかにはためく。

風は少しずつ強さを増しながら、周囲の空気を巻き込み、彼女のもとへ集まり始める。


ヒュウウウ……


やがて木刀の周囲で白い風の帯が螺旋を描いた。

握る手には一切の迷いがない。

「きみ、フォロワーの数は?」


唐突な質問に、ジンは思わず目を瞬かせる。


「え?」


アヤカへ返事をしようとしていた意識を引き戻し、改めてルカへ視線を向けた。


その瞬間。


ルカが木刀を振り下ろす。


振り抜かれた軌跡から、圧縮された風が刃となって解き放たれた。


「私は80万」


まるで世間話でもするような口調。


だが放たれた風刃は、空気そのものを切り裂きながら、一直線にジンへ迫っていた。


(風かッッ!!?)


風刃は一直線。

凄まじい初速。さらに加速。


空気を裂きながら、瞬く間に間合いを呑み込む。


「クッ...!」


ジンは反射的に上体を傾けた。


ビュオッ――!!


頬のすぐ横を風刃が駆け抜ける。


吹き荒れる風圧に髪が大きく跳ね上がり、体操着の裾が激しくはためいた。

耳の横を掠めた風刃は、そのままジンの背後へ抜ける。


ビュオオォッ――!!


勢いを失わないまま空へ駆け上がり、青白い軌跡を残して上空へ。

遥か頭上で雲をわずかに揺らしながら消えていった。

その光景を見上げながらも、ルカの表情には余裕が残っている。


ルカはその様子を見ながら、小さく笑う。


「なので、すぐ終わらせますね......じゃ、次は避けれないように......」


ルカはそう言うと、そのまま屋根を蹴った。


トンッ――


軽やかに宙へ舞い上がる。


体操着が風をはらみ、傾きかけた午後の光を浴びて、

その手に握られた木刀が冷たくきらめいた。


「これ、避けたら、家にいっちゃいますよー」


そう言いながら、木刀を容赦なく上空から振り下ろす。


ビュオッ!!


再び風刃が放たれる。


(確かにな、これ避けたら家に当たる……)


ジンは右手の木刀を握り直した。

腕から魔力を流し込み、木刀へ集中させる。


迫る風刃。


そして――


バチィィィンッ!!!


放たれた風刃へ向けて横薙ぎに木刀を振るった。


二つの力がぶつかり合い、空中で相殺された。

空中で弾けた風が周囲の屋根を揺らす。


その直後。


風刃を放ったルカ自身も、

上空からそのまま間合いへ飛び込んでくる。


「なにしてる! ジン! "先読み"で、さっさと決めしまいなさい!」


後方からアヤカの声が飛ぶ。


(あの人、戦いとなると、ちょっと人格変わるよな……)

そんなことを考えた瞬間。


もう目の前にルカがいた。


バァァァンッ!!!


風をまとった木刀が、落下の質量をも乗せて上空から一直線に振り下ろされた。

ジンは咄嗟に木刀を差し込み、その一撃を受け止めた。


激突した瞬間、風圧が弾ける。


体操着が大きくはためき、足元の瓦が軋んだ。


至近距離。


互いの顔が見える距離で、ルカが試すような目で。

「ちなみに、君はしてるの? 配信とか」


「いや、特には……」


「ふーん…」


次の瞬間。


ルカは軽く相槌を打ちながらも、次の体勢へと構える。


風が唸る。


体を捻ったルカが、そのまま遠心力も乗せ二撃目を放った。


ドガァァンッ!!!


さらに三撃。


ガゴォンッ!!!


四撃目。


バギィィンッ!!!


風の加速を乗せた連撃が、休みなくジンへ襲い掛かる。

ジンはひたすらにルカの剣撃を受ける。


「じゃあ、対魔のランクは?」


「え? えー……と……」


ジンは木刀で受け流しながら後退する。


一撃ごとに腕へ、体へと重い衝撃が伝わる。

(くっ、意外と一撃一撃が重い! ……どっかで魔力をためないと……)


その隙を逃さず、ルカがさらに踏み込んだ。

「もう、いいでしょ。私の勝ちで」


ズガァンッ!!


振り下ろされた一撃を受け流しながら、ジンは隣の屋根へ飛び移る。

距離を取る。


(とにかく、タメが必要だ……)


2人の距離が再び開く。

田中が感心したように息を漏らした。

「やっぱ、めっちゃつえーじゃん…あの子…」


そして、条列じょうれつ高校の男子生徒も、小さく口を開いた。

「次元移動に、先読みか…それに、剣もそれなりにできるか…」


その男の後ろに居た条列じょうれつ部員。


上綺かみきと、やりあえるのか…すごいな…」


ルカは、そんなジンの様子に小さく息を吐いた。


「まーた、逃げるだけ? はぁ……」


その間にもジンは静かに魔力を貯める。

そして、また。


ドォッ!!


風刃が飛ぶ。


同時にルカ自身も屋根を蹴り、一気に間合いへ、再び飛び込んでくる。


ジンは木刀を振り抜く。


ドバァァァンッ!!!


風刃が衝撃の波動となって、空中で弾け飛ぶ。


ジンが風刃を打ち消すと、またルカも来る。

「ほらほらっ!!」


風をまとった木刀が振り下ろされる。


ガキィィンッ!!!


足場の屋根がわずかに軋む。


(まずい…足元はなんとか、魔力で抑えてるけど……)


そして、ジンはルカに改めて答える。


「ランクは……Dだったかな?」


「えっ? D?」


ルカの動きが一瞬だけ止まる。


だが次の瞬間。


バン!!

バン!!

ドゴッ!!

バァンッ!!

バン!!


連撃。


ジンも受ける。


(くっ…家のことは何も考えないのか)


風をまとった斬撃が嵐のように降りかかった。


そして――

木刀に渦巻く風が一気に膨れ上がり、


今までで最も重い一撃が、ジンへ振り下ろされた。


ズガァァァァンッ!!!!


激しい剣戟の音が空へ響き渡った。


そんな時だった。


下から怒鳴り声が飛んでくる。

「なにやってんだ! うちの上で!!」


住宅街の住民だ。


その声に反応したメイが、屋根の端から身を乗り出した。

「大丈夫です! もう終わりまーす!」


明るく返事をするが、その背後ではまだ終わる気配がない。


風はなおも、わずかに唸り、二人は向かい合ったまま。


やがて――

ふっと力が抜けたように、ルカが肩を落とす。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


額には汗が滲み、肩が上下していた。


対するジンも浅く息を吐く。

「ハァ……ハァ…」


その時。

ふらり――

体がわずかによろめく。


それでも視線はルカから外さない、木刀を握り直す。

貯め続けた魔力は、あと少しで発動域。


(いま、決めるか……)

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