.3 四元学園
周囲を包んでいた緊張が、ようやくおさまっていき、
少しずつ生徒たちの声が戻り始めた。
「え、今の倒したの?」
「消えたよな……?」
校舎の回廊や窓から見ていた生徒たちも、ざわざわと話し始める。
「対魔部の人?」
「あれ新愛じゃね?」
そんな周囲の声が、ジンの耳にも入ってくる。
(良かった)
小さくそう思うと、ジンは手に残ったシャーペンを見て、
くるりと振り返り、そのままアサを見た。
「助かったよ、アサ」
そう言って軽く笑った。
アサは一瞬だけ目をぱちぱちと瞬かせた。
「えっ―…」
(な、なにそれ……急に)
予想していなかったのか、少しだけ言葉に詰まる。
だがすぐに顔をほころばせた。
「えへへ、そのシャーペン今ウチで出してるやつ」
嬉しそうな顔で。
「だから、ちゃんと役に立てたならよかった!」
するとその横からミカが近寄ってくる。
「いやー、でもびっくりした!」
そう言いながらジンを見て。
「最後全然見えなかったんだけど!」
そして周囲の生徒たちも、普段の空気へ戻っているところだ。
「よかったー」
「ちょっと前もあったよな?」
「次移動教室だわ」
「マジか」
さっきまでの騒ぎが少しずつ日常の雑談へ変わっていった。
その一方で――。
中庭の奥の方。
2、3人の生徒が小さな声で盛り上がっていた。
「ねぇ……やっぱ新愛くんかっこよくない?」
「普通にアサちゃん守ったよね」
「しかもその後めちゃ普通だったし」
「それなんだよね」
そんな声がわずかに聞こえながら、ジンたちもそのまま教室へ向かう。
すると歩きながら、アサが携帯を取り出してジンに見せた。
「はいジン、これ今期のあんたのスケジュールね。
それで、今からは都市デザインのフィールドワーク、
それから、来月の特別ゼミはこれにしておいたから!」
アサに携帯の画面を見せられて、ジンは軽く頷く。
「え?都市デザイン?うん、わかった」
その会話を聞いていたミカが、ぱっと顔を上げた。
「あっ、その授業、一条先生だよね!」
「えっ?そうだったかな?」
「そうそう、一条先生、いいよねー」
「あー確かに」
ミカはうんうんと大きく頷く。
「説明わかりやすいし、なにより顔がいい!」
「わかるかも」
アサも納得したように笑った。
「でしょ!?」
ミカは嬉しそうに身を乗り出す。
アサは「うんうん」と頷きながら聞いていたが、
ふと思い出したようにジンの方を向いた。
「あっそれとさ、ゼミの方も通ってるから、ちゃんと確定させて!
一緒に行こうね!」
「……ん?そうなの?わかった(ポチッ)」
ジンも携帯を取り出し、内容を軽く確認すると、そのまま参加を確定させた。
そしてその日の、そのフィールドワークの授業にて、時間帯は午前。
一行は、大規模な複合施設を中心とした都市開発エリアへと来ていた。
周囲にはオフィスビルや商業施設が立ち並び、広場では多くの人々が思い思いに過ごしている。
担当の一条が声を出した。
「それじゃ、みんな居るな?今回はこの地域の街並みのルーツを探っていきます……。
その前に最初のクイズ!これまでの復習を兼てね」
自然と生徒たちの視線が集まった。
「でた」
「クイズ!」
そして一条が、どこか楽しそうに端末の画面を掲げる。
「昔から現在にいたるまで、世界中の都市計画の中心となったテーマは、
時代ごとにどう移り変わってきたか? そして、これからのこと、誰か簡単に、
流れをまとめて答えられる人はいないかな?」
生徒たちが一瞬で静まり返り、一条と目を合わせないように視線を泳がせる。
その沈黙の中、アサがジンの脇腹を肘でツンツンと小突いた。
「……ねぇ、ジン、なんかこういうの詳しいじゃん!パパっと答えてよ!」
突然振られたジンは、少しだけ目を瞬かせた。
「都市計画?……ん、わかった」




