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いまここ新世界  作者: アリエス


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.2 対魔部

その言葉に、生徒の表情が少し明るくなった。

「おっ、さすが!じゃ、頼む!」


「おう」


軽く返しながら前へ出るジンだったが、ふと周囲を見回す。


(ていうか、あれ、他の対魔部員いない?、あれ?)


「......まーいいっか」


小さく独り言を漏らし、そのまま魔物へ歩み寄っていく。


その背中へ、アサが元気に声を飛ばした。

「しっかり!気をつけて!」


その隣で、ミカも勢いよく口に手を当て。

「いける!いける!」


ジンは魔物へゆっくり歩を進めながら、

(捕まえても、討伐でも、ポイントそんな変わんないし……やるか)


先程まで応戦していた生徒の一人が、焦った声を飛ばした。

「気をつけろ!そいつ、動きかなり早いぞ!」


ジンはそれに軽く頷くと、

芝生の上で魔物との距離をゆっくり縮めていく。


(……まずフェイント、そのあと誘導で......カウンターだな)


次の瞬間、ジンはわずかに体を左へ傾けた。


すると魔物は、それにつられるように反対方向へ動こうとする。


(よし、そこ!――)


そう思った瞬間だった。


魔物の体が、予想以上の速さで飛び出した。


(なにっ!?)


淡い色の影が、一気に横を抜けた。


向かった先――

そこにいたのは、少し後ろで様子を見ていたアサだった。


「アサ!逃げろ!」


突然叫ばれ、アサがぱちぱちと目を瞬かせた。


「えっ!?」


だが、その時にはもう魔物が目前まで迫っていた。


(――ッ!!)


ジンは魔力を薄く流した足で、芝生を強く踏み蹴る。

そのまま一気に間合いを詰めると、

アサの前へ、まるで滑り込むように身体をねじ込ませた。


「っ、ジ――!?」


飛びかかってきた魔物へ、構えていた左腕を一気に振り抜くジン。

魔物の小さな体が腕へぐっと押し込まれ、鈍い感触が走った。


「グガッ!!」


その勢いのまま、

ジンは衝突の力ごと横へ流すように腕を振り抜き、魔物の体を弾き飛ばした。


ズザァッ!!


魔物は芝生の上を埃を巻き上げながら転がる。


そして—

勢いを失うように止まった。


周囲から遅れて、どよめきが上る。


「うおっ!?」


「今の見えた!?」


芝生の上に舞った埃が、ゆっくりと晴れていく。


その向こうにいる魔物を見据えたまま、ジンは歩を進める。


アサも目を丸くしたまま、思わずその背中を見る。

「……え、ちょ、今かっこよくなかった?」


「アサ無事!? びっくりしたぁ……!」

ミカは思わずアサのそばへ向かった。


そして、ジンは倒れた魔物の前に立つと、制服のポケットをぱたばたと探り始めた。


(なにか、剣の代わり……)


上着のポケット、ズボン。


「どうする……あっ」


何か思いついたように、ジンがぱっと後ろを振り向く。


「アサ!なにか、シャーペンとか!」


急に呼ばれたアサが、びくっと肩を揺らした。


「えっ、えっ、今!?」


アサは慌てて肩のバッグを開き、ペンケースをごそごそ探り始める。


「あれ!?どこ!?あっ、これ違う!」


「私も探そうか!?」

横でミカがそう言いながら、ミカも自分のカバンの中を探し始める。


その間にも、魔物はじりじりと唸りながら体を揺らしていた。


(とりあえず、手に魔力集めとくか……)


ジンは指先へとじわりと魔力を流し込みながら、

魔物の動きに合わせ、魔物の進路を塞ぐように立つ。


魔物も警戒しているのか、低く唸るだけで飛び込んでこない。


ジンはちらっと後ろを見る。


まだアサはカバンの中をがさがさ漁っていた。


(間に合いそうにないか!?)


魔物の体がぐっと沈む。


来いっ――!


ジンも手に力を込め、重心を落とした、その時。


「これでいいよね!ジン!」


アサが勢いよくシャーペンを放り投げる。


宙をふわりと飛んできたそれを、

ジンは魔物から目を離さないまま片手でパシッと掴んだ。


(あっ、細いタイプか)


その瞬間――


魔物の様子が変わる。


「ガルルル……ッ!」


淡い色の毛がぶわっと逆立ち、体の周囲に妙な揺らぎが広がり始めた。

空気がゆらゆらと歪み、周囲の景色が熱気のようにぶれる。


「うわっ、なにあれ!?」


「なんかモヤモヤしてるんだけど!?」


近くの生徒たちがざわつく。


ミカも思わずアサの制服の袖を掴んだ。

「ちょ、ちょっとヤバくない!?」


一方、ジンは静かに魔物を見ていた。


(空気中に飛散させた魔力で視界を歪ませ、思考を乱すつもりか)


少し握りづらそうにしながら、シャーペンを持ち直す。


(面倒になる前に決める)


逆立った毛の隙間から、魔力がぱちぱち弾ける。

魔物の姿がぶれ、距離感まで狂い始める。


ジンは少し重心を落とす。


(……一瞬だけでも、この速さはちょっとしんどいけど)


次の瞬間。


ジンの姿がふっと消えた。


「――え?」


誰かの声が漏れる。

そのほんの一瞬後。


ジンはすでに魔物の懐へ入り込んでいた。


霊力が込められたシャーペンを握るその手は、前へ突き出されている。


そして、それは魔物の真ん中、胸をまっすぐに貫いていた。


「ギャッ――」


魔物の動きが止まる。


ジンはそのまま、ただ静かに魔物を見つめていた。

誰も声を出さない。その場から音だけが消えたようだった。


すると、周囲の景色を歪ませていた魔力も、ふっと徐々に薄れていく。

静まり返る中、ジンは小さく息を吐く。


 ……わかった、そうだよな


ジンがそう言い終えると、


そのまま、胸にシャーペンを刺された魔物の体が、さらさらと粒のように崩れ始め、

魔物はそのまま空気へ溶けるように消えていく。


ジンもまた、その光景をただ静かに見つめていた。


そして数秒後には、そこには何も残っていなかった。


「…………」


周囲の生徒たちがぽかんと口を開ける。


 俺は、神に近づく…


その後ろで、アサが目をきらきらさせていた。


「えっ......やっぱかっこいいんだけど......!」

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