第15話 深夜の模範囚は警察に追跡され、あの手この手で真犯人となる
深夜2時
全高12メートルの軽巨大ロボ「クラウ」の足元
パイロットのヒカルは
仕事帰りの電池パック交換所で
冷えた おにぎりを口に運んでいた
「……帰るか」
今日の仕事は上手くいかなかった
やる事なす事、裏目に出る散々な一日だった
ヒカルはうなだれ、巨体を歩かせ始める
深夜の住宅街
ズシン、ズシンと規則正しい着地音が響く
その時
バックモニターに「赤と青の点滅」が映り込んだ
パトロールロボだ…
それもピカピカに磨かれた最新の県警仕様だ
(待て、落ち着け俺は何もしていない)
ヒカルは自分に言い聞かせつつ
操作レバーを握る手に力を込める
ここで下手に速度を上げれば「逃走」と思われる
ここは 「善良で、法を遵守する市民」 のアピールをしなくては…
早速、彼は徹底した 模範歩行 を開始した
まずは足音だ
「夜の住宅街への配慮ができるんです私」をアピール
足首の油圧サスペンションを限界まで絞り
「ズシン」という音を出さず
スゥースゥーッと流れるように歩く
次に視線だ
「空き巣じゃありません、視線は一定です」をアピール
不審者のように、キョロキョロと周囲を警戒せず
ロボの顔を正面に向け
一切、脇目を振らずに歩き続けた
ところが、背後のパトロールロボは離れない
それどころか、じりじりと距離を詰めてくる
(なぜだ?ライトOK、信号も守った、今朝のポイ捨て?)
焦りが 「丁寧さ」 を加速させる
ヒカルは、曲がり角のたびに
「私は曲がる方向が最初から決まっています」をアピール
右に曲がる時はロボを徐々に右に寄せ
スッと上体から入る
左では反対と、丁寧な入射角ムーブ
ついに自宅が見えてきた…
「どうする、次はどうすれば?」
その時
背後のパトロールロボが
威嚇するように電子サイレンを一瞬だけ鳴らした
「…そこの軽巨大ロボの 『クラウ』、止まりなさい」
警察ロボのハッチが開き
身を乗り出した警官が鋭い視線を向けた
「降りなさい!」
渋々、従ったヒカルは
近づいてきた警官に思わず抗議
「な、何ですか!私は法定速度も
歩行マナーも、全て完璧に守って…」
「…それが怪しいんだよ
さっきから見てれば、足音を異常に殺して忍び歩き
周囲の監視を避けるように下を向き
時折、強盗が逃走ルートを逃げるかのように曲がる…」
「え…?」
「今、近所で『巨大ロボによる空き巣事件』が頻発しててね
目撃証言によると
犯人は『深夜、異様に気配を消そうと不自然な動きをし
慎重すぎる足取りで徘徊するロボ』だそうだ」
ヒカルの頭が真っ白になった
無実を証明しようと積み上げた「模範的挙動」の全てが
皮肉にも「プロの犯罪者の隠密行動」として映ってしまったのだ
「でも、君じゃなさそうだ」
「へ?」
「なんでも目撃されたロボの色は『黒』との事
君のロボは『黄色』だもんな」
「へ?あ、はい」
急に疑いが晴れたヒカルは力なく返事をした
「すまんね、あまりにも動きが…なもんでね」
警官は颯爽とロボに乗ると夜の街に消えた
「良かった…助かった」
安堵するヒカルは『クラウ』に乗り込み自宅へ
その自宅には一枚の看板
「ロボの板金 塗装 ヒカルオートサービス」
読んで頂き、ありがとうございます!
次回は、深夜高速のSAで繋がる青年とおじさんの話です
評価、感想、お待ちしております!




