第14話 ペーパードライバーが和菓子を買ったら祖母の隠された秘密を知る
「目的地まで、あと三十キロ…遠い、遠すぎる」
タクミは、コクピットのモニターが放つ淡い光の中
絶望に近い溜息をついた
とはいえ、引き返すわけにもいかない
祖母の好物 「銘菓・萩の太陽」 が必要だからだ
そもそも、朝早くに祖母から連絡が来て
今日の夕方に来ると言う
祖母はあらゆる権利を持っているので
家の者は誰も逆らえない
逆らった叔父は、ここ数年見ていない
ご機嫌とりのお菓子買ってきて、と母に頼まれ
任せとけ! と、安請け合い
お昼ごろに電車で余裕…と、思ったら
公共交通機関はストライキだという
あれがないと、祖母の機嫌が悪くなるし
毎回もらう小遣いにも響く
そんなタクミを見て母が提案
ガレージで眠っている巨大ロボ「クラウ・ギア」がある
ちょっと古い型だが、毎回車検に出して全然動く
もう時間も選択肢もない、人はお前だけ、すぐに行け
タクミは渋々、ガレージに降りるが
「しかし、コイツ動くのか?」
擦り傷、凹み、謎の液体跡
どちらかというと戦闘ロボだ
そしてもう一つ不安要素
タクミは超ペーパードライバー
ロボに最後に乗ったのは…いつだったか…いつだったか
でも、やるしかありません、出撃です
まずは様子見の時速20キロ
並走する自転車の青年
あまりの遅さに、なんだコイツと見上げています
そのうち、やっと慣れてきたタクミ
徐々にスピードを上げますが
最も恐れているのは「慣性」です
15メートルの質量がスピードに乗れば
ブレーキを踏んでも数メートルは滑る
その数メートルが、彼には死の淵への距離
進んでは、あわわと止まり
進んでは、あわわと止まり
そんな事を繰り返しておりますと…
「ピッ、後方に渋滞が発生しています!
現在、軽機が十二機、普通機が三台…前方に警察の」
と、ナビが親切にも、精神に来る情報を発します
「ナビ、今は音声、切ってください…」
ちょっと泣きそうなタクミでしたが
市街地を抜け、緩やかな下り坂の景色で心が変わります
高い視点から見下ろす
どこまでも続くアスファルトの帯
信号機が消え、視界を遮るビルがなくなると
不思議と恐怖が薄れ
代わりに妙な高揚感が胸を突きました
「スピード…少しだけ、出してみるか」
タクミは意を決して、ペダルを深く踏み込む
アスファルトを踏みしめる音は
ドスンドスン から
カシャンカシャン になり
シュインシュイン へと変わる
目の前の景色が、後方に一気に流れ
時速八十キロに到達
十五メートルの高さから体感する速さは
空を飛ぶのと同義
巨大な質量が、風を切り裂き、大地を掴んで突き進む
「楽しい…」
ハンドル越しに伝わる路面の感触が
自分の足の裏のように鮮明に伝わり
この鋼鉄の巨人と一体化しているのが分かった
「すごいな、こんなに…こんなに楽しいのか、こいつは」
和菓子店に到着した頃には
タクミの顔には清々しい笑みさえ浮かんでいました
「さてと…」
無事に「銘菓・萩の太陽」を購入し、帰路につこうとしたその時
一組の老夫婦がタクミに声を掛けてきた
聞けばタクミの住む町に行きたいがタクシーが捕まらない
用事の時間も迫り、急いでいるのだと言う
「わかりました!」
行きの道中でロボの楽しさに目覚めたタクミは二つ返事
老夫婦をコクピット後部座席へ招き入れた
「いやあ、助かるよ、まさか、これに乗れるなんて」
「いいんですよ私も、こいつを走らせるのが楽しいんです」
タクミは優しくペダルを踏んだ
帰りの道は、もう時速二十キロではない
しかし、急加速もしない
同乗者が驚かない程度
それでいて「走る愉しみ」を共有できる絶妙なスピード
夕焼けに染まるバイパスを
銀色の巨体が滑るように駆けていく
モニターに反射する自分の顔は
今朝までの頼りないペーパードライバーではなく
一人の「パイロット」の顔をしていた
さて、自分の町に着いたタクミ
「どの辺りで降ろしますか?」
老夫婦はニヤリと笑い
「君の家だよ」
着けば分かる、との夫婦を不審に思うも家に着くと
なんと祖母が玄関前で待っている
老夫婦を降ろすと、二人と祖母は大きく笑いあう
「おばあちゃん、二人を知ってるの?」
「知ってるも何も、私たち三人は
この巨大ロボ『クラウ・ギア』で
言えない事から言える事、散々、やったもんさ」
すると老夫婦が祖母に何やら手渡す
「はい、萩の太陽」
祖母はお土産をもらうと
三人そろって家の中へ
「祖母の好みを知る旧知の中か…」
渡せなかった お菓子片手に三人を見送るタクミでしたが
見上げた「クラウ・ギア」に付いた謎の液体跡が
「赤」だったことに
何かを感じたような、感じなかったような…
読んで頂き、ありがとうございます!
次回は、深夜に空き巣と間違えられて追跡される男の話です
評価、感想、お待ちしております!




