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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
1:王都ロスト・ミューにて

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9/11

9:ミリアによって導かれる外の世界について

 雄鶏が鳴く前に、フェリーネはベッドを抜けて、礼拝堂へ祈る事を日課にしていた。暗い礼拝堂に、ランプを持って入れば静けさが、彼女の心をピリリとさせる。


 裏口から入った彼女は、説教台にランプを置き、カシオペア様を前に祈りを捧げる。


 その効果についてはわからない。生きている事で幸せなのかもしれないし、自由に外へ出られなくても、健康ならいつかなにかできるはず。


 ――でも、何を?


 未来は、彼女の手の内にない様に思われた。しかし蛮勇はミリアの事が気にかかる。


 カリオスは強いのだろう。けれど、貴族は剣のみで戦わない。そして彼はその戦いにおいては、今なお敗北している側に居る。


 その時、朝日のはいらない裏門側の扉がふたたび開く。

 彼女はその音を聞いて、世界の為に健康と平和を祈った。


 とても小さな足音は、トコトコ響き、夜目の利くミリアの足音は、私の隣りに並らぶ。


 目を開けて見るとミリアの姿が、蝋燭の淡く、温か光の中に見える。


 そんな彼女の姿を目に収め、今度は、横に並ぶ二人の幸せを一心に祈った。


「フェリーネ、お腹が減ったー」

「私も減ったわ。朝食にしましょう」


 いつものチュニックに、腰に巻くエプロンを付けて、調理場へ。


 がっしりとしたライ麦の黒パンを、食べやすい大きさにきり、ふんわりと焼かれた卵焼きには程よい焦げ目がついた。


 中には、とろりとしたチーズが入っている。


 そんな朝食を、ミリアは見つめている。


「付け合わせがないわ、お姉ちゃん。一緒にプチトマトを取りにいきましょう」


「プチトマトか……、いいわね」


 フェリーネは貴族の方々が患者だった場合に備え、午前中には礼儀作法など、一通りの勉強を行っている。


 そして午後には、聖女の助手としての仕事をしている。


 フェリーネが相手ができない時間には、ちっちゃなミリアは、メイドの修行のために修道女たちの所へ行き、常日頃の家事や掃除、畑仕事まで。


 どちらかと言う彼女たちに面倒を見て貰っている状態だが、運が良い事にみないい人ばかりの様で、王都で厳しい暮らしを強いられる、獣人のミリアにもいろいろ教えてくれていた。


 野菜を貰ったり、おすそ分けを貰ったり。


 ◇◇


「おはようございます! プチトマト貰っていいですか?」


 修道院の北側の場所へフェリーネはあまり行く事ない。

 だから、元気の声のミリアの後をついて歩く。


 しかし、ミリアは大きな声で、そこにいた彼女たちに声をかけたと思ったら、彼女たちの居る畑を目掛けて、ビューンという勢いで走って行く。


 フェリーネはその後をベールが飛ばない様に、息苦しくならないようにと注意しながら、顔を抑えて追いかける。


「「おはようございます」」


「あら、フェリーネ様まで……、すみません野菜が足りませでしたか?」

「美味しいので、ついつい食べ過ぎてしまって」

「栄養にもいいのよ。お姉ちゃんはすぐある物ですますんだから、困るわー」


 ミリアは頬に手を当て、そう話す。

 修道院で働く誰かの真似だろうけど、思わぬ自由さベールの下のでフェリーネは目を白黒させてしまっていた。


「そうかしら? そうではあるのだけれど……」

「ほほほ、フェリーネ様は変わりませんね」

 そう祖母が存命中は親しく様子を見てくれた、修道女の彼女が、朗らかな笑い声をだす。


 彼らは修道院内では普段ベールを取る事が多い。禁じられているフェリーネとは違って。


 プチトマトを四つほど取らせてもらい、棘がチクっと刺さって、それにさえフェリーネは少し感心する。


 ――血は出なかったけれど、野菜も自分の事を守っているのかしら? 不思議な感じ……。


「またねぇー」

「フェリーネ様、また、いつでもこっそりと来てくださいね」

「ふふふ、はい。ありがとうございました」


 ミリアが居てくれる事、修道院で明るく元気に頑張ってくれている事で、また、以前の様に話ができた。


 持って帰って来た、ザルに入ったプチトマトを洗うミリアを見ながらそう考える。ナイフとフォークは2人分。


 二人は料理ののったテーブルの前に向い合い座ると、手を膝に乗せててしばし食事にありつける事の喜びについて考えた。


「「いただきます」」


 フェリーネはまずパンをちぎり、ゆっくりと噛み締めていく。

 そして、プチトマトにフォークを刺して、口に入れるとぶしゃっとした水気と、トマト独特な味わいが口の中で広がって行く――。


「お姉ちゃん、カリオスって人と行っちゃうの?」

「ミリア!? ……もしかして手紙を読みましたか?」


「あ……の……」

 彼女はどぎまぎとした表情をしてから、うなずいた。


「大丈夫。行っても、貴女を置いて行かないわ。けれど、どっちにしてもミリアが生きるすべを身に付けてから、一度はここから出て自由な世界を体験すべきだと思うけどね」


 そう言うと、ミリアの猫の様な、金色の瞳が複雑な色を浮かべる。


 フェリーネの事、修道院の事、自由について考えてくれるといいな。そういう気持ちが、聖女の中に淡く浮かんで消えていく。


「だめ! 今行こう、お姉ちゃん!」

「待って、待って、ミリア!? 貴女は外の世界へ出るってどういう事かわかっているの?」


 立ち上がり、こちらへと頭をぶつけてくるような勢い。


 そのちっちゃな肩に片手を置き、彼女は獣人の女の子に話しかける。


 北に住む獣人はこの街ではすでに珍しいものではないが、それ故に新参者として目につくようになった。彼らの事を厄介と思う人間もでてきた。


 そして獣人たち自身は裕福層まで辿りついた獣人はまれで、日々の暮らしが精いっぱい。


 そして何かの理由でこの国へやって来たミリアの両親は、彼女を残して帰らぬ人となった時、彼女は道に座り込むだけの生活を送るしかなかった。


 もし、彼女との出会いが数日遅れれば、フェリーネとミリアは出会えず、こんな穏やかな生活は決して送れなかった。


 だからこそ、今、彼女をこの安全な修道院からつれていく事を考えると、どうしてもフェリーネの心が重くなる。


「わかっている。何にもしてないお姉ちゃんが怒られなくなる」


 そう言ったミリアの表情は硬く、決心さえ感じられてしまう。


「ミリア……」


 ――貴女は子どもだから……。


 フェリーネの心に浮かんだ気持ちを、ミリアには言えなかった。


 彼女の今まで乗り越えた事を思えば、生まれてからの時間で、その心の成熟度は測れない。


 そしてそれはフェリーネの心についても言える事で、このセオラ中央教会という、侯爵家であるイクリオン家の血を受けた、二人の女性の作った檻から出た事のない彼女には世界はまだまだ未知の領域だった。


 ――世界はミリアが思っている程、優しいの? 優しくないの? わからない……。


「ミリア……、旅立つ準備だけして、しばらくふたりで考えましょう。外の世界について」


 そしてフェリーネは、初めて等しく考える。


 彼女の知らない外の世界で、二人で生き抜く事について。


 続く









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