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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
1:王都ロスト・ミューにて

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8:カリオス ライストファーからの手紙

 親愛なる聖女フェリーネ セリファスへ


 まず、この手紙を開き、中を確認していただいた事に、感謝申し上げる。


 私の真の名カリオス ライストファー、前王の不義の証とも、落とし子とも呼ばれる存在だ。


 それが導線である様に、私の母がそうされた様に、私も長年亡き父の妻に命を狙われてる。


 その人物は、君の御存じの通りサラテート イクリオン。

 君の継母の叔母であり、君の血がつながらない大おばだ。


 だから、反撃をしようと思う。


 君を使って。


 君の聖女立場を、かすめと取っている継母アークエル、腹違いの妹セイラの存在を突破口にして、サラテートを亡き王の妻の地位から追い落とす。


 すべてはそこから始まるが、その為、女神の現身聖女の力をお借りしたい。


 決行は、三日後、次の新月の晩、就寝時間の鐘が鳴り、寝静まった頃に君たちの住む教会のもっとも奥、壁の崩れた場所で待つ。


 身の安全は保障できない。


 けれど、君は女神の現身、その存在を語る者に鉄槌を!


 その為に、君は来てくれると信じてる。


 カリオス ライストファー


 ◇◇◇


 フェリーネは食事の後に、眠い目を擦り、見た事のあるシーリングワックスの捺された手紙を見た。


 嬉しさから開けた手紙は、波乱の幕開けを予感させるのに十分だった。


 封筒には、見たら焼き捨ててくれと書いてあった。

 その手紙をふたたびしまい、両手で持った。


 初めての手紙だった。

 母方の祖父母は健在だったが、祖母が居た時から手紙は届いてきた事はない。


 カリオスは、()()サラテートを断罪するつもりだ。


 無理に決まっている。王は、王族に入った者の身を、脅かす者を許さない。その悪い前例は、いつかその王の未来の子孫を罰するだろう。


 フェリーネは、暗く、先の見えないような、悪い未来予想に耳を塞いで考え続ける。


 セイラが成人となればフェリーネには予定のない、聖女であるかどうかの正式な審査を教会で受ける事になるだろう。


 その時、無策で、何の準備もせずに、継母やあのサラテートがその日を迎える事はない。


 策略を巡らせ、聖女となったセイラは近い未来、王子と結婚するだろう。


 そこを過ぎてしまえば、イクリオン家の血の結びつきで、サラテートたちの権力は増はず。


 そこで……、セイラより、大きな聖女の力を持つ自身はどうなるだろうと考える。

 できるだけ第三者の立場で、それこそカリオスの立場になって考える。


 聖女である事を求めないのは、フェリーネ自身だから聖女認定されないのは自身のせい。


 けれど、フェリーネはその治癒の力を、思う存分『教会』は使用している。

 日常の中で、その力は『隠蔽』され功績は『搾取』されている。


 それは教会内では問題ない。

 貴族も生まれた順番、性別で家督は誰に行くかは、生を受けた時から決まっている。


 けれども、聖女の王族との結婚ではそれが許されない事ではないかと、彼女は思う。

 神聖な存在の前に立つ、聖女はふたりではなければならない。


 一人の聖女を隠す事は、王族を欺く事、王妃として相応しい人物を選ぶ権利を奪ってしまう事になる。王族からすれば、ゆかいな出来事ではないはず。


 けれど、王室が教会の判断を覆し、前もってセリファスの姉妹の内の姉の治癒の力があるかどうかについて、調べにくるだろうか? そこは疑問が残る。


 そこでわかる事は、王族である第一王位継承者であるセルジオス バルセオ殿下とセイラの婚姻の約束なされば、隠蔽を謀る教会側と、更なる力を持ったサラテート、彼女とカリオスは対峙しなければならなくなる。


 そしてフェリーネには、今まで以上に隠された暮らしがまっているだろう。侍女としてセイラについて行く事はない。セイラは王妃として守られ、今までの様に教会の治療をする事がないのだから。


 なら、王妃としての存在を脅かす、もう一人の聖女を彼女の目に付く場所に置いておく必要なんてない。


 もちろん、フェリーネだけが多勢を相手に、治療をする能力をひけらかす事になる教会で働く事もない。


 黒いインクで、塗りつぶされる様な未来だけみが、今のフェリーネには見えるようだ。耳をふさいでた手をそのままに、目を閉じる。手の中の血潮がより一層、ゴー……っとより大きな音で聞こえ、それは彼女さえ飲み込むに音を響かせる。


 どれだけ時間が経っただろうか……。


 フェリーネはふたたび目を開けて、明日の準備を済ませるために、椅子から立ち上がる。机の上を撫でるように歩くと、今は一つ空いた椅子の上に不揃いに本が積み重なっていた。


 ――治療にかまけて、こんな所に……。


 彼女はそれを手に取り、せめて乱雑さだけでも思い、机の上でトンと置き揃えておく。そしてキョロキョロとまわりを見渡すが、置くべきところが見当たらない。


「やっぱりだめね」

 家事というものにいまいちセンスのない、フェリーネはぽつんと呟き、明日ミリアと相談して場所を決めようと机の上に置いておく。


 ◇◇


 手紙とランプを持って、階段をギィーギィーと軋ませ、二階に上がる。

 後で確認できる様、枕の下に手紙を入れて、鞄の中にベールを補充をする。


 椅子に置かれたメイド服とエプロンを眺めて、うんうんとうなずき、いつの間にか二つのベットに横向き寝てるミリアを眺めて、少しだけ眉間に皺を寄らせた。


 それはいつもと変わらない風景で、サラテートを断罪するなんて、夢で見た話しの様に思えた。


 けれど彼女は、椅子の上にランプを置く。


 引き出しの一番上にある、古着を集めて入れていたそこから、持っている中で、一番丈夫で、一番大きな布。お古の修道着を何着か取り出した。


「これなら……」


 ――丈夫な鞄を、作る事もできるはず。

 そして彼女は何枚かのそれを手に持って、もう一度一階へと戻り始める。


 裁縫箱と修道着を机の上と、椅子に置く。


 ――先程より片付いてないのは気にしない。

 そう思いつつ、彼女は顔を背けた。


 しかしそこにも本の山。


 苦笑するしかない光景の中、懐かしい本を見つけた。

 片付けなければいけない。けれど彼女はその本を手に取っていた。


 この国、セオラ・ノーブルの貴族たちについて書かれた教科書。挿絵がつけられ、様々な領地の特産物や景色が子どもにも興味がもてるよういろいろなページを飾っている。


 子どもの頃、それをただ眺めるのが好きだった


 ページをめくり、この教科書に紹介されている最後の領地。


 最北部にある、母の故郷の広大なローリエの領地、自然溢れる景色と、爪に血を滴らせたような魔物の挿絵。


 ――この絵、怖ったな……。


 今、祖父母が暮らす城は、とても可愛く見えて、いつか聖女として行って見ようと思っていた。


 結局、ローリエには行く事が出来たけれど、お城へ行く事はなかった。


 そしてこの教科書が出てから十年と少し、ローリエの地は切り分けられる事となる。


 去年、魔物の大規模な討伐の際に、利益を得ようと、安全を確保しようと、前線基地から少しだけ離れは場所に、小さな村が出来ていった。


 そこを守らされたのがカリオス、国を守るというより時間稼ぎのためような小さな領地を、今、彼が治め、彼は辺境伯となっている。


 長期間かかった魔物討伐。

 その間、基地の中で守られ、隔離されていたフェリーネは、彼の事をよく知らない。


 そして、サラテートの敵にはまわりたくない。

 守るべきものもある。


 ただ、ペラペラのめくる思い出の本の中に葛藤があった。

 それも。人生をかけたものになるかもしれない。


 その時、教会の鐘はなり、消灯の時間を知らせている。

 窓を眺めれば、空には猫の爪の様な月が浮かんでいる。


 ――ミリアは、ちゃんと自分のベッドに戻ったかしら?


 振り返るとやはり、先程よりキッチンは乱雑なままで、苦笑いを浮かべつつ。少々整える。


 そして彼女はランプを持って、二人の寝室へと向かう……。


 並ぶベッドを見れば……、ミリアがちゃんとベッドに戻り、小さく寝息を立てている。


 世の中は上手くいかない事ばかり、小さなミリアの頭を撫でれば、さらさらとした髪と柔らかな耳の毛がここちいい。


 セイラが成人するまで、二年ある。

 それまでにミリアをここから旅立たせなければ、この子だけでも広い世界のだけで、自分の居場所を選んで欲しい。


 そう思って来たけれど、彼の手紙は吉報なのか、死を運ぶ手紙なのか、それは未来にならなければわからない。


 そしてフェリーネはランプを吹き消し、部屋は暗闇に染まったのだった。


 続く

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