81:帰路へつくセルジオス殿下
食卓のテーブルの前に座り、マーク団長は書類の山を眺めている。
そしてこの話は、セルジオス殿下がお気にいりのレストランで、一日中居座り続け、会議までやってしまった日から一日前へ、時間は遡る予定。
……まぁ、あそこは美味しいからいいんだが……。
何か買って帰らなければ、食べ盛りの子どもに食べさせてない親の気分を味わわされる。
では、他の誰かがお土産を。
そう思っているが、身分的にはもちろんセルジオス殿下が一番上なのだが、殿下は財布を持ってない。
やって来た王都の騎士側にも経理担当はいるにはいるが、見通しってものがある。
そして辺境の地で、後払いは普通に店側が食いつなげず、死人がレベルなので使えない。
あのレストランの経営者カリオスだが、前例作ると……と言って揉める見通しで、お先真っ暗なことになるだろう。
せめてと言ってしまうと、公共機関であるうちの騎士の経理に頼めばってことになる。
そうするとうちの資金がどこから出ているかと言うと、ほぼローリエ、ライストファーは兵舎の資金を出してい時点で、『良くやっている』レベル。
ここでライストファーと税金についてこじらせ、カリオスに撤退されでもしたら、報酬を払って結界をはりに来てもらうって話になってくるので、この地の税金のある程度の免除は仕方ない。
話はそれたが、ローリエにある王国北部辺境騎士団は近くの領地からの税金でほぼ賄われている。
その騎士団の武器補充など資金から、騎士のお土産が賄われる。そういうおかしなはなしになってくる。
実際それをやったら、戦闘にて死人がでる。
では、王都側との交渉をスムーズに交渉せよ。そう命が出されてはどうかというと――。
まだまだ不安定な北部と、安定性のある王都とでは、税金管轄、管理の仕方も違うだろうし、国の領地を越えての交渉で正直きつい。
それを問答無用で行えば、雇用的に首が飛びそうであるし、こちらの文明レベルは、運良く紙媒体で記録を保持できる程度で、王都請求はスムーズには難しいだろう。
◇
だが、私は強い決意で、シラフサ辺境騎士団と、王都の騎士団の土産は買わない事にしてる
というわけで、日は一日遡る。言ったか? 言ったな……、あぁ……何回も言うのもいいものだ。
◇
フェリーネの継母である、アークエル。
もちろん彼女の取り調べも行われた。
ずっと怒りと、しゃべりに明け暮れいた彼女だが、セルジオス殿下が前へ出るとずいぶん物分かりがよくなった。
誘拐事件については、アークエルが主導で考えたらしい。
そしてその供述の合間に、サラテートへの怒りをずいぶんぶちまけていた。
理想が壊れれば、そこへの努力も馬鹿みたい思える。そんな風に自分の損失を、彼女は死んだサラテートにぶつけていた。
それは少しわかる。一族の薔薇が、ただ一人、それも一族とかけ離れていた者を見ていたんだ。それを知った時の無力感や、お門違い憧れは、全てサラテートへの攻撃に転じたのだろう。
アークエル自身にも、彼女の身近に見るべき者があっただろうに、そこにも手が届く事はないかもしれない。
「凄い自己顕示欲ですね。貴族の女って怖ぇな……」
そんな彼女を見て、部下はそう言った。
そうだろうか?
セルジオス殿下は優しく、朗らかに、全て聞いていた。
……そうだろうか?
彼は時々、こちらを見て我々の顔を伺う。
あれは俺たちの顔を見て、事の重大さを測っている顔だ。
彼は話すだけ話し、そして相手に話させ、内容を咀嚼せず、満足した人間の支持をえる。
そういう手段が得意のようだ。
二人取り調べは、そんな機械的な作業に見えるのだが、気のせいだろうか?
そしてアークエルは地位の高い人物に耳を傾けて貰い、満足している人間のように見える。だからこの会話は成立している。
ただ、こうも思う。
アークエルは今まであやって、人から耳を傾けて貰った事ないのではないかと?
皆、彼女の生まれた家を見て、そこに咲き誇る大輪の薔薇に目奪われて近づいたものだけに、囲まれ生きて来たのではないかと。
そして結局はイクリオン家の薔薇も、アークエルを、そしてアークエルに目を向けるべき者たちさえも、見ていなかったとしたら?
そんな結果だけがだったら、悲しみと、怒りで自分を守ろうとするのでないか?
そしてそれが彼女の人生だったらと……、捜査という可能性を探す行為の中で、ふと考える。
デカい家の押しつぶされそうな、同じ境遇の男女が出会う。
一人はイクリオン家、そしてもう一人は……セリファス家。
愛を求め、焦燥感に駆られるふたりに、同じ境遇に心触れあえることもあっただろう。そこに、相手に分けあたるだけの愛が、アークエルの中に生まれたのだろうか……?
そして同じ境遇だからこそ、焦燥感が相手を軋ませる音に、別れの時に気づけただろうか?
別れは、別れだっただろうか? 自分を破壊するような、酷い裏切りと考え、壊れてしまってはいないだろうか?
殿下が話しにもう興味がない事に、気付く事のない彼女……。
――良くないなぁ……、とても良くない。
マークは頭の後ろで手を組み、椅子の背をあずけ、体を弓なり状にして、背をのばす。
「ちょと、セルジオス殿下と交代してくる」
「今、調子良く話してるのにですか?」
「未来ある若者には、アレを任すのも忍びなくなった」
あえて、アレとマーク言う。あの姿が、アークエルのすべてであってほしくはないから。
「王子は王の素質がある方です。この程度のできごと気にしないと思いますよ」
「俺が気にするの」
そう言ってマークが二人の机の横に立てば、アークエルはこっちを見た。そしてセルジオスに再び向き直る。
「セルジオス殿下、していないお話がありましたわ」
「それはどんな事かな?」
「辺境の英雄と名高いカリオス様なのですが、今回フェリーネを連れさったできごとは、謀反ではないでしょうか? 聖女は王族に嫁ぐ習わしがございます。それなのに二人は手に手をとってこの地に逃避行なされた。これを謀反と言わずになんと言いましょうか?」
また、その話だった。
フェリーネの祖母のお茶会で、マークがフェリーネのパートナーをつとめたと知る彼女は、マークの嫉妬心や虚栄心に火をつけようと、その話を繰り返す。
「お前にはあのカリオスや、フェリーネが、そんなことをやってのける人間に見えるのか? そんな情緒的な人間に見えるのか……」
そう言いセルジオス殿下は、目を輝かせる。
「で、カリオスはなんと言って、フェリーネを誘ったと思うんだ?」
真面目に顔で言っているつもりかもしれないが、口のはしが笑っている。
「えっ……、ええ……『愛してる。一緒に逃げよう』じゃないかと?」
「そうか、そうか、いいな、それ。今度言わせてみよう!」
「やめてください。あの二人、言わされた事について悩み。フェリーネなんて、セルジオス殿下にどう意味かとすまなそう聞いて来そうですから」
「それはちょっと楽しみだな」
そううきうきした心持ちが、彼の表情に色濃く現れた。
◇
そして帰る前に、実際に実行したようだ。
練習場から剣の稽古を部下につけて帰って見れば。
事務室になっている場所に、二人はいた。
マークは立ち止まり、なぜか息を潜めてしまう。
そして運よく鏡が、その表情を捉えて映し出している。
「俺が?」
考え始め、上むいて、下向て、眉間にしわがよっている。
いつもなら気づく気配に、見落とすほどは真剣なようだ。
「どうだろう? 俺は王都と出る当時、そんな気持ちだったんだろうか?」
「俺にに聞くな」
「そんなつもりはなかったと思うが、そうとられる不手際があれば謝るが、連れ去っている手前……、罪はおかしてないと言えないし、好意を抱いていないとは言いがたいからなぁ……」
そう、私は聞かなくて良かった事を聞かされているわけで……。
「そんなに顔を知らない相手に、そこまで本気にならないだろうから、真面目にあやまるな」
そうセルジオス殿下も期待外れの、真剣さで彼は答えていた。
そしてこれ以上聞くべきではないと判断し、再び部屋をでたが……。
「やぁ……面白いものを見た。あいつも人の子だったようだ」
そう報連相を欠かさない殿下から、報告をいただいた。
そんな報告をしていただかなくてもや、カリオスは、セルジオス殿下に近いもっとも近い血筋の方ですよ。というか、由緒正しい血統の方でしょう?
そう思わなくもなく、やはり貴族や王族はいまいちわからない……。
そしてセルジオス殿下は、「九月に王都にて、カリオスと、フェリーネの結婚式をしょうと思ている」と言い捨てて、境界線の監視基地へつながる道を帰っていった。
ミリアが、「わぁーお姉ちゃんおめでとう」
そう言うまで、良識ある大人は微動だにできなかったのだった。
続く




