80:事件の終わりに
フェリーネは数日、もと居た部屋で休んでいたが、セルジオス殿下の王都帰還の時期近付いた事から会議へ呼び出されることになった。
フェリーネの暮らす部屋からフェリーネと、ミリアの話し声がする。
「お姉ちゃんがそう決めたなら、それでいいよ。私はお姉ちゃんと一緒にいられればいいんだから」
「ありがとう、優しいね。ミリアは」
そう言い、ミリアの頭を撫でる。ここに来て彼女の毛並みも良くなって、猫の御耳がふさふさ、ふわふわだった。
「行きましょう。セルジオス殿下がお呼びです」
そこへ扉を開けて、オリビアが現れた。
◇◇
「いらっしゃいませー」
今日もレストランでは、ふんわりと落ち着くような空気がながれ、マルルが明るい笑顔で出迎えてくれる。
「よく来てくれた」
様々工芸品がさりげなく置かれたレストラン。
その中心に置かれた、城で使われているダイニングテーブルで出迎えてくれたのはセルジオス殿下と、マーク団長、そしてセイラと、その騎士になってしまったジェームスだった。
もうすでにこのメンバーと、フェリーネと、オリビアは朝食の時会っていたので、「お待たせしました」と頭をさげて頭をさげたのみだった。
「あらフェリーネ、セルジオス殿下は朝からいるのよ」
「まぁ……、ずっと食べていたのですか?」
しかしセルジオス殿下の、胃の辺りには幸運ながらもやは出ていないようだ。
「フェリーネ違うから、俺はここでずっと食事をしていたわけではない。料理の手順、どんな材料を使っているのかについて聞いてただけだ」
そうセルジオス殿下は難しい顔をする。
子どもの頃の懐かしい思い出の中に、カリオスのご両親や、カリオスとの記憶もあって、それを味とともに思い出す。
食べる事で、幸せを思い出そうとする思いはフェリーネの中にもあった。
けれど王族となるとやることが、大かがりなようだ。
「でも、主人は視覚、味覚、嗅覚で頼りな作り方なのよね……」
「分量を同じにしても、似てるがどこか違うのようだ……」
そう、少し困った顔でふたりは笑った。
その時、カラーン、コロンと外とつながる扉からカリオスが入って来た。
彼は「水を頼む」とだけマルルさんに伝えて、フェリーネの隣の空いてる席へと座る。
「さすがだな……カリオス、オーナーの余裕か?」
そう言う殿下を見つめて「いえ、水が飲みたかったので……」そうカリオスはあっさり答えた。
そしてマーク団長と、ジェームスによって全ての鍵は閉められた。
「これで全員集まったようだ。連絡した通り俺は明日帰る。
それで俺の方針を発表する。今回、イクリオン家は侯爵の称号に降格となった。
サラテートは修道院へ入るという理由で、除籍を申し出ていた。
アークエルにおいては、セリファス家の者となっていたが、イクリオン家の当主自らそう提案して来たので、父もそれを受けいらたらしい」
「では、セリファス家の当主である、父はどうなるんですか?」
セイラが顔を上げて聞く。やはり顔色が悪い。
「結果だけ言えば、管理不十分で今の職から左遷となり、騎士団の雑務をこなす仕事を任される。そしてセイラ、君の処遇の話より先に、新たに正式に聖女と任命されたフェリーネの話をする事にするよ」
フェリーネに驚き、セルジオス殿下に問い掛ける。
「もう、正式に聖女として任命されたのですか? 王よりの任命も無しにですか?」
「無しにだ。大々的な報道はもうしてある。そして後から今回の事件について、話が漏れたことになっている」
――ことになっている……。
「その庶民に広まった噂を、後追いであるが報道各社がスクープとして発表し、王都はその噂でもちきりらしい。みんな好きだからね、噂。
それで内容はというと、今回はわかりやすさをメインに、あらすじを書いる。
まず、カリオスの件、ここを掘り起こせば、王族の権威が傷つく。だからこの話しは、出汁程度におさめた。
それは聖女も同じくだが、なら話しを分かりやすくすればいい。
灰かぶり姫、白雪姫、似た話は多くある。そう言うストーリーで噂を流した。
継母が、真実の聖女を迫害した。
そして悪いがその配役の一人に、ミリアの代わりにセイラを置いた。迫害される姉を助ける妹セイラ、姉を逃がした後、おちあい共に逃げたと。
半分は事実だ。座り心地良く収まる。
偶然か、必然かその場には辺境騎士と、もちろうん剣聖と言われるカリオスがいる。
そこへ母アークエルと、社交界の薔薇サラテートがあらわれ、そしてサラテートは死んだ。
しばらくすると聖女フェリーネと剣聖カリオスが、婚約を発表し、式を挙げる。
それだけであればいい。いや、出来過ぎている感はあるが……、民衆は真実を必要としてないからね」
歌劇のストーリーを語る様に、セルジオス殿下は語っている。
場を収める為には仕方がないけれど、真実は闇の中ということに釈然としない。
「ああ、いいだろう。こちらに危険が及ばなければ、それでいい」
「あの……マルティーさんを刺した人物については、いいんですか?」
「たぶん殺し屋のたぐいだろう。下手に探しては、顔を見たセイラもただじゃすまなくなる」
「冗談じゃないわ!? なら、私は一生不安なままなの?」
「いいよ。探そうか?」
そう言ったセルジオス殿下の顔を見て、セイラは黙った。
「お嬢ちゃんなぁ……」
ジェームスという騎士は顔をおおっている。
「あの何度申し訳ありません。セオラ中央教会の管理者だった、私に何かおとがめはあるのでしょうか?」
「フェリーネには、こちらからの希望はあるがそれは別の事だ。
未成年で、権限のなかった君を咎めることはないよ。
問題は、聖女の為の教会は我々にとって、便利に作られ過ぎたという事だ。
だから、問題を正常化する機能が無かったに等しい。
これを言えるのは、教会にも内緒の会議だからだけどね。
まぁ、王族も同罪だから問題はないよね」
そう殿下はいうが、公に近いこの話し合いで、批判どころか、批判と取られる態度も控えなければと、戦々恐々だった。
「そんな怖い顔しなくても、わかってるてば」
そんな時に限って、セイラがジェームスにそう言っていて、フェリーネは冷や汗が止まらなかった。
ジェームスにおいては、何にも言わず、テーブルにひれ伏してしまった。
「セイラわかってくれて嬉しいよ。そしてフェリーネ」
「はい」
そこでセルジオス殿下に声をかけられたフェリーネは、緊張の面持ちだった。喉がやけに渇き、用意されたアイスティーを飲みたかったが、こらえる。
「君には、聖女として帰還を望む」
「要望なら……、遠慮させてください」
「要望と言ったが、そこをなんとか! 聖女ロトリアなき後、君という聖女を王都の者に見せてやりたい。それに少なからず聖女の家系の問題は、聖女の沽券にかかわる」
「王都には、セイラが参ります」
「しかし彼女は……」
やはり、セルジオス殿下は事が収まるのを待ちたいようだ。
フェリーネを前面に打ち出せば、悲劇を乗り越えた聖女と人々は良いだけを見てくれるだろう。
「ええ、私の受けるべき名誉をかすめ取りました。秘密であるとしても、これは許され事ではありません。そしてそれは私と、ミリアにしたことも同様です」
「だが、未成年だ」
皆の前で、ジェームスがつい言ってしまった。そう言う表情をする。
今度はセイラがあきれる番だ。
「同情?」
「いや……」
「微笑ましい光景ですが、セイラは聖女です。ジェームス様は、私の考えに不服なのですか?」
「いえ、不服ではないです。
セイラ様は要領が悪い。フェリーネ様の言うことは、どれも正しい。
ただ……、弁護する奴がいなきゃ……、こいつがかわいそうでしょう。
まだ、未成年で子どもなんです。そして貴女も子どもなんですよね……。
俺は貴女にこの態度どは凄くすまないと思う。
でも、俺の前で、セイラ様にはいつでも味方がいない……。
そこで報いという言葉は使いたくないんですよ……。使ってますが……」
本当に彼はしょんぼりして話す。
フェリーネの口角が思わず上がってしまう。
「殿下、お聞きなりましたか?」
「ああ、聞いたとも。でどうする?」
フェリーネがそういえば、セルジオス殿下はすぐに調子を合わせてくる。殿下にはとても感心する。
「私は、セイラが半端な癒しの力で、聖女と名乗った事が許せません!」
「だから!」
「「聞け! ジェームス!」」
今度は殿下と、マークから声が飛んでくる。
「なので、私が聖女ロトリア様に、教わったように、私の力を授けたいと思います。その聖女が道を間違えないよう。ジェームスともう一人、女性をセイラにつけていただけないでしょうか?……」
「同情のつもりなの!?」
セイラが机を叩く。水がこぼれ冷たい滴が頬にかかった。
「わからないわ。けれども、聖女は人を治療するものなの。その最善を尽くす事は決しておかしな考えではないわ。それに、貴女をカリオスに殺させないで……」
「どういう事なの?!」
「力のあるものが闇に落ちれば、それを正す者が現れる。それだだわ。セルジオス殿下いかがでしょうか?」
「君と、カリオスがいいならいいよ。ジェームスには拒否権はない。誰も他にやれるものはいないだろうからね」
「カリオス」
そう言うと彼は腕をくみ、うなずいた。
「では、お願いいたします」
そうフェリーネは声にだし宣言をした。
「さすが、フェリーネ」
そう言った後、セルジオス殿下はクックックッと笑った。
フェリーネは不思議そうな顔をしたが、カリオスと、騎士たちはばつの悪そうな顔をする。
「では、会議はここまで、今日は俺はここか、騎士の家に居るから話したい事があったら今日の内にな」
「はい、ありがとうございます」
そうフェリーネが言った時には、殿下はメニューを開けて「明日のお弁当について決めよか!」と言っていたが、「この時期はお弁当は受け付けていないんです」と言われていた。
続く




