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辺境へ追いやられた落とし子が、隠された聖女を迎えに来た  作者: もち雪
4:目的のためにさまよう聖女

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79:審判の夜道

 三日月が雲へと隠れる。

 聖女の審判はなんとか終わりを迎え、川のせせらぎを聞きつつ、宿屋の道をミリアとマルティーと歩いていた。


 川から涼し気な風が流れて来て、夏の暑さを少しだけ忘れさせてくれる。


 その時、川沿いの木が少し揺れ、闇が動いた。


「お姉ちゃん!?」

「ヴぅグゥ!?」


 マルティ―の声、彼は不意に襲われようで、腕を押さえている。

 騒ぎで、鳴いていた虫やカエルの声が、一斉に静まりかえった。


 しかしその犯人の一人はそれだけの傷を負わすと「頑張れよ」とだけ言って、すぐに隠してあった馬を使って逃げてしまった。


 暗闇の中で、意味不明な行為に混乱する。


「ミリア! 騎士団を呼んで来てくれ、それにもう一人の聖女も!」

「ミリア早く!!」


 マルティーと、フェリーネはミリアを助けようと必死に叫ぶ。


「お姉ちゃん、死なないで……」

 そう言うと、ミリアはもと来た道を走って行っていく。


「では、俺たちも逃げたいのですが、……フェリーネ様、次は貴女の番です。逃げてください」


 フェリーネの前には、もやがひろがり朧気おぼえろげも確認できない人が居る。


 そしその人物の持っているものが、星明かりでキラッと光る。


 刃先の様で、逃げる際に振り向き隙をつくったら、それが背中に向かいそうで、迂闊に動くことはできない。


 睨み合う二人、そのフェリーネの前にマルティーが傷を押さえながら立った時、その向こうから、耳を疑う人物の声が聞こえて来る。


「あら、貴女は逃げないのね?」

「サラテート様……!? なぜ、ここに……?」


「こんばんわ フェリーネ。もちろんカリオスへの復讐だわ」


 そう言っている間に、マルティーが傷を押さえ、「ヴゥ……ッ」と声を絞り出すようにして、地べたへ沈み込んでいく。


 ――そんな……。


 苦し気な声が、フェリーネのまわりに渦巻いていた。


 フェリーネはマルティーの体が崩れ落ちない様に、ゆっくり支えおろすのが背一杯の状態で、サラテートの様子を探る事まではできない。


「フェリーネ、婚約おめでとう。


 貴女は良くやってくれたわ。期待以上よ。


 私、私から愛する人を奪った原因のあの子が、一番幸せの絶頂にいる時に、一番好きな相手を奪おうと思っていたの」


 その声は、息が絶えだえで、逃げようと思えば逃げられる事を意味していた。


 しかし……。


 次の瞬間、マルティーの体に広がり始める紫色のもや、それに黒も交じり広がっていく。


「毒……、解毒剤はあるのんですか?」


 できるだけ冷静でいるように、心を保とうとしても、手は震え、心臓は胸から飛び出しそうなほど、音を刻みながら動いている。


 そんな状態で、地に完全に沈み込んでしまった、マルティーの治療を始開始する事になった。


 汗が、涙の様に流れて落ちる。


 ――カリオス、助けて……。


 しかし次の瞬間、フェリーネは髪を掴まれ、顔を上に向けられる。

 その時、頬に熱が走った。

「あぁ……」


 彼女の頬は熱いものでも、押し付けらてたかのようで、思わず頬に触れよとしたが……。


 ――毒……。


 心臓が跳ね、頭に鮮烈にその恐怖が浮かぶ。


 むやみに触ってはいけないはず。


 頬に伸ばした手を引っ込め、血さえも、マルティーに触れないように、細心の注意をして治療を続けた。


「あるわけないわ。

 ふふ、貴女にも頬の傷から、猛毒が入ったわ。


 貴女はどうするの? 彼を助ける? 自分を助ける? 


 どっちにしても、私からカリオスへの贈り物。


 どっちをとっても、今後……貴女は、貴女でいられないはずよ。私のようにね。


 一生くだらない事で、悔やみ、棒にふればいい。


 貴女が最後まで善人でいられるか、結果が知りたかったけど、もう駄目だわ……」


 そう言った彼女も、地面へとすぐさま崩れ落ちた。


「フェリーネ様、お願いです。自分の治療をなさってください」


 体の下から声がする、まだなお、紫に覆われたマルティーからだ。


「大丈夫、セイラが来るわ。それに私自身を全て治せるほど、体力が残ると思えない。だからマルティーに任せるの。完璧な作戦でしょう?」

「無謀すぎますって」


 空元気のフェリーネの近くで、うわごとの様な声が聞こえた。


「あの子は木の影で泣くのよ……。何で……私のお腹からじゃないの?……」


 彼女の声は、小さく消えていった……。



 そしてフェリーネは、マルティーを生かす事しかできない。


「もういいです」

 彼が、彼女の手をとり止める。


 彼女は首を振って答えるようとしたが、彼の上へと崩れこむ。

 その頃、謎の寒さでとても体がキツかったが、マルティーの体温で少しだけましになる。



 その時、ガタゴト、ガタゴトと車輪が地を飛ぶ音が、やって来た方から聞こえて来る。


「ちょっと!? なんなのよ!」

「お姉ちゃぁーん!!」


 ミリアの声と、セイラの罵声と、そしてよくわからに音を聞く。

 しかしフェリーネの視界は、そこで暗転してしまうのだった。



 ◇


 目を覚ますと、宿屋の天井があり、しかしいつもより大きなベッドの上にいた。


 その横には、やつれた顔のカリオスが座って居た。


「治療致しますか? でも、もやは出ていないですね……」

 そう言って起き上がろうとすると、カリオスに肩を押され、おさえこまれる。


「このまましばらく寝ていろ! 妹を呼んで来る!」

 彼は慌てて、扉を開けて出て行く。


 ――妹……、セイラ……。

 凄く寝ぼけていたようで、少しずつ昨日の事が思い出される。


 頬を触れば何もなく、体を見回してももやは見えない。


 ベッドから降りたかったが、毒の場合、立ち上がる事が困難という事はなかったと思うが、そのまま横になっていた。


 ここはカリオスの部屋かもしれない。そう思い、見回せば、お城で飾られそうな、大きな肖像が右側の壁に飾られている。


 顔立ちが、カリオスが五つほど歳を重ねた顔に思えた。

 目が、特にカリオスに似ている。


「何で……私のお腹からじゃないの?……」


 憎い恋敵の子どもが、年々、愛する人顔に似てきたら、人はなんて思うのだろ? 想像したくもない……。


 彼女は、柔らかシーツを掴み握りしめる。


 トントン――。

 開いていた扉から顔を覗かせたのは、グリムだった。


「こんばんは、お加減はいかがですか?」

「えぇ、おかげさまですっかり良くなりました。治療はセイラが?」

「はい、セイラ様は毎日、魔力がたまれば、治療を行っておいででした」


 彼は話しながら、彼は折り畳みの机の様なもの組み立て、その上にスープの様なものを置く。


「毎日……?」


「はい、一時は命が危ぶまれる時もありましたが、三日目の今日、治療が全て終わって、もう目を覚まされるなんて……カシオペア様に皆様の願いが通じたのでしょう」


「そう……なんですか……。いろいろ、ありがとうございます。すっかりお世話になってしまいました」


 そしてグリムは、食事の用意の最後にさじを手に取り「では、僭越ながら……」と言いスープをすくった。


「えっと……」

 そう言いフェリーネは戸惑ってはいたが、彼女は観念して食べさせて貰う。


「パンですか?」

「はい、パンがゆです」

「えっと……、では、カリオスはどちらに?」


「セイラ様を起されたのですが、見てもわからないと言われ、薬草に詳しいものの所へ走って行かれました」


 フェリーネは開けていた口閉じる。


「夜に、危なくないでしょうか?」


「危ないでしょうな。邪魔したら、問答無用で切られてしまいそうでさえありました」


「……本当に……、あの落ち着いているカリオスが……?」

「はい、カリオス様だからこそですし、フェリーネ様だからこそでございます」


「そうですか……」


 胸の奥が温かく感じるのは、スープを飲んでいるからだけじゃない。


「……お姉ちゃん?」

「ミリア!?」


 ミリアと、「オリビア! あのこれは、さっきまで寝ていたの、だから、飲ませて貰っているのであって……」そう慌てていると、ミリアはこっちへやって来て、フェリーネ様の上にある折り畳みの机をじっと見つめた。


「抱きつけないわ……」

「まだ安静ですし」


 そう、グリムに言われてぐぬぬとなっている。


「すまなかった! 私はまず聖女の警備をするべきだった。それを怠ったばっかりに……」

 オリビアは、フェリーネより憔悴しているようだ。


「そんな事ないわ。正直、あそこでオリビアが居たら、あそこまで、きれいにサラテート望み通り事が運ぶはずなかったわ」


「なら、やはり私が居れば防げた事件だったのだな」

 オリビアは大粒の涙を流す。


「いえ、こんな事は言ってはなんなのだけど、騎士であるオリビアが居れば、あの状況だと一撃で必殺な不意打ちを使われるか、こちらも応戦するだろうから。ミリアも含め乱戦になって、助かる見込みがなかったかもしれないわ」


 オリビアは驚きの表情をするが、真実であってもそれは認められないようだ。


 騎士は命をはって人を助ける。そうあろうと努めるオリビアは、今回の様な暗殺と相性が悪いのかもしれない。


 暗殺では、卑怯は不名誉な事ではないから。


「フェリーネも、マルティーと同じ事を言うのだな」


「それは仕方ないと思う。実際体験してしまうと、あれは暗殺に近いもので、名誉を誰も尊ばない状況だったから……」


「そういう場合どうすればいいのかな?」


 そうミリアは言うと、グリムさんにさじを指さした後、自分がやると、自身を何度も指さす。


「くれぐれもお気お付けください」


 そして……さじはミリアに手渡される。

 なんか、凄ーく恥ずかしい。


「暗い夜道を歩かないかしら?」


「あーん」

「あーん」


「そっかー、でも私、暗がりも結構見えるに気づかなったの……」

 そうミリアは、さじをを振って悔しがる。


「そういう訓練もしているかも。獣人の多い北部だし」

「そっかー」


 そう残念そうに言う、ミリア。


「しかし、今回は何をやっても無理でしょうな。公爵家が雇ったのです。そしてもう、スープが無くなったので、食事はここまで、おふたりともフェリーネ様には安静にして貰いましょうか」

 そうグリムが言って、ふたりを連れて出ていた。


 しかしフェリーネは、ズボンの生地を掴んで座っていた。


 ――ここは、カリオスのベッドだったら、ちょっと寝られないかもしれない。

 そう顔を赤くして……。


 しかし、疲れなどの体調の変化を感じ取り、『今は病人だから寝るしかないか』と、聖女フェリーネとしての倫理観が働き、眠りについた。


 ◇


 そして扉は突然、ゆっくり開く。

「フェリーネ……、すまない。こっちだ」


 彼は蝋燭の小さな明かりを持って現れた。隣には薬草に詳しい老婆が一緒にいる。


「どうだ?」

 カリオスは心配そうに言うと、目の前にフェリーネはすやすや眠って寝返りをうった。


「ぐっすり寝ている……」

「さっきまで、起きていたらしいんだが」

「頬の血行は良さそうだが……」

「だが?」

 カリオスは、心配そうに老婆を眺めた。


「起きて話してみんと、何にもわからん」

「あぁ……、そうだな。今日はもう遅い部屋を用意するから泊って行ってくれ……」


「ああ、ありがとうね……」

 そう言い老婆は若い領主を見ている。

 カリオスは心配そうに、フェリーネを見ていた。そんな彼の手を取り。


「もう顔色も良くなったんだ。婚約者だからといって、若い女性の眠る部屋にいつまでもいない。明日、カリオス様の方が心配されないように、寝てください」


 そして彼女に手を引かれて、彼は部屋を出て行った。


 続く





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