79:毒をあおる者たち
「では、質問なのですが……、フェリーネが問題としていること。聖女が審判を受けた際に、その癒しの力を大きさを偽った時、教会はどう、その聖女を判断するのですか?」
シオン卿の言葉に、少しだけ頭が痛いと言うように、ヴァーゴは説明を始める。
「審判は、女神の御前で行われます。
その場で偽りは許されません……。我々教会側のつながりおいても、それは許される事ではありませんが……。
王室との関わりおいても……力を偽れば、多くの騎士の命が戦場に散るきっかけではなく、見殺しする殺人行為です。
決して許されることではありません……」
そうヴァーゴは問いに答えた。これで教会側の立場も、仲たがいのの仲裁だけでは済まされない。
「そうなのですか……。では、改めてお聞きします。フェリーネ様、セイラ様、そしてお二人と共にある方々、私の考えた審判をお受けになりますか? この毒を飲み下すだけなのですが……」
シオンが差し出した合わせた両手には、赤色の液体が入れられた小瓶が二本のっていた。
「呆れた……」
「よく、殿下の居る場所に持ち込めたな……」
そう呆れた声がマーク団長を始め、騎士団側からも聞こえだす。
「毒は薬にもなりますから……、そして今このように審判にも」
「シオン卿、呆れてものが言えません。私たちは聖女なのですよ。自身の為に毒を煽れと、私たちに言わせる気ですか?」
フェリーネはやれやれから、徐々に説教に近い言い方になっていく。
「私は……」
そうセイラが言いかけた時、シオンの手に逞しい腕がのび、蓋を開ける。
なんと、カリオスが毒を飲みくだした。
「カリオス……なぜ飲んでしまうのですか?」
彼の黒い騎士服の胸元をぐしゃぐしゃに掴み、フェリーネは吠えていた。
「さぁ、さっさと横になってください!」
そうフェリーネが言っている隣で、シオンが一歩、また一歩とアークエルへ近づく。
その近くで、治療によって「ヴぅ……アァ……」と声をあげるカリオスの声が聞こえていて、森のざわめきとともに、不気味さが増していく。
シオンのその姿は契約を迫る、悪魔の様にも見えたが、誰も止める者はいない。
アークエルが震える手で、それを取ったとき――。
「これで二人に毒は行き渡りましてございます。オリビア」
そう言って、彼の騎士を呼び寄せる。
そして彼女もポケットからだした、白い布に包まれた、何かを持っていた。
それを見て何人かは、解毒剤と思ったのか、安堵の息をもらしたが、それは大きなオパールの様な石だった。
「私どもハークエル家は名家ですので、聖女が輿入れに来たこともございます。その方は癒しの力は微量でしたが、魔法石を使い、その力を溜め込み、増大させていたようです。その癒しの魔法石を探す際、反応させて探し当てる魔法石がこれでございます」
「あぁ……」
治療を行っていたフェリーネにも、アークエルの悲鳴に近い声は聞こえた。
それと共に、辺りがざわめきだす。
その時、シオンの指示だろう。オリビエがやって来て、白く明るく光る石を治療を行うフェリーネに近づける。
フェリーネのまわりには、癒しの力を使う際に現れる淡い白い光があるだけで、他には何も変化することはなかったが――。
「オリビエ、ごめんなさい。カリオスの体を照らしてくれないかしら? 毒なら少量でも危険でしょうから、光でちゃんと確認したいの」
「フェリーネ、困りますよ。これからセイラの番なのですから……」
「こんな危険なことを、まだやるつもりなのですか? 蛇の毒なら今日一晩は様子を見ないといけないのに……」
治療をしながら、カリオスの体全体の様子を見るなか、落ち着いたカリオスは恥ずかしい向こうを見てしまっている。
「少し様子を見ましょうか」
「ああ……助かったよ」
そう言ったカリオスは、フェリーネが体を預けていい様に、地に尻をつけて隣に座り、座り込んでいたフェリーネを自身の体にもたれさせた。
その間もアークエルは、下に落ちた毒の入った瓶を見つめている。
手は震え、彼女の意志はそれを見ただけで十分わかった。
そこへセイラはやって来れば、アークエルは娘の顔を見つめた。
そこには『仕方ないのよ』そう顔に書いてある。
「お母様もういいわ。シオン様……」
近づくセイラのもとへオリビエが帰ってくれば、石の明るい光と反応するように、セイラのスカートの一部が光り輝いて行く。
それを見てもセイラは様子を変えず、淡々としたものだった。
「ジェームス?!」
だが次の瞬間、セイラが口元を抑え、そう叫んでいた。
ジェームスが、小瓶を開けて飲んでいたのだ。
駆け寄る彼女に、彼は困った顔をして言った。
「なぜ? お嬢ちゃんの言葉はいつも誰にも聞き入れられないんだろうなぁ? だから、いつでも俺がでばるはめになる」
「寝かせなさい!」
フェリーネが叫んでいた。
しかしカリオスが、そんな彼女の手を掴んでいる。
「聖女セイラ、その石を私の所へ」
彼女は慌てて石をポケットから取り出し、放り投げた。
「私の力はほんの少ししかないわ。今までで誰をも騙していたわ。これでいいでしょう? フェリーネを呼んで!」
セイラはそう叫んでいた。その間、彼女の母は「ダメよ! ダメよ! ダメ!」と叫んでいた。
シオンはこちらを向き、うなづくのでフェリーネはとうとう観念した。カリオスが彼女の手を引き連れていく。
寝かされているジェームス、彼の毒はカリオスよりまわってしまっているが、まだ大丈夫。
以前の様に、反対にひざをつけてジェームスを見るセイラ。
「彼の胸元の紫色が、一番酷いわ。ここから治療をしていって」
「なぜ、フェリーネがやらないの?! こんなところで、恨みを返すのはやてよ! 聖女でしょう?」
「早く治療しなさい! 貴女も聖女でしょう? 彼は、貴女の大切な患者でしょう?」
「頼んでない!!」
そう言った彼女は、昔の祖母の死を知った時のフェリーネの様に、閉じ込められてしまったミリアの様に泣いている。
「泣かないで、彼が貴女の助けを待っているわ。貴女を信じているのよ」
「いや、これは俺のお節介、いつも威張ってるんだからやってくれよ。お嬢ちゃん」
ジェームスが口を開き、セイラに話しかける。彼はずいぶんお節介のようだ。そしてセイラを思っている。やはり、フェリーネは全てを受け入れる事はできないが、聖女だからと、自分の黒い部分を無理やり押し込んだ。
「うるさい!! 黙ってなさいよ!」
「あぁ……頼むって。調子悪くてかなわない」
そこから、セイラは落ち着いて、癒しの力を使っていく。
彼の表情が落ち着いて、顔色が良くなって行く頃……。
「もうダメだわ。聖女様、彼をお願い」
そうセイラは言った。
「わかったわ。とてもよく頑張ったわね」
そう祖母はよく言っていた。
そして聖女ロトリアのように、セイラの治療をフェリーネは彼を引き受け、治療していく。
そして紫も黒のもやも見えなくなった頃、シオンがフェリーネの肩に手をかけるので、彼女はシオンを見てうなずいた。
「今日はここまでいたしましょう。明日のことがありますし」
そう言って、フェリーネたちは解散になった
しかしセイラと、アークエルは引き続き監視に置かれるようだ。
「カリオス! 一応飲んでおいてくれ。解毒剤だ」と言ってシオンが小瓶をひとつカリオスに投げて寄越した。
そしてフェリーネが振り向くより素早く、王子の方へと離脱する。
「カリオス、解毒剤飲んでみてください」
呆れ顔のフェリーネはそう言った後、しばらくフェリーネは彼のまわりを回っていたのだった。
続く




