76:三日月の夜の始まり
三日月浮かぶ夜に、ふたりの聖女は辺境騎士団の練習場に集められた。
セルジオス殿下は椅子に座り、そのまわりに辺境の凄みのある、若き屈強な戦士が立ち並ぶ。
「これはどういう事ですか?」
日頃はないだう焚かれた松明、その炎がパチパチと木の割れる音をたてながら燃え辺りを明るくてらしている。
その明かりの中心にセイラと、フェリーネが立つている。足元の幾つもの影をのばして。
そして先ほどの問いは、セイラは発した言葉だった。
彼女もここに集められた理由を知らないのだろう。
けれど、ふたりの聖女の前に立つ、彼らの誰が聖女のふたりをこの場へ呼びつけたのか、それについてフェリーネは薄々わかってはいた。
彼がこの舞台を用意して、まわりの騎士を含め生き証人となるのだろう。
それほどの自信があるのだろう。
――そしてセイラは、どうしてしまったのか? 以前は彼女こそ聖女らしい聖女だったのに。
今では隣にいる騎士が、彼女を落ち着かせようと、必死に話しかけている。
「私が、この場を用意していただきました」
そう言って現れたたのは、やはりシオン卿だった。
彼が進み出れば、彼の足元からも、いくつもの影がのびいく。
「シオン卿……」
「イクリオンの血をも受け継ぎ、白百合の聖女と呼ばれるセイラ様に名前を覚えていただき光栄です」
そう誰よりも豪華絢爛な金糸で刺され刺繍を施された衣服をまとい。
その衣装と長い深紫の髪は、夜の風をはらみなびいている。
そして彼は胸に手をあてて優美に笑う。
まるで、ここが彼の為に用意された舞台の様だ。
「それはもちろん覚えています。ハークエル家といえば、イクリオン家に並ぶ家でしょう? 私の敵として現れたに決まっているわ」
そう腕を組み、背を向けた。
「清楚と噂のセイラ様も、真実はあんな方だなんて……」
「馬鹿、やめろ聞こえるぞ」
――そう注意されてたのは女性の様な顔立ちは、リベルト様……。
フェリーネはやや呆れ顔と、驚き目を見張った半々の顔で見つめてしまった。
「あっ、フェリーネ様ー」
見られたと気付き、彼はこちらに手を振った。
さすがに、今回は鬼聖女とかは、無邪気に何でもは言わないようだ。
それでも気付いていないと思われるといけないので、彼女もこの様な舞台で手を? と思いつつ手を振り返す。
「あはは、デレた」
そう言い、こちちら指をさして笑っていた。
――デレた?
そう考えつつフェリーネが、自身の手を見たら――。
「わぁーーっ?!」
突然、悲鳴があがり、顔を向ければ、脇に二人の腕が入れられリベルトは退場されて行ってしまった。
「大丈夫なのあの人?」
そうセイラが、ジェームスに聞いている。
「彼はボスの様な敵にも『速い敵』『強い敵』『なんかわからないけど凄い敵』という認識だけで、緊張する事がなく突っ込むので、こちらの指揮があがるんですよ」
そう違う方向から声がする。
マーク団長が、セルジオス殿下に彼の事を説明していた。
これでリベルトは王子に覚え、めでたく……。
良かったのだろうか?
「いいのか? 婚約者なのだろう? カリオス」
「えっ?……ああ……フェリーネが怒っていないなら、いいだろうと思っていた」
「心が広いね。カリオス卿は」
そう、話しの腰を折られたシオン卿が、優雅に笑う。
「ヤバイ、リベルトはハークエル卿にも、名前を覚えられてそうだぞ」
「絶対、印象最悪だろう……」
そうざわざわと話しが広がる中、ふたたびシオンが話し始めた。
「先ほどのセイラ様との話しに戻りますが……。
今日、私はおふたりの聖女様のどちらかの、権威を落とすかもしれません。
人々を欺く者が、もしいればですが……。
それはその者を立たせた人物においても、同様にです。
出て来てくださいますか?」
そう彼は少しだけ両手を広げる、呼び込む様に……。
闇をまとう彼は、今は吟遊詩人と言うより、闇の魔術師の様であった。
その時、フェリーネの腰に衝撃が走る。
ミリアが腰に縋りついていた。ここから離されまいとするように……。
「ミリア!?」
「私が、お姉ちゃんが本当の聖女だって証明します!」
「待って、聖女の証明なんて、危険な事に決まっているのよ!?」
フェリーネは体を曲げ、ミリアの顔を見て訴えかける。
けれども彼女はこの土地で、騎士の卵として成長していて、彼女の意志は変わらないようだ。
「お前の出番はないよ、ミリア」
そう黒い騎士服を着こんだカリオスは、ミリアの肩に手をふれた。
「カリオス様! 私が聖女様の騎士なの! オリビエお姉ちゃんの弟子なのよ」
ミリアは振り返り、彼に訴える。
今まではいつも一緒だった。フェリーネはこれからもミリアと一緒に居たいと考え、答えを出すことに戸惑っていた。
「では、聖女の騎士に聞くが、今、お前はフェリーネを守れるのか?」
「私は……」
歯をく威張り、彼女のしっぱが、わなわなとふるえながら上がっていく。
けれど、そのしっぱがたれさがる。
「守れません……、カリオス様、今は私の代わりにお姉ちゃんを守ってくださいますか?」
「ああ、約束する。今回は俺に任せてくれ」
「はい、お願いします」
ミリアは歯を食いしばり、外のマルティーの方へ駆けていく。
そしてカリオスは、フェリーネの手をとりシオンを見る。
◇◇
「俺が変わるか?」
そう言ったのはジェームスだった。
「いいの、あっちへ行ってこれはジェームスの仕事じゃないでしょう?」
そうセイラは無表情に、彼女の母を見ていた。
「どういうつもりなの?! ハークエル卿! 教会に所属してもいない、王族でもない貴方が決めていいことではないのよ?!」
そう継母は、シオンに吠えていた。
「だが、しかし……」
――そう、『だが、しかし』彼女の母の抗議は、逆に聖女としてのセイラを貶める行為だった。もし彼女が本物の聖女としても、彼女の母の失態は生き証人によって伝えられることとなってしまう。
セイラを守る。騎士の彼の言葉は正しいが、現状をセイラが覆すにはあの継母の助けが必要だろう。なぜなら――。
もし騎士の彼をここで受け入れても、アークエルが今後、彼を認めないだろう。
そこの事に罰則はない。ただ、王子の御前で行われら儀式を軽んじたものと陰で言われるだけだろう。
――だから、セイラは彼女の騎士を拒むの? ……ううん、きっと違う。
けれど、それをフェリーネは少しだけ許せないのも真実だった。
そしてセイラが、彼女のままであったら良かったのにとも思うのだった。
続く




