74:シオン卿とフェリーネの継母のアークエルの来訪
辺境の地ライストファーに、国の重要人物が揃い踏みであったので、ローリエと打ち合わせ、危険な魔物形跡がありとした交通の封鎖はすぐさま行われた。
しかし封鎖もかいくぐり、次の朝、驚く事にシオン卿が現れた。
それも、フェリーネの継母のアークエルを伴って。
◇◇
夜が明ける前、宿の前で馬のいななきが騒がしく、何者かの来訪をつげていた。
しばらくすれば、その音を聞きつけたのだろう、カリオスの歩く足音が僅かに廊下に響いていく。彼女は上半身を起し、足を抱え体に近づける。
辺境の地であれば、どんな事が起きるのかはわからない。
しかし、それぞれ役割があり、フェリーネはその役割が来るのを静かに待った。
足手まといにはならない様に……。
けれども、誰もフェリーネを呼びに来る事はなく。やって来ただろう馬車も、宿屋を離れどこかへと行ってしまったようだ。
もしかしたら、戻って来る事のなかったカリオスも……。
――戦った様子もないなら、きっと大丈夫。
そう思い、フェリーネも眠りにつこうとする。
しかし起床の時間間際に、やっとうとうとしていただけで、カーテンから差し込む朝日が頬にあたれば、目を覚まし今日という日を始めてしまう。
◇◇
そしてレストランで食事を済ませ、宿屋の下の礼拝堂で向かう途中、赤い絨毯が引き詰められた受付前を通った。
「今日もよろしくお願いします」
そういつものように、宿屋と、治療の受付としてくださっている、グリムさんに挨拶をする。
聖女の衣装、白のメイド服を着こんだフェリーネは、今朝の事を聞こうと彼に近づいた時――。
「おはようございます。フェリーネ様、オリビア様、あの……、実は早朝、ハークエル様がこの地に到着なさいました」
「シオン様が?」
オリビアは立ち止まり、その頬を薔薇色へと染める。
しかし、すぐにこちらを見て、顔をいつも以上に引き締めた。
「まぁ……、では……オリビア、今日の護衛を変わってくださいませんか? そしてシオン様にいろいろ伺ってください。 セイラが現れた事で、噂がどのように広がっているの気になります」
そうフェリーネはさも、『考えなければいけない事が、多くありますわ』という様子で、唇に手をあて言ってみた。
「あぁ、そうだな。イクリオン家の様子も気になる。その辺の様子も聞いて来よう! だが、今はいろいろな者たちが、この町に居るのだから、グリム様の近くを決して離れないでくださいね!」
「はい、もちろんです」
「フェリーネ様の事はお任せください」
そう職務に忠実なオリビアが、言い聞かせるように彼女に言うのを安全対策バッチリです。そうグリムとアピールし、彼女を送り出した。
そして扉から出て行くオリビアを、見送つた二人はやっとそこで息を抜く。
「良かったですね」
「そうでございますね……。ですが……、実はハークエル様は、セリファス夫人をお連れでして、マーク団長のもとに今いるようです」
「継母が来ているのですか? カリオスは何か言ってましたか?」
「それが……ハークエル様がやってこられてから、皆さん、王国の騎士団の家に集まっているようでなんとも」
その時、扉のノブが動き、ふたりは扉の様子を見て、身構える。
「おはようございます。大丈夫ですよ。僕です」
そう言ってマルティーが顔を出す。彼は、本人が言うように忙しらしく、短かった黒髪も散髪へ行く暇がないようで、後ろで一つに結んで現れた。
「マルティー殿……」
「マルティーさん、シオン卿には会いましたか? 皆さん集まっているそうですが」
「それは歩きながら話しましょうか? もうすぐ患者がやってくるんでしょう?」
「はい、その通りですね」
そしてふたりはグリムに手を振り、礼拝場へとつながる、左奥の階段へと歩きだす。
「シオン卿に何か思惑があるようですね。底がしれない。僕はそう感じます。ほんと、味方で良かったですよ。というか、敵にしても旨味はないだろに、なんだかな……」
「けれど、昔からもっている力ですが、癒しの力を持つ私が居ますし」
そう言ってマルティーを見て、とても小さな声で「決しておごっているわけではないですよ」と、彼女は付け加える。
「いえ、おごってください。安心感が倍増するでしょうから」
「おごりと、責任はセットですから……」
そう、彼女はさも嫌そうな顔をする。
「自信をもってください。おごっていいほど貴方はやってますから。それも難しいようなら、……無口なだけで、おごって見えるカリオス様を、秘書として置いておきますから。それで威厳を保ちましょうか」
「それはいい考えかもしれませんね。カリオスが忙しい時でなければ、アドバイスもしていただけそうですし。それで……継母はどうしてますか?」
マルティーの提案は難しいだろが、とても魅力的で、楽し気だった。けれど彼女にはやはりアークエルの事が気になって聞いてみる。
「元気でしているようですが、カリオス様とは会う事はないでしょうね。多くの人物が、直接会うのは控えた方がいいと考えているようです」
「カリオス様は自身は、もう一人の聖女についてもですが、割り切っているようで、会おうともしていないのですが、しかし血の気の多い者の中には、気が立っている様な者もいるらしく、困った事にならないようジルクさんが説得してまわってますね」
「……けれど、イクリオン家に邪魔をされず、継母から話しを聞けるのは好機なはずですよね。……あっ、そうでした」
「どうかしましたか?」
そう言って彼は階段前に置かれた、魔法用の燭台をフエリーネに手渡す。
フエリーネが、受け取れば燭台に光りが灯り、地下へ続く階段の先を、蝋燭の光よりも明るく照らし出す。
「私、セイラの癒しの力が増した秘密を解き明かすと、セルジオス殿下に宣言してしまったんです」
「あぁ、カリオス様もその結果については、不可解さを感じているようでした。だから、そこに焦点を向けるのは、とてもいい考えではあると思います。
カリオス様の受けた以前の治療では、明らかに治療はフェリーネ様からのみ、力を感じたそうです。
その線から、もう一人の聖女に違和感を持つ者いるかもしれない。
まぁ、その線をから証人を探せそうですが……。
やはり癒しの力が微量しかない事実を、つきつけた方がわかりやすい証拠になりますよね」
教会に居た頃、セイラにももちろん癒しの力はあるが、フェリーネ自身に癒しの力がない事を強調するためにセイラは力を使わなかったのかもしれない。
――けれど、二年前のこの地での治療では、彼女も少ない力を使い精一杯の事をしていたはず。いったいセイラはいつから……。
フェリーネは首を振る。
今は彼女が力を使わなかった理由を考える時ではなく、彼女の真の力自体を知らしめる方法を考える時なのに……。
しかしマルティーが言ように、それが実際彼女に真の力を使わせるしかないのら、セリジオス殿下がそれを放棄してしまうのもうなずける。
――けれど……。
「……この魔法燭台……、魔法石を使い、僅かな魔力で長い時間光を放つように出来ているのですよね? その技術を使い、魔力をアップさせているんじゃありませんか?」
一般的に使われる方法を、フェリーネはまず言って見る。
「癒しの力を引き出す魔法石ですか……。魔法道具も様々ですが、隠されら終わりですね。その魔法石を使い物にならなくするために術者を閉じ込め、魔法石の劣化を待つくらいしか……」
「身体検査などをして探し当てる事はしないのですか? 丁度オリビアもいるでしょう?」
「それは無理です。仮にも貴女がたは聖女で、女神の化身ですよ。それにドレスの採寸をするとは違い過ぎます」
「そうですか……」
「セルジオス殿下の身体検査を、シオン様するようなものです。きっとお許しになさらないでしょう」
そうマルティーは言い、なんておそれおおいと言いたげに両腕を抱いて身震いする。
「それに……たぶんカリオス様も、フェリーネ様に身体検査をする事は許さないでしょうね。疑っている事を隠すのが無難ですね」
「カリオスもですか……」
フェリーネは難しいわ。と考えながら、到着した礼拝堂の準備を始めた。
「おはようございます」
そこにネリアもやって来て、治療の本格的な準備が始まったのだった。
続く




