73:フェリーネへの尋問
その日は、やはり普通の日と違った。
六名ほどの騎士たちの到着だったが、そこに、この国の王子も含まれるなると、町はやはり騒めいた。
しかし相手はやはり王族である。人々寄り添う聖女と違い、無礼討ちもあり得るためか、人々は警戒し、子どもたちは家に入れられてしまったようだ。
そして辺境を治める騎士たちも、見かける事はなかった。
◇
その時間の辺境騎士団は王都からやってきた王子と、騎士に対応をしていた。
彼らのしばらく滞在する場所をどうするか? という問題が起っていた様だ。
辺境騎士はツワモノ揃いで、魔物との戦いで武勲をあげ、地位もそれなりに上らしい。
しかし今回、突然現れた集団は、王都に居る王族であり、そんな王族を守る騎士には貴族の子息も多い。
そうなれば眠る場所について、平常時であれば特に、どこでもいいというわけにはいかない。
現在この町には、マーク団長の計画の結果、兵舎は建設に備え、家を確保してある。
二年の大災害の際に、商魂逞しくやって来た商人が引きあげる際に、残った家を買い取っていたらしい。
その家が現在、この町の辺境騎士団の起点となっていた。
そこは今は備蓄倉兼、仮の住宅になっている。
「しかし、部屋には寝袋が置かれた状態で、ベッドさえなかったのだよ……」
そう同じテーブルを囲む、セルジオス殿下が呆れたって感じを出しつつ話をする。
「はあ……」
「それは大変でしたね」
そう言うオリビアとフェリーネに対し、ミリアは自国の王子に興味があるが、黙って話しを聞いていた。
そこにもう一人、夕食を食べていた自警団の誰かに聞いたのか、血相変えてやって来たカリオスが『夕食を食べに来た』という名目でメンバーになっていた。
「それで……なぜで、殿下はフェリーネたちと、食事をとっているのですか?」
「今、騎士たちは部屋決めをしていてね……。馬で来たものだから、仮設テントも建てられない有り様だよ」
「で、護衛も付けずここで、食事をしているですか?」
「そうだとも」
彼はステーキに付けられた、温かなカップスープを飲みつつ言っている。
突発的な移動、聖女の存在がこの地にいるためか、先程、話にあった毒見係の存在はないようだ。
「許嫁のいる女性の部屋に行くのは、はばかれる。だから食事に現れたら連絡するように、言ってあった。そしてそこに私も現れた。聞けば簡単だろう?」
「騎士たちにそんな手間をさせるくらいなら、俺のところに来てくだされば……」
「尋問は一人ずつが原則だろう? カリオス卿が来たら居座るに決まっている」
そう殿下に言われ、すでにここへ現れてしまってるカリオスは怯む事になった。
その様子をフエリーネは見て、『居座るんだ……』とだけ考えて料理の付け合わせのブロッコリーを見つめ、パクッと食べた。
――いつもの丁度良い塩加減で、美味しい……。
「あの……私もお姉ちゃんと一緒に……尋問を受けていいでしょうか? 教会のことならいっぱい話せます」
「ミリア……」
そう勇敢にも、王位第一継承者に声をかけた彼女、その尻尾は緊張のためか、椅子の下に隠れている。ふわふわに耳も伏せてしまっていた。
「ミリアといったよね? 私は事件を捜査する騎士ではないからね。私の仕事はまだ調整役だからねー。本人たちのの希望のよっては君に聞く事もあるかもしれない。その時はよろしく頼む」
「はい、わかりました」
「ミリアありがとう」
そうフェリーネは言い。ミリアは「うん」と答えてくれた。
その際、彼女はちょっと心配そうにこちらを見たが、フェリーネがうなずくと静かに食事ををとる事を再開する。
◇◇
幾つかのソファと、キッチン用の簡易的な魔法器具。
結局、宿屋の二階を一時封鎖して、その中のベージュ色のソフェに、セルジオスとフェリーネは対峙することになった。
その後ろに控えるのはセルジオス殿下、お付きの近衛騎士らしい。
カリオスたちは部屋を開け、控えているってことになっている。
「では、まずは、質問などあるだろうか?」
「先程の事などですが、調整役というのは? セイラを誘拐したという犯人について、逮捕とかは考えていないのですか?」
「それを含めての調整役さ、セリファス家の中で誤解があるかもしてない。まず、事実を確認し、内々の済ませるところは、それ以降は相手に問わない。そうあって欲しいね」
「問う事ができない……」
重い問いに答えなければならない。そう彼女は思った。
「やっぱり難しいか。慈悲の心で許してくれれば、全てが簡単に終わると思ったんだが……」
彼女は顔は、目の前の人物を落ち着いた表情で見る。
「私は北の生まれですので……」
「そのようだね」
「セオラ女神教団の教えの、女神様の子孫ではないようです。神格化された、北部の治療のできるただ人間の子孫なのでしょう。きっと……。そして私自身が、まだまだ若輩者。ですので、普通の裁判ではだめでしょうか? 専門の方がいらっしゃらなければ、どう収めるかもわかりません」
「駄目だね……。
俺が『断罪を申し渡す』と言い出したら、大体、その俺の意志は通ってしまう。俺の名誉を重んじる為にね。
その逆に、俺を罰する為には、父や、貴族たちの力関係が重要になる。
聖女は女神の代行者として脆くもあるけど、やはり多くの場面で君が守られ、裁く方もそれなり権力を持ち、責任が伴う。
そして司法が、聖女を罰する前提を作るのは、好ましくない。次は俺が罰せられる可能性があるからね」
その話は、聞いた事があった。
社交界に薔薇、サラテート様を罰せられない理由だ。
いつでも、その理由が立ち塞がる。
「ですが……、罰せられない理由によって、他の問題を引き起こしている時は、どうすればいいのですか?」
「そうならないように気をつけてはいるよ。今回は、父が息子を危険な北部へ送り出し、俺自身は危険な崖を飛び越え、問題を早期着手するべくしている。起った過去は変えられはしない。だから要望を聞くことにしている」
「そうですね……」
セルジオスの顔を見ていた、彼女はテーブルの上を見る。
王子の言っている事に、間違いがないだろう。
祖母の死に目にあえなかった事が悲しいです。悔しく、悲しくてもどうしょうもなかったあの日。しかし、それはきっと犯罪ではない。
家庭内の内々の事と、片付けられてしまうのだろうきっと……。
魔物のいるこの時代、大人も、子ども問わず、苦しい思いをするこの時代に、何が犯罪なのだろう?
「こちら側としては、聖女を内密で連れて出した罪も、君が勝手に王都を抜け出した罪も問うたりしない。叙情酌量を比べている時間があれば、治療にせいを出して欲しいという理由もあるが」
フェリーネが言い淀む隙に、どんどん外堀を埋められていくようだ。
「そうですね。王都から勝手に出たのは理由がありました。
あの王都で、私は聖女ではありませんでした。
私は聖女の力を隠さねばなりませんでした。そうしなければ……、ミリアと二人、怖い思いが待っていました。
あの教会で、私と彼女はあまりも何も知らない子どもだったんです……。もし……セルジオス殿下が同じ立場なら許せますか? その環境に置かれる事を……」
「私はそんな環境に置かれはしない。私は守られていたからだ……。
だから、君とカリオスの立場は可哀そうに思うけれど、それが事実だよ。立場だから、不運だからと比べても、人は様々だ。それはどうしょうもない事、だろ?」
フェリーネは、さとられないように、この国で有数の尊い方を見た。
『会話がずれている』いや、ずらされているのかもしれない。
確信へ全く近づく気配がない。相手が王族であるから余計知りたい情報へ近づけない。けれど、カリオス、そして自身の敵は不可侵の敵では決してないはずだった。
「ですが、カリオスは当初、全身毒におかされていました。毒を彼に注いだ者がいるはずですよ。不運ではなく」
「それを誰か大人には?」
「そんな事、やはり誰も教えてくれませんでした」
フェリーネは小さく首を振った。
それでは真実の詳細はわからず、証拠にもなりはしない事はわかていた。
けれども、彼女はそんな事実を積み上げれる。霧散して意味を成さなくなる前に。
――だから、過去をを知ってくれ、優しく癒してくれるだろうカリオスに惹かれてしま……。それだけじゃない。カリオスはかっこいいですから、生き方とかいろいろ。
「けれど、これからは相談させてください」
「いいよ。現在の問題についても触れよう。どうしたら満足?」
「そうですね……。今は幸せなんです。二年前の大災害を経験して、守ってくれる人がいて……」
「そっか改めて、婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
フェリーネは、控えめにニコッと笑う。
「きっと……母もー不安だっただろうけれど、知らないところでこんな幸せはあったと思いたいです。そうでなければ、聖女の祖母がそれを良しとするわけありませんから……」
そこでセルジオスは何かを感じとり、フェリーネを見つめた。
「だから、今のままでは駄目なんです。
現状は、あの頃と何も変わっていないはずです。
一部の有力な貴族が、ただ手の中の幸せを願う者たちの、心と幸せを壊す。そんな未来が待ち受けた過去と。
だから、やはり白黒つける事を望みます。私が犯人となる世界では納得できません。そして母の、そしてカリオスの両親の生きた過去についても同様なのです。
そして、この地へ逃げたのにセイラはやって来た。
過去は、現在となって私たちを逃がしてくれないのなら、この地で静かに暮らすために、チャンスをくださいませんか?
法も、弁護士も頼れないのなら、セルジオス殿下、貴方様縋るしかないのです」
「セイラは、俺がここまで連れ来た。だが、たしかに、あの娘は囚われていたと言って、王都より遥かにライストファーに近いローリエに居たのは確かだ……。きっとそこに何者かの思惑があるのがわかるが……」
「私の知っている知識の中では、セイラにあそこまでの聖女の力はありません。その秘密を解き明かます。そうすれば、今でている結果もきっと変わると思うのです」
そう、フェリーネは言い終えた。
自身は、セイラが聖女であることに、否と言っている。
やはり、事実を表に晒す突破口は、そこにあると思えたからだ。
続く




