72:聖女ロトリアの予言から
カリオスとフェリーネがレストランからでると、受付で座って居た家令のグリムが慌ててふたりのもとへとやってきた。
「カリオス様、フェリーネ様は一体どうなさったのですが?」
誰の前でも穏やかで話すのだろうグリムの、こんな様子は珍しい……。そうフェリーネ本人は考える。
「大丈夫です。昔話をしていて、思い出した事があっただけで……」
「フェリーネ、お前はしばらく話すな」
そう、カリオスの方が辛い顔で話している。
彼女はその彼の頬に触れて……、雨が降った後の湖の様な、少し暗い色に今は見えている彼の瞳を見ていた。
――辛い事があれば治療しますよ。そう思わず言ってしまいたくなる。
「あの……、中にもう一人の聖女様がいらっしゃるのでは?」
宿屋の階段をのぼっていくカリオスに、家令はそう助言をする。
『あっ』
そういう感じで、彼は立ち止まり、彼の右側に立っていたグリムをみつめている。
その腕のなかで、フェリーネはブンブンという感じで首を振った。
そうすると、カリオスはこちらを向いて「フェリーネ……、お前は安静にするべきだ」と、とても過保護になってしまったようだ。
「そういうわけにはいきません。すみません従業員控え室のような場所へ連れてって行ってください。おふたりに聞いて貰いたい事があります。それが終われば安静にします」
そう言えば二人は顔を見合わせ、一階へとふたたび降り、リネン室だろう場所へ三人は入る。
フェリーネの前に、やって来る途中に拾っただろう丸椅子を出され座る。
その横に水が置かれ、ひざ掛けまでかけるか? と聞かれてしまっていた。
その間にもカリオスが、グリルにレストランであった事を説明しながらだから、とても恐縮してしまう。
そして今は、細身であるが、黒い騎士服を着ていて、体に合わせるように切り替えが多く、そこらかしこ金属の金具がついているので少し威圧感のあるカリオスと、燕尾服を着込んでいるが、今だ現役のグリル。
その二人が、体調不調起こすまでの出来事とはなんであるかと、殺気立っている様子に見え、フェリーネは媚びるようににこぉーっと笑った後ってクッションを置いた後、祖母との思い出を話し始めた。
「祖母が今際のきわに予言めいた事を話したのです。
これから生まれる新しい妃を青年が殺す事になるだろうと、妃の容姿はプラリナブロンドの髪、青い瞳であり、彼女に蛇が巻き付いているらしいのです……。
しかし、その話には続きがあるようですが、続きを聞く事は叶いませんでした……」
「殺人者は、俺だろうな……」
「その可能性は高いですが、殺さないでくださいね」
「ああ……」
彼は、彼女の視線に押されてそう同意した。
「そんな予言を、ロトリア様が今際の際に……、ではその予言は今も有効なのですね」
「たぶんそうだと思います」
フェリーネがそう言うと、カリオスが新たな質問を問い掛ける。
「では、セルジオスの知っている、セリファス家の主であるライネアの結婚の流れについて教えてくれないか? お前ならその当時の事知っているだろう」
「そうですね……」
そう言いちらっとフェリーネを見た。
「お願いします話してください」
「そうですか。では、私の見たセリファスの話を聞いてください。
その当時、セリファス家は久しぶりに誕生したと言われる聖女ロトリア様がいらっしゃいました。
彼女は生まれた頃、もしくは生まれる前から決められたご主人に、先だたれたばかりで、大変苦労をしてライネア様を育てていたようです。
その彼女の御子息が、イクリオン家のアークエル様をパートナーとして、社交界へ顔を出している。そう噂を聞く事ようになりました。
当主様にとっては、イクリオン家一強の時代の到来を意味し、頭の痛い話題だったでしょう。
しかしある日、ローリエ家から届いた結婚式の招待状の新郎の名前の欄に、セリファス家のライネア様の名前がありました。
その時のカリオス様のお爺様は大変喜びになり、大変大事にしていた現当主の妹姫である、カリオス様のお母様をつれていくと食事の最中上機嫌で話されていました。
それはカリオス様のお母様も同様でした。
抗議の為か、イクリオン家は誰も出席なさらず、それは王妃もう同様でした。ですから……、ご当主様も地位の高い方々と、自慢の娘を引き合わせるチャンスと捉えたようです。
そして招待状にあった予定日に近づき、二人は南方にあるホークニングから王都よりさらに遠い、北部の辺境の地ローリエへと旅立ったのです。
イクリオン家の親族は誰も参加をなさらない。これほど安全な機会は無いように思われました。
しかしその中で一名、イクリオン家と深い関係のある方が……」
そう静かに語る家令グリムに対し、カリオスは静かにふたたび問い掛ける。
「父か……」
「はい、そうでございます……。お嬢様は『素敵な中庭で、素敵な人にあったのよ』。
そうおっしゃってました。箱入り娘であったあの方です。
出会った人物が、王であったのかすらわからなかったかもしれません。
そしてお嬢様はその歴史学者顔負けのその知識を買われ、引き抜かれる様に王室で働く事に決まってしまった。
当時、あの城の者は誰も皆、頭を捻りました。
大奥様に咎められ、秘密にしていた事実を誰が知りえたのか?
しかし三か月後の、嵐の夜の秘密裏に訪れた来客者の、思いつめた横顔を見た私に思い浮かんだのはお嬢様の安否の心配でした。
その後の運命に、暗雲が広がる荒れ狂う海見て、心安らかではいられない。
そんな気持ちが、感染するよりに屋敷内で広がっていくのです。
それは新しいく寵愛を受ける側妃の誕生を知らせるには、なんとかけ離れた事か。
それでも、王とお嬢様は幸せだったのでしょう。
時を経て、懐妊の知らせが届きました。
それから街は、約一年違いのふたりの女性のご懐妊、そしてお子様の誕生を心待ちにする様になりました。
これで守るべき命は五つになったのです。
お嬢様、カリオス様、フェリーネ様、フェリーネのお母様、そして聖女であるロトリア」
「馬鹿な、そんな状態なら捕まえるべきだろう?」
「止められない状況下にありました。北からの魔物の進軍です。
もちろん2年前ほどのような、大災害ではありませんでした。
しかし聖女は孫の誕生の為に出陣を拒否、いえ、もしかすると王自らそう頼んだのかもしれません……。
その居ない合間を見計らう、女狐たちを無惨に殺すには、イクリオン家は大きくなり過ぎていた。
聖女の居ない討伐は、全力だねばならない。
そして結界をはる王家の者も、あの状態ならやはり二名必要だったのです。
すべての要員が、王を戦場へ駆り立てる為のものでしかありませんでした。
だから向かわねばなりませんでした。
妻と子を現王に任せて」
「そして俺が残ったのか……」
「そうです。不特定多数の入り込む教会には、安全はなかったようです。しかし、ローリエから怪我人は運び込まれ治療を止めるすべがなかったのでしょう。
だから孫がいる教会を離れず、もはや危険な場所になってしまった王室にも出向く事は出来ず。
もしかしてお嬢様は選んだのかもしれません。自分が逝く事を、そうすれば憎しみは……、薄まるかもしれないと……」
「そうか……、母はそんな方だったのか……」
――カリオスは上を見ていた。彼の母がいる天界をみているようにも思え、泣くのをこらえているようにも見えた。
フェリーネは椅子からすくっと立ちあがり、カリオスの腕にしがみつく。
「大丈夫、私が居ます。一緒にこの計画を成功させましょう」
そういうと、彼は、フェリーネのおでこにグリグリと、自らのおでこを擦り付けるようにして……。
「痛い……」
そう言っておでこを、両手で押さえるフェリーネを上から眺め。
「結婚すれば、俺が代わりの弁護士と話をつける事もできる。無理をするな」
「それは何とも気の早い話ですね」
そうあっけらかんと家令が言う。
「だが、先ほど婚約については、セルジアスたちに話したとこだ」
彼の家令に対し、どちらかと反抗的と言ったいい方をすると、グリムはしばらくカリオスの顔を見つめる。
「そのような事が……、これは、これはおめでとうございます」
そうなんだか、煮え切らないという感じで言うのだった。
「そして、仮な話として聞いていただきたいのですが、もし、フェリーネ様のお母様の存在が無かった場合、五つ命のうち残りの三つすべて亡くなっていた可能性さえありますが、予言の通りならカリオス様だけ助かった可能性が高いのでしょう」
「あ……」
「あってはいけない……」
フェリーネが毒に侵されていしまっていたカリオスを思い出した時、カリオスの一人ごとを聞いた。
「そう……思うだろう。もしだ、二年前の大災害で、フェリーネが居なかったらこの町はなかったのかもしれない。
王国騎士団、ローリエの騎士団の大多数の者が戦死し、この町を守る事ができず、ただ……生き残されたのなら、イクリオン家など必要ない。
殺す道理も必要ない……ただ、殺すためにそう思っていただろう」
「大丈夫、私は生きてここにいますよ」
そう温かなカリオスの頬に、触れれば、その手の上からカリオスが手を覆い二人は見つめ合っていた。
「カリオス様、フェリーネは私にお任せください。もう一度もどり会議に出席し、未来を切り開くばきです。」
「……、そうだな。行って来る。フェリーネを任せた」
そう言いカリオスは言ってしまった。
そして彼女は家令のグリムに連れて行かれ、部屋へ帰ることになっる。
赤い絨毯のひかれた廊下で、グリムは呟く。
「カリオス様は人を寄せ付けない所が、おありですが、とても心の温かいお方です。大変奥手の方だったようですが……」
そう言って、ため息をつく。
「そですか? 頭を撫でられたり、握手を好まれるようですが……」
そう言うと、ダリムはしばらく固まった。
何が、彼をそうさせたかわからないが、彼はフェリーネを開けた扉の前に置き、安全確認をして帰って行った。
フェリーネは鍵を閉めると、ベッドへ寝っ転がりしばらく目を閉じる。
――私の存在がカリオス様の為になっていた。
やはり、凄く、とっても誇らしい……。
しばらくして、部屋に微かに寝息の音がするのだった。
続く




